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視覚透過装置  作者: 小川藻
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 次の日、クラス移動の際に、朋彦は遠くに哉子の姿を見かけた。だがその次の日とさらに次の日。哉子は学校を休んだ。そのころには、噂に疎い男子連中にも哉子が妊娠して退学するという噂話が立ちあがっていた。



 午前の長い休み時間、朋彦はクラスメイトの男子とこの話をしたが、当たり障りのない内容にとどまって、すぐに二週間後に迫る期末テストの話題に移ってしまった。



 古典の移動教室の直前、友人である高橋と平田とこの話題をしたけれども、すぐにそれはいつものゲームの、期間限定のキャンペーンの話題にとって代わった。



 朋彦は古典の授業中に暇を持て余して考える。大きな波にはならないのだ。学校と言う日々の繰り返し。すなわち、登校して授業を受けて休み時間に休んでまた授業を受けて昼飯食って授業を受けてしばらくして部活動して家に帰るという繰り返しのなかでは、妊娠や退学と言うものなどはあまりにイレギュラーで、これらのイベントからなる噂は繰り返しのイベントに上手くくっつかない。



 勉強がどうとか、クラスでの誰それの何がどうとか、そうした高校にくっつく話題のほうが、ここでは強い。



「ねえ、今度の週末さ」


「ん?」


「週末、二人で遊びたい」


「デート?」


「うん」


「部活午前で終わるからそのあとで行くか」


「あの……」


「行きたいとこ?」


「うん。博物館行きたい」


「山部の?」


「そう! いい?」


「良いよ。子供のころ行ったっきりだなー」


「嫌じゃない?」


「なんでさ」


「子供っぽいかなーって」


「全然いいんじゃない?」


「じゃ一時半汽車で」


「わかった」



 午前中の練習が終わり、朋彦は家に帰って風呂に入る。簡単に昼飯を食べる。



 さて、デートに着ていく服がない。選択肢のあまり多くない私服を適当に選び、通学でも使用するマフラーを身につけ、ヨーカドーで買った外套を羽織る。一時三分前に家を出る。外は冷え込み、マイナス二ケタまで温度が下がっていることを肌で感じる。



 JR北海道富良野駅は、出入りの貨物列車でそれなりに活気がある。景気のいい釧路や帯広に物資を運んで行ったり、あるいはそれらの都市から生産物がもたらされる。道東方面との物流の連絡は、ながらく石勝線という富良野市を通らない路線が選ばれてきたが、昨今の好景気により、古えの連絡路である根室本線もまた活況を呈している。



 朋彦は、業者の人々が出入りするのをかきわけて、待合室に入りこむ。業者の他は学生が多い。待合では、北海道の開拓時代によく用いられたストーブに似せて作った、レトロな暖房器具が起動している。



 みどりの窓口では、物資の積み込みに関する煩雑な電子伝票を用いた処理が、制服を着たJR職員により行なわれる。待合の気温は高くない。少しだけ、吐く息が残る。



 朋彦は思わず暖を取るためにストーブに近付こうとして、待ち合わせの相手がいることを思い出す。徒歩と寒さとの単調さで、これから何をするのかぼやけてしまっていたのだ。



 慌てて周りを見渡す。待合の端っこ、入口からすぐ左の奥の古い木製の長椅子に浅尾が座っている。右手をダッフルコートに突っ込み、左手では電信装置を弄っている。



 浅尾は登校の際に着用するコートと赴きの似た、栗色の私用のコートを着ている。灰色のチェック柄のスカート。黒のタイツに同じく黒の可愛らしいアンクル丈のブーツ。ふわふわのマフラー。手袋はいつもの。



「お待たせ」


「いこっか」

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