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【喜怒哀楽短編集】

仮染めの幸せ

作者: 姥妙 夏希

ちょっと背景が分かりにくいかもしれません><

夢を見る、夢を。

何も見えないけれど、苦しくて、暑くて、気持ち悪くて、吐き気がする夢。


夢の中の自分は、一体何処にいて、何をしているのだろう。


そう考えながら、メイはまた深い眠りに落ちていった。


***

青く澄みきった空、優しい風で揺れる葉、小鳥達の囀り。


あの恐ろしい悪夢から目覚めたからだろうか、何もかもが美しく見え、何時もの何気ない朝の目覚めが特別なものの様に思えた。窓からの世界を見て、メイは微笑み、自分の部屋から出て食卓へと向かう。ベッドを後で整えなければ、と考えながら、食卓の椅子に腰を下ろした。キッチンでずっと朝御飯の支度をしていたジェヌが、此方を向いて「もう少しで朝御飯が出来るからね。」と温かく言う。メイはそれを聞いて、「何時もありがとう、ジェヌ。」とはにかんだ。暫くすると、御飯の良い匂いがして、皆が階段を降りてきた音が聞こえた。おはよう、と互いに親密な挨拶を交わす。


此処には、本来ならいるべき大人はいなかった。遠い昔、私達を捨てたのだという感覚しかない。でも、それの何が悪いのだろうか?


毎日優しいお姉さんやお兄さんがいて、毎日美味しい御飯があって、毎日素敵な弟妹達がいて。


その生活の、何が悪いのだろうか?悪いことなんて、一つもない。此処には、自分達を制限する大人達なんていないし、自分達は何でも出来る。例え、大人達がいなくとも。


「いただきます。」


食前の祈りを捧げ、各々が朝御飯を食べる。大人しく座って、御飯を食べているノーべの隣で、ジェヌが満足そうに私達の事を見た。


此処には、全部で11人の子供達がいる。一番上のジェヌから、一番下のデシまで、私達は皆仲良しな仲間だ。いや、もっと近くて親密な、家族の様な関係かもしれない。そして、私達が住んでいる場所は、周りには誰もいない。正確には、私達はこれまで他の人達を見たことがない。ただ、記憶として遠い昔に庭でメモを拾い、そこに「お前らは捨てられた子供達だ。」と書かれていただけだ。しかも、此処の周り以外は皆、外には出ない。前にそちらの方向に行って行方不明になってしまった仲間がいる為、そちらの方向には行ってはいけないと固く誓っているのだ。


それでも、此処は不自由のない暮らしがある。周りには広い森があり、食材は作ったり狩ったりして手に入れられるし、木の実を摘む事もできる。或いは、一日中大人達が置いて行ったメモやノート、書類や本を読むこともできる。


「...ジューン、大丈夫!?」


ジェヌがそう叫んだ声で、メイは我に返った。見ると、ジェヌは頭を抑えて苦しそうな表情をしている。メイは駆け寄ると、ジェヌが少しでも苦しくなくなるように、頭を優しく撫でであげた。ひとつ下の妹は、上を見上げると、弱々しく微笑んだ。か細い声で、「だい...じょうぶ。」と呟く。


「最近...ね、頭が痛いんだ...。たま...にズキって...割れるような頭痛が...するの。」

「...ジューン、本当に大丈夫?」


「あり...がとう、メイ。でも...違うんだ。」


ジューンが、胸の辺りををギュッと強く握りながらそう言う。途切れ途切れにだけど、違うんだ、と聞こえた気がした。一体、何が違うのだろうか?メイは、ジューンの次の言葉を待って、じっとジューンのことを見つめた。ジューンが掠れた声で続ける。


「何か...これじゃ、ない...みたいな。自分には...ちょっと、オカシイ...こと、言ってる...かも。」


最後の方は、何故か不安そうにそう言うことに、メイは疑問を抱きながら、「大丈夫だよ!ジューン、何もオカシイことなんてないよ!」と元気づける。ジェヌがほっとしたように溜息をつき、「ありがとう、メイ。ジューン、お部屋で休んできなさいよ。」と優しく指示をした。ジューンがふらふら足を揺らしながら食卓から出て行くのを、皆は不安そうに、または心配そうに見つめていた。


朝御飯を食べて、感謝の祈りを捧げた後は、外に出て木に登る。そよそよと緩やかな風が吹き、小鳥達の囀りを運んでくるのにメイはじっと耳を傾けていた。ふわん、と草の香りが鼻を掠めて流れていく。草を踏むと、柔らかく押し返そうとするのが心地良く、裸足で木から足を伸ばす。それに気づいた兄弟達が、足を引っ張ろうと手を伸ばしてきた。メイは笑いながら、足を引っ込める。


