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〖Sin Zeruchs〗破壊の神腕  作者: 雨音 研心
第一幕 テミスの降誕
4/7

#3 優城慶次の夢

 「おい。起きろ」


 子供の高い声が聞こえた。その一言が俺の目を覚ました。


 寝起きながらも誰の声かと周囲に目を凝らす。


 気づいたらただ単に真っ白な空間にいた。


 自分の姿も見えないし、もちろんその影もない。


 光源があるわけでもないのに白い空間は白に保たれている。


 俺は神様が出てきそうな真っ白な空間で意識だけが目を覚ました。


 そして、なんと目の前には幼女がいた。


 通説ならかなり可愛い部類だ。


 目がパチクリしていて、肌はこの上なくきめ細やかで色白である。


 思わず目を疑うような光景だ。


 余りにも非現実的すぎる状況に頭が追いつかない。



 「やっとワシの中に入ったか。久しぶりじゃの。ワシは武神じゃ」


 この幼女、見た目に寄らず、かなりおじさんのような口調だ。


 「誰がおじさんだ! 武神じゃぞ! 神様を馬鹿にするとは不敬だぞ」


 幼女は発展途上の胸を張る。


 「神様は幼女の姿をしていると文献には書いておったが……」


 そりゃどこの文献だ。


 「まあいい。ワシは神様じゃ! まあ神様といっても遥か昔はお主らのような人間の姿をしておったがの」


 俺は素直に疑問に思う。この幼女は一体何者なのか。


 「知りたいか。かれこれ一億年ほど前だな。ワシの星は劣悪な環境下におかれていた。そこでお主らで言う『魔導』を創り出したんじゃ。魔導を駆使して、ワシを含める数人はなんとか生き残った」


 「しかしワシの星は滅びた。寿命だったんじゃ。ワシを含める数少ない者たちは精神生命体となってまだ生きておるが、他の者は皆死んでしまったわい」


 この幼女兼神様は太古の昔に栄えた文明の数少ない生き残りというかことか。


 「ワシの話はどうでもえかったの。なぜお主がここにいるか、わかるか?」


 いきなりクレーターの真ん中にいたんだ。そんなのはわかるはずもない。


 「うむ。そうか。お主は一度死んだ身じゃ」


 「お主はな、宇宙空間から真っ逆さまに落ちたんじゃよ。それもあんなに大きいクレーターができる速さでな。そのせいでちと記憶障害を起こしているようじゃな」


 やっぱり俺は落ちたんだな。この幼女がそうさせたのだろうか。


 「まあよい、目覚めたらすぐ戻してやるわい。ワシがお主を新たな身体で生き返らせたのじゃ。今のお主は宇宙空間にいても溶岩の中でも、極寒に晒されても、放射線を大量に浴びても、真空状態に放り出されても、決して死なない身体じゃ。酸素や栄養、魔力は不要。全てワシが負担する」


