【12】
【12】
理佳がふとスマートフォンで時刻を確認すると、そろそろ朝陽がのぼり始める頃になっていて、いつも玲が起き出してくる時間になっていた。
遮光カーテンを開けると、澄み切った冬の空気に朝陽がのぼってきている。レースのカーテンだけにすると、ベッドから起き出してお湯を沸かす。寝た時間が遅かったからか、玲はまだ起きる気配がしない。普段はあまり飲まない珈琲を淹れてみた。苦手な苦味が心地よく、一息をついた。
「おはよう」
「おはよう」
玲はお湯をコップにいれて飲むと、冷蔵庫のチョコを美味しそうに食べた。
「うん、美味しい」
「食べてみていい?」
「どうぞ」
チョコを食べてみたら、美味しくて思わず笑みが浮かぶ。苦手な事なのに玲が、私のために作ってくれた事が嬉しい。
「昨日の話、だけど」
「うん」
「看板の文章、書いてみる」
「うん」
きっと、玲の事だから、頼むと決めたから文章を読まなくても決めていると言い出すだろう。だけど、頼まれるのならば、本当に素人だから実際に書いた文章の読後、文章の質で決めて欲しいと思った。
「それで、読んでみてから決めて」
「・・・分かった。紅茶、飲む?」
良いって決めたから、そんな事を言わなくてもいいのに。
そんな事を思っていそうな表情を浮かべた後、それも理佳らしいなと苦笑を浮かべた。
「うん、ありがとう」
「理佳ってさ、喫茶店の人の事気になっているよね」
いきなり話題をそこにふられて、何か反応しないと思っているのに上手く言葉が出てこない。
「な、気になってないよ」
「好みなの?」
「・・・・・・」
好みなのは外見と雰囲気であって、性格についてまでは知らない。いいな、とは思っている。だが、恋愛の意味での気になっているのかといえば、それもまた違うから上手く言葉として口から出せない。
「なるほど」
納得している様子を見て、気持ちを落ち着けるために紅茶を一口飲む。
「チョコ、ありがとう」
「・・・まだ、当日まで時間があるから、作れたら作ってみる」
「うん」
「そしたら、もらってくれる?」
「うん」
そう言うと、玲は嬉しそうな表情を浮かべた。
「・・・負けない」
「ん?」
「なんでもない、朝食何食べようかな」
実家を出てからの1人暮らしは、家は仕事を切り離す事のできる、冷たいけれど安心できる場所だった。2人暮らしになってからは、家の中が明るく温かい場所に変わっていくのを感じる。「家」というよりも、「玲が居ること」が温かい居場所になっている。
できるだけ長い間、この時間を過ごせるといいなと思えるようになった。あの時、即決できてよかったと思う。お互いがお互いを必要だと求められる、前に進める関係ならば、しっくりくる言葉を選ぶのならばpartnerなのかもしれないなと思えた。
partnerはこの部分で完結となります。
最後までお読みいただきありがとうございます。