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最強の姫と学園生活  作者: へのへのもへじ
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1-2

「私はメリル・デア・テルオルン」

 三人掛けのソファの真ん中で自分の胸元に片手を置いて名乗る。

 先ほどから動作の一つ一つに気品のようなものを感じるが・・・。長い金髪に白いドレスを着たその姿は、よくある二階建て一軒家の我が家には、なんともミスマッチだ。

 いま、俺と姉さんはソファに座る姫様の前に立ち尽くしている。

「そして・・・」

 まだ困惑の色がぬぐい切れない俺たちを気にも留めず、姫様はソファの左側で微動だにもせず直立不動のメイドに手を向ける。

「彼女は昔から私の身の回りの世話をしてくれているアルマだ」

「メリル様のお世話係のアルマです」

 紹介されたアルマと呼ばれたメイド服の少女は小さくお辞儀をする。

 何がどうなっているんだ?この二人は向こう側、異世界の住人のはずだ。どうしてここにいるんだ?

 考えれば考えるほど、余計にわからなくなる。

 問いただしたいけど・・・。

 ちらりと隣を見る。

「・・・」

 さっきから腕を組み、黙って姫様の言葉を聞いている我が姉。

 俺が異世界に行っていたのは春休みの一週間くらいの間。仕事で家を空けがちな姉さんは俺がこの世界にいなくなっていたことを知らない。

 ・・・ていうか、今日も仕事で帰らないはずだったんじゃ。この明らかにおかしな状況なのに何も言わないのも気になる。

「・・・ところで姉さん。仕事は?」

「ん?・・・ああ。これが職場に届いていたらしくてね」

 姉さんはスーツの内ポケットから封筒を取り出し、それを渡してくる。

「これは?」

「この子たちの留学に関する書類」

「・・・は?」

 ・・・りゅう・・・え?

「ちょっ、は?!留学?」

 何言ってんだ?!声に出しているつもりが、あまりの衝撃に声にならない。

 思考回路がショートし始めている俺に、やり取りをニコニコと眺めていた姫様が、

「だから、お世話になるって言ったじゃないか」

 と、とどめを刺す。

「おま・・・!」

 異世界の人間がどうやって。

 言おうとして口を閉じる。姉さんの前で下手なことは言えない。

 姉さんは「・・・はぁ」と片手で頭を押さえるようにしながらため息をついた。

「父さんの仕業かもしれないわね。何度も連絡してるけど相変わらず連絡は取れないし、いつも自分勝手ばかり」

 姉さんは親父のせいだと思っているようだ。

 親父・・・。最後にあったのは、まだ俺が小学生のころ。それ以来、たまに手紙のをよこすくらいでどこにいるのかも、何をしているのかもわからない。

 たまに面倒ごとを押し付けて、それを手紙で雑に押し付けてくるような奴だ。また、親父の厄介ごとと思うのもわかる。だけど・・・。

 ソファでずっとニコニコしている異世界のお姫様と、ソファの横で直立不動のメイド。

 この二人に関しては親父は関係ない。関係あるはずがない。

「やばっ。ごめん隼人、私は仕事に戻らないといけないから、あとよろしく」

「え、姉さん?!」

 姉さんはバタバタと家から飛び出していく。俺はそれを見送ることしかできなかった。

「お姉さまはお忙しいようね」

 姉さんには聞きたいこともあったが仕方がない。

 深呼吸をして振り返る。

 この二人には色々聞かなくてはいけないことが多すぎる。



 俺はソファの前に胡坐をかいて座る。

「で?」

「・・・?」

 小首をかしげる姫様。

「どうやってこっちの世界に来たんだよ」

「なんだそれのことか」

 「それはだな」と、人差し指を立てて得意げな顔で話し始める。

「勇者が我々の世界に来た事で、こちらの世界とあちらの世界に繋がりができたんだ。私たちは勇者を召喚した儀式を応用して、こちらの世界にやってきたというわけだ」

 腕を組んで、どうだ!みたいな顔されても。

「ご心配なく」

 勝手に説明終了した主人の代わりに、メイドが話を続ける。

「こちらの世界の書物を色々と召喚して、ある程度この世界のことは把握しています。ここが日本と呼ばれる国であるということ。そして日本の法律。あなたにご迷惑はかけません」

 いや、あんたたちがこの世界に来てる時点で、かなり迷惑なんだが。それに気になってるのはそこじゃない。

「留学ってどういうことだよ」

「勇者の通っている学校に、これから私たちも通うということだが?」

「だが?じゃない!」

 俺はさっき姉さんに渡された、二人の留学に関する書類らしい封筒を見せる。

「こんなのどうやって用意したんだよ!」

 抑えきれずに声を荒げるが、二人は気にも留めない様子で、

「この世界のことを調べているときに、この世界の精霊の力を借りたんだ」

「精霊?」

「そう」

 姫様が掌を差し出すと、そこに小さな光が集まり始める。

「これがこの世界の精霊だ」

 姫様の掌の上で、いくつかのホタルのように小さな光が揺らめいている。

 久しぶりに見る、もう二度と見ることがないはずだった魔法的なもの。

「精霊とは、魔力を統べる者。それはいわば、世界の管理者のような存在だ。そんな世界の管理者にできないことはない」

 頭痛がしてくる。嫌な予感がするが、聞かないわけにはいかないよな・・・。

「具体的に何をしたんだ?」

「この世界は個人情報というものをコンピューターで管理しているんだろう?それを精霊に細工してもらった。その書類も精霊に作ってもらったんだ」

 そんな馬鹿な・・・。

「疑っているな?だが本当のことだ」

 嘘くさい話だが・・・。ここに書類があり、多分姉さんも少しは目を通したんだろう。そのあたりのことを姉さんに聞きたかったんだけど・・・いや、仕事が忙しい中でわざわざこの二人のことを確認に来てくれただけでもありがたい。

「・・・はぁ」

 ため息が出る。これからどうなるんだ。

「聞きたいことはもう無いのか?」

 ある気もするけど、もう頭が回らなくなってきた。

「じゃぁ。空いている部屋に案内してくれ。私たちは二人で一部屋を使わせてくれればいい」

 そう言うと、姫様はやっとソファから腰を上げる。

 本当にどうなるんだこれから・・・。

 俺はまたため息をついた。

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