その時、ズキン、と頭に痛みが走った。頭が割れて揺れる様な、激しい痛み。頭を抑えて呻き声を口から漏らしながら、メイはぐらり、と地面が揺れて無くなった気がした。


***

「メイ、目を覚ませよ...!」


誰かの、誰かの、悔しそうな声が聞こえたポツポツと聞こえる。白色の背景で何もない場所に、ぼおっ、と何かが浮かび上がった気がした。光が集まって、一人の影を作る。


「...フェブ兄さん?」

「気付くのが遅ぇ。流石、メイ・ポンコツ・グリーンだな。」


「変なミドルネームを追加しないでよ!」


笑いながらからかわれて、メイは頬を膨らませてそう叫んだ。フェブが「悪ぃ、久し振りすぎて、つい、な。」と哀しそうに微笑む。その微笑みで、メイはハッと気付いて口を噤む。


フェブ兄さんは、もうとっくのとうに死んでいるはずだ。彼は、御飯が一時期無くなった時に、向こうの方向まで態々行って狩猟をしてこようとして、そして行方不明になったはずだった。そして、此処での行方不明は勿論死を示す。しかも、もし彼が戻ってきたのなら、こんな白色の、何もない背景ではなくて、あの美しい庭がある家で話してくれるはずだろう。メイは目の前にいる物体が何か凝視し、考えながら、「フェブ兄さんなの、本当に?」と恐る恐る聞いた。


「言えないんだよ、そういうのは。この空間自体、本当は反しているんだよ。まあ、その点ではメイよりもジューンの方が、感覚的に理解してるようだな。」

「...ど、どういうこと?」


「...詳しくは言えねぇ。ただ、お前に忠告しに来たんだ。...お前、今の現実に満足してるか?もし、もしもだけれど、何か他の現実があったとしたら、それでも今の現実がいいか?」

「な、なんのこと、言っているの?だって、此処には私達の兄弟姉妹達もいるのよ。皆、どうするのよ。」


「...お前が、こっちを選ぶのなら、俺は構わねぇよ。ごめんな、一緒にいられなくて。」


フェブ兄さんが、ぎゅっと抱擁をして、それから「じゃあな。」と呟く。一瞬、涙が頬に線のように、一滴落ちた気がした。



***

ピッ、ピッ、と機械音が聞こえ、ドクターは顔を顰めながらカードをタッチパネルに置いた。扉が大袈裟な音を立てて開き、「今日は、ドクター。」と簡単な挨拶をする。ドクターは頷くと前へと進んだ。


そこには、12台の細長い機械が並んでいる。沢山のコードが、まるで血管のように大きく脈を打ちながら機械の中に入っている。時折、何かを注入しているようにも見える細長い機械は、ホコリに覆われていた。ドクターは一つの機械に手を置いて、すっと手で機械を撫でる。何か文字が見えた。


「MAY GREEN」


中には、痩せ細った少女が躯の如く、微動だにせず横たわっている。組んだ手を、胸の上に置いている姿も相まって、本当に死人のように見える。まるで枯れた向日葵を連想させるな、とドクターは鼻で笑った。


此処にいる少年少女達は、機械によって生かされている只の廃人だ。その昔に虐待されていて、それでも生き残った少年少女達がいる。子供達なんてもう何処を探してもいないし、彼等だって世間一般的には既に亡くなった者となっており、きっと死ぬまであの機械で生き続けるだろう。あの機械が映し出す仮想空間の正体を見破るなんて、並大抵の探偵でも難しい。それに、気付いたとしてもあの幸せにずっと浸かっていたいだろう。


そう思いながら、ドクターは一つの機械をちらりと見た。空っぽの機械に、「FEBRUARY WILDS」と書かれている。コイツだけは、この仮想空間と仮染めの幸せを見破り、しかも脱出しようと試みた。その頭の良さは、凄いと思う。


ただ...。


機械にずっといた生活では、実際の現実空間では歩くこともままならないだろう。事実、彼もそうだった。現実に戻ったのは良かったかもしれないが、最終的に研究員達に捕まった。そして、その彼は、今...。


ドクターは上に横たわっている少年を見つめた。微動だにしない躰は、魂が入っているようには感じられなかった。



もし、貴方が真実が分かったとしたら、貴方は辛い方をそれでも選びますか?

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