 「いわゆる超生物と言っても良いな。そしてお主の中にはワシの分身であり、ワシらの叡智の結集でもある『神臓』がある!」


 神臓というか物が俺のこの不死身の身体を創り出しているのか。


 「ああそうじゃの。神臓がお主の肉体や魔導術、それにお主自身の事象軸を作っている。お主が再び生を与えられた意味でもある」


 幼女の雰囲気は先ほどとは打って変わって、何十歳も年上の女性にあるような独特な静謐を感じさせた。


 俺が生き返った意味。考えてみるも、まるで検討がつかなかった。


 「おっと、もう時間じゃ。ちなみにその服もワシの自前じゃ。お主が生きる意味、じっくり考えるんじゃぞ」


 あ、おい待て。まだ話は。


 幼女は清々しい笑顔を見せて、霧のように消えていった。




 目覚めるとけたたましいサイレンの音が聞こえた。


 それはこの休憩室だけでなく、向こうの通路や医務官室などにも響き渡っていた。


 俺は飛び起きて、辺りを見渡す。


 「幼女は夢だったのか?」呑気にそんなことを考えつつも、総合医療センターの入り口に向かう。


 しかし、通路に繋がる自動ドアは反応しない。このドアに安全装置でもあるのだろうか。


 無理やり抉じ開けようとすると、ふにゃりと鋼鉄のドアが変形した。


 頑丈で分厚いドアに、めりめりと指がドアに挟まれ減り込んでいく。


 その時、ふと幼女の言葉を思い出す。


 幼女は俺を「超生物」と言っていた。


 その証拠に、ドアの向こうにある通路も透視することができるし、サイレンの音の反響定位でここ一帯の高低、起伏など全てが手に取るように頭に入ってくる。


 この身体は間違いなく人間の域を越えている。


 そう思い始めた時、軽い頭痛が頭を襲い、ある光景が飛び込んでくる。


 「うっ……これは…」


 それはこの超弩級戦艦が無残に破壊されているというものだった。


 その遥か遠方には巨大な生物がビルの建ち並ぶ大都市で破壊の限りを尽くしている。


 ビルは無残に破壊され尽くしている。


 数々の超感覚的知覚に驚かされるが、一刻も早くこれを誰かに知らせなければならない。


 「一刻も早く……!」


 その時、あのアンドロイドの姿が目に浮かぶ。あのアンドロイドは「筆頭艦長」と自らを呼んでいた。


 ならばあの者のいる場所に行けば、状況が変わるかもしれない。この戦艦の司令室はどこに位置するのだろうか。


 すると、またも驚きの出来事が起こる。


 この戦艦の構造や能力といったあらゆる情報が頭に入り込んできた。


 さすが宇宙航空軍の戦艦と言うべきか、とてつもなく巨大な艦体を有していた。


 司令室は司令塔の上甲板の第一艦橋にあった。千里眼というものなのか、司令室の様子をその場にいるような感覚で知ることができた。


 この人外の肉体もさることながら予知に、透視に、千里眼、これらは全て魔導術ではない。


 恐らく幼女が俺に与えた、いわゆる超能力というものなのだろうか。



 司令室は極めて落ち着きがなかった。


 「総本部から緊急通告。被害規模25キロメートル、緊急災害危険度ゼータと断定。緊急事態宣言発動、惑星ネイルドにおける行政立法戒厳令が発令されました」


 《Emergency》と表示された巨大なモニターに映し出されているのは、“悪魔”の姿をだった。


 頭部に生える二本の赤い角、太陽光を全て吸収するかのような全身を覆う禍々しい漆黒の皮膚、見るもの全てを畏怖させるような紅く光る眼光。


 そして二本の角から放たれる強大な破壊光線が街を破壊し尽くしている。


 これらを悪魔と形容しなければ、何を悪魔と言うのか。


 ヒッポグリフを彷彿とさせる体高250メートルの巨獣が映るモニターに目を凝らすと、その異質さがひしひしと伝わってくる。


 「なに!? たかが1個体でそれほどの被害とは……。しかも危険度ゼータは害獣災害において初の事例だ」


 その声は紛れもなくアンドロイドの声だ。


 その声と態度は先ほどとは違って落ち着きがなく、震えているようにも聴こえた。


 経験したことのない未知の出来事に驚いているように思えた。


 「隕石衝突の衝撃によって数百年の眠りから目を覚ましたと思われます!」


 俺が原因でこの巨大生命体を覚醒させてしまったと言うことか。


 「筆頭! 対象こちらへ気づいた模様! 破壊光線放たれます!」


 突如放たれたその光線は多くの人々の視界を一面白に変化させる。


 同時に艦体全体がこれまでにないほど揺らぐ。


 「全艦、前方に物理障壁!」


 カリヤは声が司令室に鳴り響く。


 「うッ! 被害報告!第三母艦上甲板全壊! 損害率68パーセントです!」


 「第五母艦の第一艦橋及び機関部の損害率89パーセント!墜落します! 」


 「艦載機及び爆撃艦推計500、通信途絶、沈黙しました!」


 「全艦、物理障壁破られました! 総被害甚大です!」


 司令室の至る所から被害報告があがる。


 「総戦力の33パーセント消失しました……!」


 対象から放たれた光線は甚大な被害をもたらす。


 司令塔を失った第三母艦はもはや航行不能。


 第五母艦が墜落したことを意味する轟音は被害報告の直後に耳に入ってきた。


 大地を慄わす轟音に筆頭艦長カリヤの目に絶望感が漂う。


 ゆっくりと俯き、何か独り言を呟いている。


 しかしそれも一瞬だった。


 すぐに俯いた顔を上げてモニターに向かって叫ぶ。


 その姿は意を決した様子だった。


 「残る全艦で奴を殺せ! 全艦最大出力の全主砲で奴の頭部の角を破壊せよ!」


 筆頭艦長であるカリヤは全艦に向けて攻撃命令を発する。


 「しかしそれだと被害は居住区域に及ぶ可能が」


 カリヤはその言葉を待たずに反論を返す。


 「構うものか! 対象の掃討が最優先だ! 全艦機関部に告ぐ!最大出力のエネルギー爆縮を開始せよ!」


 その言葉と共に艦体全体を震わせる震動が起こる。これは機関部がエネルギー爆縮を開始したことを意味する。


 「艦外の全ての軍用航空機は、自機最大威力の攻撃を奴に浴びせろ!号令は無しだ! 今すぐにでも奴を殺せ!」


 言葉の一つ一つは落ち着きが無いように見えるが、カリヤの様子は極めて冷静で堂々としていた。


 「エネルギー爆縮80%…90…100…110…120% 全艦エネルギー充填完了との報告!」


 「全艦に告ぐ!照準を奴の頭部に合わせろ!全主砲発射まで3秒前…2…1…主砲発射!!」


 全艦から無数の光の矢が放たれる。


 それは対象の頭部を確実に捉えていた。対象の頭部から黒煙が上がる。


 「対象に直撃! 爆縮エネルギー10%に到達! これ以上の砲撃は不可能です!」


 「全艦全機に告ぐ! 攻撃を一時中断! どうだ……やったか」


 全搭乗員が食い入るように対象を見つめる。


 数十秒間の主砲総攻撃を終え依然として黒煙は上がり続けているが、対象は沈黙を守っている。


 あいつは生きている。俺はそう感じた。


 「た、対象から生体反応! 奴は……生きてます!」


 その時、黒煙の中に薄っすらと赤い光が見える。


 それは対象が未だ生存していることを意味していた。


 絶望が強襲する間もなく、赤い光線は戦艦に向けて放たれる。


 亜空間航行でワープしようにも、対砲撃物理障壁を張ろうにも、もはや通常航行をするために必要な最低限のエネルギーしか残されていない。


 「終わりか……」


 全てが絶望へと変わった瞬間だった。

風邪が辛いです……

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