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食べたい  作者: 白真 玲珠
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 4月、新年度が始まり、ほとんど全ての部活動や同好会がたくさんの新入生で賑わうなか、紅村(こうむら)真愛(まい)は部室である家庭科室で一人椅子に座っていた。

(はあ……、誰もこないな……)

 真愛はため息をついた。

(うちは部活として認定されてないから、勧誘もできないし、入学式で紹介はしたけど、私一人しかいないから印象薄かっただろうな……)

 そのようなことを考えながら、一人部室でぼーっとしていると

「あの……、すみません」

 不意に入り口の方から声が聞こえた。

「へっ?あっ、は、はい!」

 どうせ誰も来ないだろうと完全に油断しきっていた真愛は、突然のことに驚き間抜けな声を出してしまった。

 真愛が声のした方に目を向けると、少し気の弱そうな少年が入口の前に立っていた。

「ここって、料理同好会で、あってますか?」

 彼は、その場に立ったまま、遠慮がちに尋ねてきた。

「はい、そうですけど……。あっ!もしかして、新入生?」

 真愛は突如訪ねてきた彼が新入生だとみて、目を輝かせて言った。

「見学?入部希望?まあ、どっちでもいいか。とりあえず座って」

 真愛は、新入生と思われる少年に座るよう促す。

「あ、失礼します」

 彼は、やはり遠慮がちに家庭科室へと足を踏み入れ、入り口近くの椅子に座る。

「それで、見学かな?それとも入部希望?」真愛は少年の近くの椅子に座り尋ねる。

「あ、えっと、入部希望です」

 彼は答える。

「え?本当⁉︎じゃあ、入部届持ってくるから、ちょっと待っててね」

 真愛はそう言って、入部届──同好会のため正しくは入会届である──を取りに行った。

「じゃあ、ここに名前と、学年とクラス、あと連絡先を書いてね」

 彼女は満面の笑みで少年にそう言った。

「はい」

 彼は真愛から入会届を受け取り、名前、学年とクラス、連絡先、と記入し真愛に手渡す。

「えーっと、小林……(さとし)君でいいのかな?あっ、自己紹介まだだったよね?私は紅村真愛、料理同好会の部長、いや同好会だから会長?まあどっちでもいいか。これからよろしくね」

 真愛はそう言ってから

「と言っても、まだ私と君しかいないんだけどね」

 と付け加えた。

「さて、それじゃあ料理同好会の活動について説明するね。まずうちの主な活動は、当たり前だけどいろんな料理を作ることです。それで、食材についてだけど、これは部員が各自調達します。家から持ってきてもいいんだけど、生ものとかだと特に夏場はすぐに傷んじゃって使えなくなっちゃうから、近所にあるスーパーやコンビニで調達するのが基本です。説明としてはこんなところかな、同好会だから大会にも出てないしね。何か質問とかある?」

 真愛はひとしきり喋ってから智にそう問いかけた。

「あの、顧問の先生は誰なんですか?」

 智は、真愛が説明しなかった一番重要なことを訊ねる。

「ああ、そうそう。うちの顧問は小山先生なんだけど、あの人うちの活動に熱心じゃないし滅多に顔出さないから、挨拶とかはわざわざしに行かなくていいよ。あ、入部届は私から先生に渡しておくね」

 真愛は今の今まで忘れていたというふうに答える。

「ありがとうございます」

 真愛は微笑みながら続ける。

「どういたしまして。じゃあ、他に質問とかなければ、今日は特にやることもないし、ここにいてもいいし、帰ってもいいよ。私は、まだ誰か来るかもしれないからしばらくここにいるけど、小林くんはどうする?」

 智は少し考えてから答える。

「僕も、もうちょっと残ります」

 真愛と智は、その後1時間ほど部室に残ったが、その日は結局誰も来なかった。

 その後も、真愛は毎日部室で誰か来ないかと待っていたが、とうとう誰も来ないまま一週間が過ぎ、勧誘期間は終わりを迎えた。このころになるとほとんどの一年生は入る部活を決めて、入部届を提出しているため、その年の料理同好会は真愛と智の二人だけの活動となることがほぼ確定した。

 料理同好会の活動初日、真愛と智は食材の買い出しに出かけていた。

「でも小林くんがうちに入ってくれて本当に助かったよ」

 買い出しの帰り、真愛は不意に話し出した。

「うちってこれまで男子がいなかったから、買い出しとかで重い荷物がある時は大変だったんだよね。だから、君のことはけっこう頼りにしてるんだよ」

 真愛からの思いがけない言葉に、智はつまりながらも返事をする。

「は、はいっ!ありがとうございます」

 智が料理同好会に入ってから、しばらく経ったある日、智は真愛に対してある質問をした。

「紅村先輩、料理同好会って前からこんなに人数少なかったんですか?」

 突然の質問に真愛は少し驚いたような表情を見せる。

「どうしたの?急に」

 智は質問の理由を真愛に説明する。

「いえ、うちって二年生のメンバーがいないじゃないですか。だから、前から人数少なかったのかなって思って」

 真愛はその説明に納得したように頷き答える。

「あぁ、なるほど。えっとね、うちって私が一年だった時、三年だった先輩が一年生の時に創ったらしいんだけど、私が入った頃は全員で7人だったかな。けっこう活気あったよ」

 真愛の答えに、智はさらに質問を続ける。

「そうだったんですか。じゃあ、その頃は小山先生ももっと活動に熱心だったんですか?」

 真愛は首を横に振りながら智からの質問に答える。

「ううん、あの人は私が入部したころにはもうあんな感じだったよ。先輩の話だとはじめからあんな感じで、冷蔵庫使わせてもらえるように申請書にサイン貰いに行ったら、秒で貰えたらしいしね」

 こうして二人きりの同好会活動をしていく内に、真愛と智はいつしかお互いを名前で呼び合うようになり、二人は恋人同士となった。12月24日、クリスマスイブ、街にはイルミネーションがきらめき、カップルで溢れかえるころ、真愛と智は真愛の家にいた。

「ねえ、智くん。智くんは、私のこと愛してる?」

 真愛は智に寄り添いながらそう問いかける。

「今さら何言ってるんですか?真愛さん。愛してるに決まってるじゃないですか。そういう真愛さんは?」

 智も真愛に同じことを問いかけた。

「もちろん、愛してる。だからね、智くん、一つになろう?」

 そう言うと真愛は智を押し倒し、自分の首からネックレスを外した。そしてそのネックレスで、智の首を絞めた。


 数々の肉料理が並べられた食卓を前にして、真愛は、うっとりとした表情を浮かべながら智の首を胸に抱き、愛おしそうに頭を撫でながら呟く。

「智くん、やっと一つになれるね……。私たち、これからはずっと一緒だよ……」

 そして、真愛は智の首を食卓の中央に置くと、食卓に並べられた肉料理を、ゆっくりと、味わいながら食べた。

 その日の深夜、もうじき日付が変わろうかという時間、真愛は悩んでいた。

(どうして?満たされない。私は、智くんと一つになりたいと心から望んでいた。だから彼を食べた、そしてようやく私たちは一つになれたのに、なんで満たされないの?なんでこんなにも虚しいの?)

 そして、真愛はある人物のことを思い出していた。

(朱音(あかね)先輩、どうしてですか?どうして私は満たされないんですか?私と先輩では何が違うんですか?)

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