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魔王討伐  作者: 三化月
終着
25/27

33

 衝撃に耐え、どうにか踏ん張りながら私は目の前に立つ黒髪の男を見据えた。私と同等の魔力量だけでなく、光を反射しない黒い神剣を持った彼からは、他にも何かを感じ取れた。それはまだ手を隠しているかのような不気味な感覚だった。

 巨鳥をディエスが、黒髪の男を私が、魔王を他の人間に任せるとしても、このままでは明らかに不利なのはすぐに分かった。大穴がいくら大きいと言っても、そこは限られた空間であり、魔術や神剣の力を使えば衝撃は四方に飛ぶだろう。そうなれば必ず巻き添えが出るし、度重なる毎に戦力は少なくなっていく。ジリ貧だ。


 光が、羽が、紫電が、風が、炎が、鈴の音が。種類こそあれ、それが暴力であることに違いはない。互いに衝突するたびに衝撃が走り、建物が崩れ、人が死ぬ。簡単に振るわれた力が簡単に人の命を奪う。それを肌で感じつつ、私は戦いの中で勝機を探していた。

 魔王を倒せればそれで構わないのだが、私と対峙している男がそれを許さないだろう。二人と一羽のうち、一体でも殺すことができれば戦況は一気に私たちの元に返ってくるのだ。だからこそタイミングを見計らう必要がある。


 肉体の修復を最低限に抑え、ピンチを演出して見せても、彼は着実に私に傷をつけていく。男は神剣を完全に掌握していないのか、最初にはなった熱線は多様していないものの、それを魔術の腕でカバーしているために私も中々攻めあぐねていた。

 互いが互いにチマチマと傷をつけあっていく膠着した戦闘を終わらせたのは、たった一つの声だった。


「エクレール!」

 これは私の声ではなく、ザラの声だ。状況と時間から考えるに、魔王の攻撃が当たったのだろう。魔術師の絶対数も減り、騎士たちも自慢の鎧が駄目になる頃だから、考えは簡単にまとまった。

 助けに行きたいが、行くわけにはいかない。一人を救うために多数を犠牲にするわけにはいかないのだ。ただ、そろそろ決着を決めなければならないだろう。

「トレミー・ウォードの名において、数多の精霊、英霊に願い乞う! 汝が意思は我の剣! 渦巻く気高き獣よ! 我が魔力を持って顕現し、阻む者に爪を立てよ!」

 言い終わるやいなや周囲に渦巻く魔力の渦。魔王の風の渦とはまた違うこれは私の記憶であり、私の力なのだ。景色に同化するような薄い青色の魔力で構成された渦は人の姿を取り、そのどれもが私にとって見覚えのある仕草を取っていた。

 剣聖、聖騎士、槍使い、そして…数多の魔術師たち。かつて魔王討伐に挑んだ仲間たちの模倣、夢の再現。私自身の魔力に加え、この空間に満ちた膨大な量の魔力を使った、今の私に出来る最大の魔術だ。


 だが所詮は記憶が形を持ったものでしかなく、姿こそ剣を持っていても切り傷を負わせることができなければ、魔術師が一般的な魔術を使うこともない。魔力の塊である彼らが出来るのは、自らの攻勢魔力を敵にぶつけることだけ。つまるところ、死兵となんら変わりはなかった。


 無音の魔力の塊が動いていることを示すのは、床に現れた砂塵がねじれたような痕だけであり、これらは私以外には感知が難しいものでもあった。何か向かってくるのは分かっても、それはある程度推測がつくという程でしかないはずなのだ。現に、私と対面していた男は四肢に攻勢魔力の過剰接触によって傷を負っていた。

 炎剣で一気になぎ払おうとした動きに私も神剣を合わせ、生じた衝撃を自らの手で捻じ伏せる。体を修復するための魔力がいっとき無くなってしまうものの、この衝撃で私の魔力が四散してはたまったものではない。私は神剣によって体外の魔力を得ているが、私自身に体外にある魔力をどうこうする能力が備わっているわけではなく、外に出した自らの魔力維持だけで神経を擦り減らす作業だった。


 あと少し、あともうひと押しでこの盤面を抑えられる。だが、その一手が届かない。相手の動きはたしかに鈍ってきているし、私が場を支配している感覚もある。しかしなんだ……この妙な空気は。


「………Land of the dead」


 分からない言葉。聞いたことのない言語。それでも感じる嫌な予感。私が感じていたものが今、爆発した。


 男の言葉から少し、自壊していく自分の体に理解が及ばないが、それに怯むわけにはいかない。痛みを感じないことに感謝し、発動している魔術に集中する。相手が先に倒れるか、私の体が崩れるか。二つに一つ。

 風に乗って飛んでいくのは、肉と血流と塵。私と男の命の力が鼻を曲げようと魔力に乗って飛んでいく。


 果たして、先に倒れたのはどちらだったのだろう。二人とも倒れたのは間違いないが、もしかしたら二人同時に倒れたのかもしれない。互いに何もしなくても死んでしまえるほどに虫の息であり、魔術を維持する力さえなかった。

 あとは私が魔力で肉体を補完すれば手助けに向かえるのだが、それすらも叶わないようだった。

「さっきの魔術か」と、言葉にしたつもりなのだが、私の口はそれを伝えられたのか分からない。ただ、私がこの状態で出せる修復の速度では男の魔術に押し負けるのを感じていた。術者が解いても進んでいく魔術という新たな発見を死に際にするとは誰が思うだろうか。


 …ああ、どうか………無事に魔王を打ち果たしてくれ。


 まぶたは重く、意識も遠い。

 誰かを救う前に自分が死んでしまうだなんて…とんだ笑い種じゃないか。立ってくれ、動いてくれ、終わらないでくれ。いくらそう願ったって、体は一ミリも動かない。


 視界から色が消え、黒に崩れ去る。

 まだ私は友の元にいく訳にはいかないというのに、無情にも崩壊は進んでいく。握っていた神剣は軽い音をたてて落ち、その音さえも反芻させる体を失う。


 私は二度目の死を迎えた。

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