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何事もなく地上へ戻った私たちを待っていたのは冒険者だけでなく、いかにも貴族といった面々に、教会の者、そして多くの護衛を侍らせた王だった。
あまりに異質な、場違いな光景に私は目を取られるが、すぐに気を張りなおして面々を見渡す。一瞬で分かることと言えば、集団の間に妙な空間が開いているためにどこの派閥か分かりやすいことだ。王を中心として左右に広がるそれらは王の言葉を待っているのだろうが、あの王がはたしてそれを自覚しているかというのは怪しいところだった。
「我が王よ、無礼をお許しください」と、膝をついた私を見ていたのだろう。次第に我に返り、膝をつき始める冒険者たちに気をよくでもしたのか、それまで仁王立ちで一言も発さなかった王が言を放った。
「うむ。 探索ご苦労である。 そなたらも探索から戻ったばかりで疲れておるだろう、今回のことは不問としよう。 して、その方よ、神殿らしき場所は見つかったか」
これは私に言っているのだろう。 ザラを雇ったのは私だ、であれば自然と代表者になるか。
「は、恐れながら発言させていただきます。 私含む冒険者三ギルドによる連合パーティーは最深度であった57層を超え、暫定59階層の最奥へと到達いたしました。 最奥には地下へと続く大きな穴が開いており、膨大な魔力、冷気が漂っており、不要な損失を防ぐために地上へと帰還した次第でございます」
「そうか。 急ぎ耐寒装備を揃えるよう国中の裁縫士に伝えおけ。 ……おお、そうだ、いつだったか我がデザインしたものがあったろう。 型が残っていればそれを使わせろ、……色は皇帝白だ。 染物屋に素材を用意させるように」
叱責も報奨もないとなれば、王はなぜこの場にいるのだろうか。防寒具はなにやらそろえてもらえるような雰囲気ではあるが、それだけではないだろう。私にできるのはただ頭を下げるだけであり、私が上げない限り他に膝をつく冒険者も頭を上げることはできない。唯一自身で対応できないのはエクレールぐらいなものだが、彼女がこのような場所で目立ちたがるとは思えなかった。
王の隣に控える何人かが紙を命よりも大事そうに抱きかかえ、検問所を走り出したのが視界の端に映る。あれはさっきの注文を伝えに行ったのだろう。
それからはしばらく無言が続いた。何か視界の外で話し合いが行われているのであれば、一度持ち帰って話してもらえないものだろうか。私はともかくとして、探索で疲れ、ようやく地上に上がってこれたというのに捕まえられてしまった他の冒険者が痺れを切らせないとはいえない。
不敬ではあるが私が言わなければならなならなかった。
「王よ、私が残らせていただきますので彼らは解放していただきたいのですが……」
「……ん? ああ、別に貴様も下がってよいぞ」
「ハ八ッ!」
本当に何故、王がこの場に来たのかは不思議であった。これだけ派手に動いていれば何か情報が出回っているだろう。冒険者側がどれだけ早く食料を調達できるかが問題ではあるが。
静かに立ち上がり、王とその取り巻きたちの横を通り過ぎたが、その視線は決していいものではない。だが何をそんなに警戒しているのかは分からない。お前たちは冒険者を下に見ていたのではなかったか。何にせよ、情報が足りなかった。依頼料の支払いが終われば情報を集めるために少し時間をとったほうがいいだろう。
「……支払いは少し待ってもいいが」と、ザラが小さく私につぶやいた。依然、検問所の部屋は抜けていない。
「なに、そう待たせることはない」
こうザラに答えた私は何となしに後ろを振り返り、私たちの後をついてくる影を見た。
冒険者とは神殿を出たところで別れ、盗賊ギルドへ向かうとしたのだが、ついてくる人影は消えることはない。冒険者に用があるのではなく、私個人に用があるようだった。隠れようともせずに堂々としていることからやましいことはないのだろうが。
私は過去の記憶にある中で人の出入りが少なかった飲食店に入った。店主は私が知っている人物ではなかったため、息子が引き継いでいるだろう。ちょうどいいことに店内には私しかいない。
店主にあと何人か来ると伝え、私は水を頼んだ。
「……遅かったな」
「お初にお目にかかります、お爺さま。 私の名前はゲーラ・ウォード。 ウォード家の血筋は薄いですが、本日はこうして参加させていただくことができました」
来るかどうかは分からなかったが、彼らは私の前に現れた。慣れた手つきで注文を頼んだ男の一人は私の生家の出らしく、私のことをお爺さまと呼んだ。歳は分からないが、青年の範疇に入る頃合いだろう。
「で……、なにがあって来た。 私がすでに死んでるのは知っているだろう」
「まずは、一人でも招集された家に王直筆の手紙が届きました。 催促状です。 要約するとですね、冒険者が精力的に動いているのに何をしているのか、ということがありまして」
「それであの人数か……、功を焦ったな。 主要メンバーは疲れて依頼を受けようとは思わないだろう。 金を積んでも無駄だな、私がまとまった金を彼らに渡す手はずになっている」
そこで彼は頷いた。彼らなりに調べて分かっているのだろう。
「ですから潜るのは形式としてです。 本題は別にあります」
運ばれてきた飲み物に互いに手を付ける。少し冷めてしまっていたが、飲みやすくなったと思えばそれで構わない。
ゲーラについてきた人も飲み物に口をつけたものの、今後も話す様子はなかった。目を合わせても私に笑いかけるだけで何も言うことはない。それも目が笑っているだけの、儀礼的な笑みだ。この人は女で、貴族受けしそうな物静かな女性だった。
「お爺さまがご自身にかけた魔術、……ええ、禁呪指定されている例のあれです」
「……」
「だんまりですか……」
そうだ、私から彼らに言うことはない。
「貴方たちも同じ魔術を使えるはずだ。 元は同じ家系の人間。 当時の私にはそれなりの発言権はあったが、何かを隠すような真似はしていないし、できないだろう。 分かるはずだ……、もし本当に貴方がたがウォード家の人間ならね」
「どういうわけか私どもでは上手く発動しませんでね……」
「それはウォード家の人間ではないからだ。 もしくは血縁関係でないか。 ……そもそも貴様がウォード家の人間であると証明できるのか? 家紋をこの場で書けるか? 家紋を持っていないのか? 印の意味は? 初代から当代までの当主を言ってみせてくれれば私も信じよう」
私がゲーラを疑い始めたところで可愛らしく、小さな笑い声が聞こえてきた。彼の隣に座る女だ。
彼女は口元に手を当てて笑っていた。不審がる私に、どこか諦めたように溜息を吐いたゲーラ。……黒幕は彼女か。
「初めまして、お爺さま」
一つ区切って微笑み、彼女はまた口を開く。
「わたくし、お爺さまの孫にあたる人間ですの」




