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どうも初めまして、もしくはお久しぶりです。三化月です。
基本の更新速度はいつも通り。あらすじのほうにも書いてます。
稚拙ではありますがよろしくお願いします。
聖暦708年。我が国、プレイテリアの王の千里眼が強力な異界生物の出現を予知し、考えられる限りの国内最高戦力が招集を受けた。魔術に携わる者の一人として私もその場に赴く事となり、全ての部門の知識、技術の統括が図られたのを今でも覚えている。
そして聖暦730年。こうして再び私はこの場に居るのだ。
詮索しないことを絶対条件とし、各々が簡単に自己紹介を始め、私もそれに習った。
「魔術師のトレミーだ。 扱う術の類は信仰系、及び精霊系統。 剣術、薬草調合、法具作成も人並みに行えるがそちらにはあまり期待はしないでいただきたい」
白い丸部屋に映える多数の水色の装飾線。同色の円卓に彫られたクリーム色のレース。この部屋も、この卓も。二十年前と何も変わっていない。そしてこの、場のひりつく空気も私の知っているものと何ら変わりはない。
この場に集まった者たちの中に私が知る名前が無いのは残念ではあるものの、殊更にそれが私の止まった時間の流れを実感させてくれた。
ひとまずの顔合わせも終わり、一旦休憩となった。ここからは具体的な内容へと移っていくのだろう。
この場に顔見知りが居た者たちは何やら集まっているようだ。家系、一門、同職、戦友。その中で今後の相談でもしているに違いない。誰が一番の手柄を取るかというのは何時の時代にもついてまわるものだから。
私は円卓に腰かけているなかで、先程の自己紹介を思い出しつつ、気になる人物をピックアップしていき、視線を配っていく。
まず、プレイテリア国内の騎士団長が二人。見た所仲はさほどよくはないのだろうが、いざとなれば協力はする、か。問題は騎士団の中でも限られた者に装着を許された法具の強さを私が知らない事だ。今も脚部はつけているようだが、あれだけで終わりということもあるまい。
次に教会所属者。聖騎士が三人に魔術師が六人……随分と無理を効かせたな。一番の大所帯となっていた。わたしもかつては教会の魔術師であったため、その力量はある程度予測がつく。そもそも過去のことなどちょっかいを出されなければ気にする必要も無い。
後は冒険者たちか。彼等はそもそも何故呼ばれたのか分かってすらいないのだろう。私の推測が正しいのであれば、魔王の出現位置は地下迷宮。そこで働いている有名ギルドのいくつかから引き抜いて来たか。
なんにせよ、私は私に出来るだけの働きをするだけだ。
「諸君、まずは急な招集に応じてくれたことを感謝する」
会議の始まりに口を開いたのはプレイテリアの王だった。当代の王は女性だが、こうしてみる限り何ら男王と変わらない。威厳、経験、自信。そして何より、資質と才能に満ち溢れていた。
「我が千里眼が大きな厄災の到来を予見し、それを防がんがために諸君らに文を送ったのは既に周知の事実。この場に居る者は皆、一騎当千の武勇を誇る者ばかりだ。 前回の魔王討伐において生存者は一人であったが、それも踏まえての今回の人員招集……無論、策も考えてある」
ひときわ大きな椅子を背に、円卓を叩きながら力強く語る王はその策とやらを信じて疑っておられぬのだろう。赤い瞳は光を受けて爛々と輝き、口を開くほどに声質は強く、速くなって行った。
「戦場は我が国の地下、迷宮である。 記憶にある階層は未発見であるために不明であるが、千里眼が見せたのであれば必ず辿り着くことが出来る! ……だが! いかな勇者であろうと魔王の強さは本物、苦戦は必須であることは想像に容易い!」
そこで王は一旦区切り、下人に視線を向けた。すると円卓に運ばれてくるのは一振りの十字剣。
鞘は白の下地に緑に輝く紋章。答申は見ることこそできないものの、この場からでもはっきりと魔力を感じられる。紛れもなく聖剣の類。
「この日の為に我が用意した聖剣だ! 銘はエクセレジオーネ! この剣が必ずや我等に勝利をもたらすだろう!!」
彼女の圧に呑まれて沸き立つ仲間たちを尻目に、私は小さなため息を吐いた。
前回の魔王討伐の際に用いられたのは格が低いものの神剣が二振りに、天下三名槍のうちの一本。そのどれもが紛失、破損しているのだから、たかだか聖剣一つで魔王を倒せるなどと思い上がりも甚だしい。
……情報が改ざんされているのではないか。どうしてもそう思わざるをえなかった。
たしかに私達の戦いの全ては報告したのだ。それでこの様ならプレイテリアも終わりだ。神がいくら危機を教えようと、情報を扱う存在が粗末では何も救えはしない。誰も救えはしない。
円卓の天板の下で握られた拳は固く、瞼を下ろして怒りをこらえる。こんなことのために私たちは命を懸けて戦ったのか……?
聖剣を誰が持つか、などと瞳を鈍く光らせて互いにけん制する彼等が──
自慢気に聖剣の性能を誇る王が──
私はただただ憎く思えた。