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視覚透過装置  作者: 小川藻
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 帰宅後、朋彦の通信装置に経時簡易短信で浅尾から「今日は楽しかった。ありがと。今度はご飯食べに行こう」と着電があり、可愛らしい絵図が添えられていた。浅尾は短信では哉子のことには触れない。



 よく考えれば、すぐに連絡が付くのだ。通信装置という便利な道具もある。そして、すぐに行けるのだ。



 朋彦は通信装置に触れて、哉子の連絡先を探す。ちょっと前に流行ったアプリケーションに彼女の連絡先がある。中学校のころの手段だが、全く問題ない。



「久しぶり。今家にいる?」



すぐに返事が来る。



「なんしたのさ」



朋彦は頭の中をシンプルにして言を返す。



「ちょっと話ししたいから、哉子の家に行っていい?」



そして、送信してから少しだけ緊張する。



すぐに返事が来る。



「いーけど」



 雪がちらつく表通りを歩いて、哉子の家に着く。



 呼び鈴を鳴らす。哉子は玄関先で待っていたようで、時を措かず門扉が放たれる。



「うーす」


「どうも」


「さみーな」


「部屋着だからでしょ?」



 朋彦は冷気を外套に纏って屋内に入る。



 奥にいるであろう家族にわかるように、大きな声で挨拶する。昔からの礼儀だ。哉子はこれを無視するかのように階上へ歩みを進める。



 ドアを越えて哉子の部屋に入る。この前透かし見た風景が眼前に広がる。哉子の匂いと、多分煙草の匂いがする。哉子はベッドに腰掛け、朋彦はテーブルの傍らに座る。


「学校辞めるの?」


「うん。妊娠した。相手は堕ろせっつーて喧嘩して別れた。……でも感じとしては生みたいんだ」


「辞めなきゃダメなの?」


「私もそれ担任に聴いてみたんだけどダメってわけじゃないけど周囲の目があるし、それにさ、十勝と釧路にそういうことになった女の人が行く施設があるんだ。一緒に住んで子ども産んだ後も育てながら半分仕事、半分勉強して自立していく専門学校みたいな」



 あちらは好景気に沸いているからそういう事情のある女性も多いのだろうと朋彦は想像する。哉子が「印鑑って見たことある?」と言うから、朋彦は「親が使ってるのしか見たことないよ」と応える。



「お前は頭いいから見たことあるかもだが、私は印鑑を初めて見た。紙の契約書にさ、何か所も押すんだぜ。お互いにページの折り目ごとに。ありゃあ、あとで紙を入れ替えたり外したりしたらすぐわかるようにしてるんだな。赤い丸いインク入れに印鑑をぽんぽん附けてぽんぽん押すわけだ。池田って所の施設に行くことになったんだけど、そこでうちの親が畏まって時間かけて印鑑押していた。なんかそれ見てたらさ、高校生活終わったなーって」


「親はなんて言ってるの?」


「お前もほかのやつとおんなじようなこと言うんだな。堕ろせってさ。私がそのつもりないから揉めた。施設見学に行く途中の車内の雰囲気最悪」


「高校にいられるんだったらもう少し考えてたって……」



 哉子は、朋彦の言行が気に障ることを長い手脚で示すように振る舞い、傍らにある潰れた煙草の包装から一本を取り出す。朋彦が見つめる中で、伝熱式の着火装置で流れるように火をつける。吸気と呼気に煙が伴う。



「ちょっと煙草は……」


「うっさいんだよ! 当たり前のことしか言うつもりないならもう帰れよ」



 煙草を持った手で頬杖をついて睨むように朋彦を眼差し語る。



「なんだよ折角来たのに」


「用もないのに来んじゃねーよ」



「そんなん言うなら……もう帰るわ」



 勢いのままにドアを開けて階段を下りて、大きな声で一階奥と二階の哉子に届くように挨拶をして靴に足を通して扉を開けて、立ち去る

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