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partner  作者: 皐月 悠
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【6】


【6】


 「・・・どうしようかな」

 冷たい夜風が吹く仕事帰りに理佳はケーキ屋の前を通りかかり、もし、もらったとしたら、そのお返しはどうしようと頭の中をよぎる。

 肩にかけていたバックの重さがました。

 今まで、友人にあげても当日にもらうから、ホワイトデーとは無関係のまま過ごしてきた。何を選べばいいのだろうか。当日に私も渡せば、特に迷わなくていい。迷わなくていいけど、ちゃんとお礼がしたい。こういう時、何か特技があれば、迷わずそれにするのだろうなと思う。これだと思う物を掴めていて、やり続けられている意志の強さが羨ましい。

 私にも、好きな趣味はある。

 それは、人の書いた物語を読む事だ。読み終わった後、私の心の中で何かが生まれ、自分の新しい一面を知っていくのに、きちんと形をもたせてあげられずにいた。

 最後まで作り上げる事をしてこなかった。感想文だけなら、今まで書いてきていたから自信があるのだが、それを贈り物にする事はできないし、今までもそれが、仕事に結びつくとは思えない。

こんな事は誰でもできると、自分に言い聞かせてきて、自分に出来る事を中心に仕事探しをして、現在に至っている。自分のやりたい事で食べていく事を、最初から挑戦する前に大人のフリをして、逃げてきているのかもしれない。 

 仕事や部活帰りの学生が行き交う道は、あと数分もすれば自宅に帰宅できる。それなのに、今日の足取りはいつもより重い。

 真っ直ぐに帰宅するより、少しだけ寄り道をして帰ろう。

 バッグからスマートフォンを取り出し、玲にいつもよりは遅くなると連絡をいれた。了解の返信がきたのを確認すると、今からでも、喫茶店のラストオーダーまでになんとか間に合いそうな時間だ。

 私は、早足でお店に向かった。

 

 「お帰りなさいませ、お嬢様」

 喫茶店で出迎えてくれたのは、黒髪で中性的な執事の服装をしているスタッフだった。さりげなく席への誘導をする手の動きも、とても自然な流れをしていた。

 「飲み物はどうされますか?」

 「ハーブティーはありますか?」

 「はい」

 「カモミールで」

 「かしこまりました」

 礼をして奥に行く姿を見送りながら、仕草が綺麗な人だなと感じた。テーブル上においてある小さな籐籠の中に、一口サイズのチョコが入っていた。『ご自由にどうぞ』の手書きのポップが添えられている。

 店内を見回すと、各テーブルにセットされているようだ。

 「よろしければ、どうぞ」

 他のテーブルの整理をしていた眼鏡の執事が声をかけてきた。

 「ありがとうございます。・・・いただきます」

 口に入れてから、柔らかく溶けてしまう。

 これに近いチョコを、前に食べた。生クリームが中に追加されるだけの差が、大きな差のように感じた事がある。

 「生チョコ」

 「溶かして冷やした手作りです」

 口調が残念そうに聞こえたのは、気のせいだろうか。

 「それを世間では、手作りといいます。この人、相手は初心者なのに、教えて欲しいと頼まれて、せっかくだから本格的に、豆から挑戦とか言い出して。カカオ成分の高いチョコもあると言ったところです」

 「・・・・・・それは、やめておいた方がいいかもしれないですね」

 初心者と聞いて、玲の事を思い出した。

 どういう行程があるのかは知らないけれど、なるべく複雑な作業を省いておいた方がいいような気がした。

 「お待たせ致しました。カモミールです」

 「あ、美味しい」

 「ありがとうございます」

 「・・・・・・あの、私もお菓子作り教えてもらう事はできますか?」

 「大丈夫ですよ。今度の金曜日にその予定なので、よければその時にでも」

 「分かりました。では、その時に」


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