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partner  作者: 皐月 悠
3/12

【3】


【3】


 軽い喉の乾きを感じて目を開けると、玲がソファーで寝息をたて寝てしまっていた。電気ストーブの電源を消すと、かけ布団をかけ直した。コップに水をいれて飲みながら時計を見ると、夕方の4時になっている。夏ほどは長くはない陽の長さは、切なさをつれてくるようだ。

 休日の今日だけは、仕事なんて考えたくもないのにふと浮かぶのは、あれをやっていなかったから、今度はそれから片づけていこうか、なんていう段取りで苦笑を浮かべた。私から仕事を無くしてしまったら、何も残らないと空虚な気持ちになり、血の気がひいて、体温がさがった気がする。仕事は、いつまでもあると保証されていない。もしも、無くしたら、他に夢中になれる事などあるのか。

 そんな時、たまらなく玲が羨ましくなる。

 玲には、必要とされている『作品』がある。それだけでも、とても価値がある。そんな玲は、仕事を安定して続けていける事が羨ましいという。ないものねだりなのかもしれない。

 「・・・起きたの?」

 半分意識が覚醒していないぼんやりとした口調で言いながら、玲はゆっくり起きあがる。

 「さっき目が覚めて。何か飲む?」

 「ホットミルク」

 「少し待っていて」

 最近の玲の好きな飲み物は、ほぼ、健康を意識したものだと言っていた。牛乳もオレンジジュースもビタミンとたんぱく質で、ほんの少しだけでも栄養バランスをとっていたいのだという。

 「はい」

 電子レンジで温めた牛乳を受け取ると、美味しそうに飲む。

 「ありがとう」

 「夕飯、どうしようか?」

 「・・・ホワイトシチューなら作れるよ」

 「じゃあ、シチューにしよう」

 「ちょっと待っていて」

 そう言うと、使う材料を取り出して並べはじめた。その中に、市販のルーはいない。その代わりに、牛乳と薄力粉等が並べられている。必要な調理器具と材料の取り出し方に、迷いがいっさいない。

 「ルー、使わないの?」

 「うん、使わないでやってみようかと」

 言いながら、スマートフォンでレシピを検索して見ている。

 「そう、なんだ」

 市販のルーを使わないで作った事は、今まで一度もなかった。料理はどちらかといえば苦手で、そんな私の周囲にはルーを使わないで作ったと話してくれた人は誰も居ない。

 玲は具をすべて切り終わると、いきなり肉から炒め始めた。

 「本当は、野菜からだけど、薄く小さめに切っているし、肉の油だけ使いたい」

 「そうなんだ」

 「・・・うん、後片付けが楽になるから」

 ぼそっと小声で言ったのが本音のようだ。

 野菜炒め状態から、水とその他を入れて鍋に蓋をする。  

 後は煮るだけの状態になった。

 「なんていうか、大胆だね。料理も」

 「火がとおっていれば、食べられる」

 「そうだけども。ね、玲って本当は、料理できるんじゃ・・・」

 「できません」

 タイマーをセットしながらおたま片手に宣言される。

 手際の良さを見せられた後に言われても説得力がない。それに、あいた時間にまめに片付けの準備をしていくから、調理台の周囲は綺麗に整頓され、野菜の端切れはなるべく鍋に綺麗に入れているから、キッチンペーパーで拭いて捨てれば汚れが少ない。これなら片付けも楽にできるし、重い腰も半分くらいには軽くなりそうだ。

 「おかず一品、まとめて肉と野菜が一緒にとれる簡単な料理しか作れない。カレー、シチュー、鍋、野菜炒め」

 「私も似たようなものだけど」

 鍋からはすでに美味しそうな匂いがしてくる。

 「時々は、頼んでもいい?」

 「・・・・・・レパートリー少ないけど、こういうのでよければ」

 「よろしくお願い致します」

 使い終わった調理器具を洗っていく玲の背中が、どことなく嬉しそうに見えた。


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