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視覚透過装置  作者: 小川藻
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「荒木君、あの、好き」


「ええ?」



 遅番の部活動を終えて教室に忘れ物を取った帰り、淡いLTGライトの廊下で、朋彦は浅尾から突然語りかけられた。



「俺?」



 浅尾はやや時をおいて「うん」と言いつつ小さく頷く。頷きが小さかったのは、すでに顔を俯かせていたから。



「えっと浅尾さん、そしたらさ、ちょっと飲みものでも飲みながら話をしようよ。俺、委員会一緒だけど……ぜんぜん、あんまり、話したことないし」


「う、うん」



 ヨーカドーまで自転車押して歩く道中、二人には全く会話がなかった。朋彦は何度も会話の糸口を探っていたけれど、いつもの委員会へ行く途中のようになってしまっていた。ヨーカドーの傍らに二人して自転車を止める。似たようなタイミングで施錠する。



 朋彦は、緊張するべきところであるにも拘わらず、二人揃って自転車に同じような姿勢で施錠するしぐさをちょっと間抜けに思えてしまい、それでちょっとだけ冷静になった。勇気を出して告白することの重みを受け取った。



 店内は明るい。フードコートの偽スターバックスの前にたどり着く。



「よく来る?」と朋彦から話しかける。


「たまに」


「俺はさー、ここのアイスコーヒーが好きなんだ。真冬でも飲んでる」



 浅尾はこれに対して何も語らない。朋彦は言葉を重ねていく。



「Bセットにするけど、どーする?」


「私もBセットで、飲み物は……グレートハードヴァリアントカフェモカにする」



 席について、浅尾が沈黙するであろうことを見こして、朋彦は言いたいことを言い切ってしまうことにした。



「あの、あのさ。さっきも言ったけど、俺あんまり浅尾さんのこと知らないんだけど、けど浅尾さんのこと別に嫌いじゃないし、だからこれからこうやって会って、色々話してみたいんだけど」


「うー」


「気に入っていただけるか解りませんが」


「うん、ありがとうございます、はー」



 浅尾は小さく会釈する。




 次の日、古典の授業のために朋彦が教室を移動すると、友人の高橋が語りかけてきた。



「おい朋彦お前彼女ができたんだってな」


「おわ、もう知ってんのか?」


「さっき知った」


「どうやって?」


「女子が話してた」


「ああ」



 そこに、平田が加わる。



「ひひh、朋彦お前、あの陸上部の浅尾、さんはさ。スポーツしてるからウエストとか足首のラインとか……、ひひhハイソックスがよく似合う、娘さんだねえぇぇ……」


「平田、お前は一生彼女とかできないんじゃないかと俺は極めて不安になってくるよ」



 数日後の夜、朋彦・平田・高橋がよく遊んでいる都市空間を彷徨うオンラインゲームに、浅尾が招かれていた。普段夜何をしているのか浅尾に聴かれ、朋彦がゲームについて答えたところ、浅尾からそれをやってみたいと言い出したのだ。



 朋彦が妹の宿題を一緒に解いていたためにやや遅れてログインすると、浅尾と思しきハンドルネームのキャラクターが平田と高橋と三人で簡易チャットで会話しているところだった。



 平田のアバターが、浅尾に良い装備を分け与えていることが履歴から分かった。平田の種族・職業ではあまり使用しない装備をおすそ分けしている様子だ。だが会話はだいぶ怪しい。



「僕は姫の騎士ナイトだ。必ず姫をお守りしまする! お守りし申し上げまする!」



 平田はオタク過ぎて女子と話したことがほとんどない(まったくない)。このため朋彦の彼女を姫扱いしている。



 地面が凍って、それに雪が降って、自転車通学ができなくなった。朋彦と浅尾は、部活終わりに時間を合わせて、歩いて二人で帰ることを繰り返していた。浅尾は小説をよく読むことを朋彦に告げていた。朋彦があまり小説を読まないことを婉曲に伝えると、浅尾は一冊貸すことを提案する。



 朋彦は、ちょっと前にテレビでやっていたドラマの原作小説を借りることにした。新書とは趣の異なる文字の連なりを愉しんだ。



 夜遅くに、浅尾から経時簡易短信が届く。高校では、ずっと昔に人気のあった音楽を掘り起こして共有することが流行っており、浅尾が自分のお気に入りを送ってきた。台風クラブ(変な名前だ。だがこの時期のロックバンドはみんな大体変な名前だ)の「ついのすみか」という曲。情けないような日本語の歌詞。歌詞と、リズムの感じ? が好き、と短信に添えられる。二分強の曲を聴き終わり、朋彦は良かった旨を返信する。それで、もう一回聴き直す。

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