【7】
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私、理佳は、お菓子作りに興味をもった事が少なかった。
全く興味がなかったわけでもなく、学生時代には交換もしていた。レシピを見ながらであれば、作れないわけもないのだと思う。
帰宅してから部屋の照明をつけた。
「・・・美味しかった」
チョコの味を思い出して、口元を手で触れる。
どうして作り方を教えてもらう事にしたのかは、優しい甘みがちょうどよくて、口の中の触感も溶けるように自然に消えた。そのすべてが美味しかったからだ。まるで・・・。
「何が美味しかったの?」
後ろから玲の声がして振り向くと、きょとんとしている表情と目があった。
「なんでもない」
連想してしまったものを頭の中から追い出すために、慌てて顔をそらした。
「ふーん」
特に追求するでもなく玲は、部屋の中に入ると荷物を置き、電気ストーブをいれた。ベランダに干してある洗濯物をとりこみ、そのまま畳む。
「今日、休みじゃなかった?」
「本屋に行っていたら、この時間になっていた」
「そうなんだ。あ、これお土産」
「ありがとう♪ここのお菓子、美味しいよね」
目をキラキラ輝かせて、洗濯物をそれぞれのタンスの引き出しにしまっている。私は荷物を置くと、そのままお湯を沸かす。
私があの喫茶店に時々行くのは、お菓子が美味しいからだ。行ってみたいなと思ったのは、執事な服装のスタッフが居るからだったけれど。
紅茶の茶葉をティーポットに自分の分を入れる。
「紅茶でいい?」
「いいよ」
一人分を追加してからお湯をいれ、お皿を二枚食器棚から出して置く。焼き菓子を袋のまま食卓の上に置いた。
「こういうのを作れるっていいよね」
「そうだよね。玲の場合、そのまま餌付けされそう」
「・・・・・・人の事をなんだと思っているの?」
不機嫌にそう返してくる。
「うーん、可愛い生き物?」
「・・・・・・ま、いいけど」
コップに紅茶をいれて、玲にも渡す。美味しそうに焼き菓子を食べている様子を見て、教えてもらえるように頼んでみてよかったと感じた。
「ね、理佳は果物だと何が好き?」
「苺かな」
「・・・苺か」
「?」
「なんでもない」
玲が、その質問をしてきた理由は、後日分かる事になる。