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食べたい  作者: 白真 玲珠
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 2年前の4月、真愛は家庭科室の前に立っていた。

(ここが料理同好会だよね……よーし)

 真愛は意を決して扉を開ける。

「すみませーん。料理同好会ってここですか?」

「はい、そうですけど……。あ、もしかして新入生の子?」

「え!新入生?あーっ、ほんとだ、なんか新入生っぽい」

「まあ、新入生じゃなかったら放課後にこんなとこ来ないでしょ」

「ほんとそれ、顧問も滅多に来ないぐらいだしね」

 真愛が、家庭科室に入った途端、中にいた女子生徒達が口々に話しながらそばに集まってきて、瞬く間に真愛は女子生徒達に囲まれてしまった。

「ねえねえ、君、新入生だよね?」

「見学?それとも、入会希望?」

「なんで料理同好会に来たの?」

「名前は?なんていうの?」

 矢継ぎ早に質問され、真愛が固まっていると

「ほらほら、あなた達、新入生が困ってるじゃない」

 落ち着いているが、よく通る声が彼女らの質問をさえぎった。

「ごめんね、驚かせちゃって。この子達、ずっと新入生が来るのを楽しみにしてたみたいで、さっきからその話題で盛り上がってたから」

 その声の主は、真愛にそう話しかけながら、ゆったりとした足取りでこちらに向かって来る。

「それじゃあ、改めて聞かせてくれる?まず、あなたは見学?それとも入会希望?」

 真愛は突然の出来事に呆気にとられながらも、なんとか答える。

「あ……、はい、えっと、入会希望です!」

「入会希望ね。じゃあ、入会届を持って来るからちょっと待っててね」

 そう言って彼女は入会届を取りに行った。

「それじゃあ、ここに名前と、学年とクラス、あと連絡先を書いてね」

「はい」

 真愛は、言われた通り名前、学年とクラス、そして連絡先を記入し、彼女に手渡した。

「なるほど、紅村真愛さんっていうのね。私はこの料理同好会の会長、御山おんやま朱音あかねよ。これからよろしくね」

  そう言って朱音は微笑みながら自己紹介をした。

「あっ、はい!よろしくお願いします!」

 真愛も慌てて返事をする。

「じゃあ、早速だけど、料理同好会について説明するわね」

 そう言って、朱音は料理同好会の活動内容について一通り説明した。

「さて、説明はこれで終わりだけど、何か質問はある?」

「あ、いえ、特にないです」

「そう、じゃあ、今日は特にやることもないし、帰ってもいいんだけど、どうする?私たちは、誰か来るかもしれないからまだ残るけど」

「じゃあ、私も、もう少し残ります」それから、料理同好会のメンバーと真愛は、新入生を待っていたが、誰も来ないまま一週間が過ぎ、この年の料理同好会の一年生は真愛のみとなった。料理同好会の活動場所である家庭科室は放課後使用されることはほとんどなく、自然と放課後の家庭科室は料理同好会の活動がなくてもメンバーが集まる場所になっていた。

 料理同好会は真愛を含め全員で7人だけだったため、文化系の中ではメンバー同士の仲が良いほうだった。とくに朱音は真愛のことをまるで妹のように可愛がっていた。そのため、真愛は自然と朱音のことを姉のように慕うようになっていった。

 ある日、真愛は朱音から声をかけられた。

「真愛ちゃん、今週の土曜日、空いてる?もし良かったら、私の家に来ない?」

 朱音からの誘いに真愛は予定も確認せずに即答した。

「はい!もちろん行きます!」

「じゃあ、今週の土曜日、午後7時に私の家に来てね」

 土曜日、午後7時前、真愛は朱音の家の前にいた。胸の高鳴りを抑えながら、真愛は朱音の家のインターホンを鳴らす。

──ピンポーン──

 程なくして、玄関の鍵が開く音がして、エプロン姿の朱音がドアを開けて出てきた。

「いらっしゃい、真愛ちゃん。さあ、上がって」

 朱音は笑顔でそう言って真愛を招き入れる。

「お邪魔します」

「真愛ちゃん。実はね、あなたに見せたいものがあるの。こっちに来て」

 そう言って朱音は真愛について来るように促す。真愛が促されるまま朱音についていくと、ダイニングルームについた。そこにはテーブルがあり、大きな布が掛けられていた。布は盛り上がっており、下に何かあるようだった。

「この下に見せたいものがあるの。さあ、真愛ちゃん、座って」

 朱音は、真愛にテーブルの前のイスに座るよう促す。真愛は朱音に言われた通りに座った。

「じゃあ、準備はいい?外すわね」

 そう言って、朱音はテーブルに掛かっていた布を一気に外した。

 そこには数々の肉料理が並べられており、その中央には、少年の生首が鎮座していた。

「ひっ……!」

 真愛は目の前のあまりの光景に短く悲鳴をあげる。

「どう?真愛ちゃん。私が作ったのよ」

 朱音は微笑みながら、真愛に話しかける。

「あ、朱音先輩。こ、これって……」

 真愛は、恐怖に震えながらも、なんとか声を絞り出す。

「ああ、真愛ちゃんは知らなかったわね。彼は矢田やだ)雄一ゆういち君、私の彼氏よ」

 朱音はまるで人を紹介するかのようにそう言った。

「そ、そうじゃないです!これって、朱音先輩がやったんですか?」

 真愛は恐怖を押し殺し、朱音に問う。

「そうよ」

 朱音は平然とそう答える

「どうして……」

 真愛が言い終わらないうちに、朱音が真愛の言葉を遮って答える。

「愛しているからよ」

「えっ?」

 真愛は意味がわからず、思わず聞き返す。

「私は彼を心の底から愛しているわ。だから永遠に一緒にいたいと思ったの。愛する人とずっと一緒にいたいって思うのは当然でしょう?」

 朱音はいつものように微笑みながら答える。

「一緒にいたいなら、なんでこんなことをしたんですか?」

「私は、彼とどうしたら永遠に一緒にいれるかを考えたわ。でも、考えれば考えるほど、どの方法も確実じゃないことが分かっていったの。最後にたどり着いた答えは、彼と一つになるということ。そのために一番いい方法は、私が彼を食べるか、私が彼に食べられるか。そうすれば、私は彼と一つになって、永遠に一緒にいられるのよ」

 朱音は雄一の首を胸に抱きながら、そう答え、

「ねえ、真愛ちゃん。この気持ち、分かるでしょう?」

 真愛に同意を求めるように問いかけた。

「そうですよね。朱音先輩の言う通りです。好きな人とずっと一緒にいたいって思うのは当然のことですよね。分かります、先輩の気持ち」

 真愛は、朱音がまるでそれが当たり前のことのように──実際、彼女にとっては当たり前のことであった──微笑みながら、穏やかな声で言うため、それが正しいことのように感じていた。

「ふふ、真愛ちゃんなら分かってくれると思ってたわ」

 朱音は満足そうな笑みを浮かべながらそう言った。

 その後朱音は、テーブルに並べられた肉料理をゆっくりと、味わいながら食べた。その様子を、真愛はどこか羨ましそうな表情で、ただただ見つめ続けていた。

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