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魔王討伐  作者: 三化月
慎誠
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25

 神とひとえに言っても、神自体は四柱存在している。序章「神と三騎士」において語られるそれは、世界創造の物語であり、神の血統の物語であった。それ以外で、神が明確な従者を持つことはない。

 少なくとも書物に残されてはいないのだ。それは必要ないから巫女に伝えられていないのか、どこかのタイミングで失伝してしまったのか。それは分からないが、前者のような気もしていた。

 神から生まれたもので言えば、神剣と生物の二つ。だが、それを使徒が使ったり、助けたりと言ったことはない。明確な記述がないだけ、私の知らない書物があるだけ。こう言ってしまえるのは簡単ではあるのだが、いささか無関心すぎるだろう。

私に出来るのは、拡大解釈と深読みだけ。であるならば、ただひたすらに考察を深めるしかなかった。



 魔王討伐も近づく今日、私は自らが残した息子であるルースと対面していた。研究が捗っていたのか、今まで帰宅せず、棟に篭っていた彼を私が最後に見たのは魔王討伐の時だ。ルースの歳は10であり、成人すらしていなかった。

 「お久しぶりにございます。父上と再び相まみえる日が来ましたことを感謝いたします」

 彼は私の記憶にある人物とはかけ離れた成長をしていた。服の裾を持って泣くのを我慢しながら私の出立を見送った彼はもう居ない。そこにあるのは、立派に成長をした貴族の姿だ。

 「話は聞いてるだろうから先に言っておくが、……フィロウのこと、すまなかった」

 もうルースは私の手を離れている。一人前の男を子供扱いしていいことはないだろう。

 自らの非を認め、謝罪する。それは、相手が息子でも変わらない。深く頭を下げる私に彼は言った。 

 「頭を上げてください父上。 レチタヴィーオからあらましは聞いていますし、悪いことばかりということでもないでしょう」

 「結果がどうあれ、私は現実を知らなすぎた。もう少し慎重に動くべきだったよ」

 「それよりも今は魔王討伐ですよ、父上も、私もね」

 ルースのそれは分かりやすい話の切り替えだったものの、ずっと問答をしているよりは建設的であろう。息子の中でかたがついているのなら、私から何を言ってもうるさいだけだろうから。

 「…私としては婿殿……あー、なんと言ったか」

 「ゲーラですよ」

 「それだ。 ゲーラには家に残ってもらおうと考えている。 準禁呪級の魔術も使えると聞くし戦力にはなるだろうが、対外的な目もある。 フィロウにとってもそれがいいのではないか」

 婿をとり、子供さえ仕込めれば死ぬ危険性が高い場所に放り出すというのでは、なんとも世間体に悪い。本人の意思など関係なく、事実は曲解され、悲劇は喜劇に変わる。魔王が現れ、最愛の人間との別れが、貴族の玩具になるのはいかんとも形容しがたかった。それが孫ともなればなおさらだ。

 「父上ほど私は戦うことができません。 そも、回路を自身で弄ってますので、禁呪はおろか攻撃全般は不可能でしょう」

 「後方支援用の魔術を研究していると聞くがどうか。 参加人数が人数であるから他家との連携は必須だろうが、少しカバーしてもらうだけでも随分と変わる。 その少しによほどの習熟を必要としているのは…まあ、分かるな」

 「はい。 研究班の仲間に声をかけてみます。 なんでも、今の私は頭の狂った三流魔術師なので。 同士には事欠きません」

 ルースの言葉を私は笑ってやった。いや、あまりにも可笑しかったのだ。何が三流だというのか。それは噂を鵜呑みにした、それこそ三流魔術師の言葉であった。

 魔術師の血は継承させることに意味があるのだから、それは家を続かせると同義。存続方法を思索しながら、孫に良き魔術師の婿をあてがったルースは、一流の魔術師ではないか。

 所詮は教会側の操作により不死化の成功を知らず、禁呪の研究を続けさせようとした貴族共の狂言に違いない。教会側も驚いただろう。年若いルースであれば傀儡にでもと考えていたのだろうが、急に反対の方向に歩いていったのだ。元より、そんな手綱は無かった。欲が巣食った結果の失敗であったな。

 「ああ…自慢の息子をもててよかった」

 「私はウォード家に生まれた瞬間から魔術師ですから……、それ以外の人間からしたら三流なんでしょうけどね。 私は自分に誇りを持っていますから、なんだって成し遂げるために手を尽くさなくてはいけません。 護国の英雄になるには多少のハンデは自ら負うべきなんです」

 「だがルース…その道は私が残した茨の道だ。 始まりすらもう届きはしないだろう。 現状のお前は中途半端な力量でしかない」

 「いいえ、父上。 入り口どころか終わりだって見えてますよ、私は。 父上のおかげで、私は夢をかなえられる」

 二度目の魔王討伐。それがルースの言う終わり、護国の英雄に至る道筋なのだろう。彼は私のおかげと言ったが、私が居なくてもウォード家は戦線に立つことになったのは想像に容易い。レチタヴィーオが上手く采配を行うだろう。

 「終わりなどではないさ……生きて帰るのだから」

 今度こそ、私は無益に優秀な人間を見殺しにはしない。

 国を護るのはルースに譲るとしよう。私は民を、人間を護る。


 この肉体は人を凌駕した不死の体。

 この魔術は生者を見守るための力。


 鏡剣ラシェット……生と死の狭間を繋ぎ止めてくれ。

 それがお前の能力、空間支配の力なのだから。



 …現王即位記念日。雲は黒く星海を漂っており、陰鬱とした印象を受ける。聖歌隊の歌う讃美歌が耳に届くが私の目には映ることはなかった。地下迷宮第59層の大穴の前に整列した私たち、魔王討伐軍は王の背中を眺めていた。

 プレイテリア王都民には、私たちはどう見えているのだろうか。長距離映像交信法具では一部の人間しか見ることが出来なかった。だがそれはどうでもいい話しだ。皆護る。固く決意した私に不可能はないと、自らの震えを武者震いとして無理矢理に頬を引き上げるのだ。

 「プレイテリアの民よ、刮目せよ! 我は王権継承者にして神のまなこなり! 世界は今、侵略の危機に瀕している! しかして恐れることなどありはしない! 見よ! …これなるは聖国の英雄共ぞ!」

 王は半身になって私たちに腕を伸ばした。讃美歌は王が話し始める前に終わり、両方の場は静寂の中にある。

 「彼等は魔王を退けし者! 勇気もたらさん者! そして……、国を愛す者である!! 我は国であり! 国は民である! 愛する者を護るのに何をおくす必要があるか!! さあ! 我らが手に喝采を! 勝利を取ってこい!!」

 言い終わると同時に地を叩くような音が聞こえて来た。ドン。音はまた鳴る。ドン。

 槍の石突きか、鞘の先か。ドン。そんなもの細かく気にする必要も無い。ドン。

 足音だってなんだって構わない。ドン!ただ声を上げろ!ドン!

 「……魔王討伐を開始する!!」

 自らの獲物を天に掲げる私たちは鬨の声を上げ、大穴の四方へと散って行った。

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