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〖Sin Zeruchs〗破壊の神腕  作者: 雨音 研心
第一幕 テミスの降誕
2/7

#1 優城慶次の目覚め

ちょっと全体的に改稿しました

 目覚めると、ゆらゆらと揺らぐ青が目に入る。


 それは間違いなく空だ。


 雲一つも見られない晴天の空だ。仰向けであるため一望できる。


 間髪入れずに太陽の光が瞳孔を刺激する。


 「眩しい…」


 陽の光を避けようと、上半身を上げる。


 体表から、ぼたぼたと液体が溢れているように感じたが、その時は特に気にしなかった。


 視界に映る空全体がゆらゆらと揺らいでいるように見えた。



 これは気温が高い時に見られる“陽炎かげろう”という気象現象だ。


 俺は直感的に理解した。


 しかしこれは空気密度の差によって生まれる。


 空気は温度が低い程、低密度になるのだから、どこかに特出して高温な熱源、もしくは外気温が特別低いという可能性が考えられる。


 体感的に寒くは感じないのだから後者は考え難い。


 「どこにも……ん?」


 ふと自分の手を見る。


 そこには灼熱に煮え滾る(たぎる)溶岩が流れていた。


 よく活火山で見られる、溶岩と、溶岩になりかけの岩石が混じっている状態ではない。


 「な…んだこれ…」


 困惑するのも無理はない。


 何故なら全く熱さを感じないのだから。


 普通の人間であれば熱さに耐え切れず、気づいたら手は溶岩の餌食えじきになってそうだが、熱さを感じないに加えて、手が溶ける気配もない。


 「人間の体ではないのか?」と疑問を抱き、他にも異質な点はないか、全身を観察してみる。


 黒い強靭な繊維でできた服を着ていることに気付いた。


 いつから着ている服なのか、まるで見当がつかない。


 「ふんっ…ぬっ…あっ……」


 いくら身体を捻ろうとも力強く引っ張ろうとも決して破れなかった。


 「こりゃどうやって脱ぐんだ……?」


 どうやら体全体が岩石を溶かすほど、高温に熱せられているようだが、この服は先程から何も変化がない。


 そもそも、ここにいる理由が掴めない。


 細やかな疑問は浮き出るばかりで、一向に解決されない。



 じっと辺りを見渡した。


 知らない場所に連れて来られて、目隠しを外された時のように、最初は何が何だかよく理解できなかった。


 数秒間見渡してやっと理解した。それは見たこともないような異様な光景だった。



 数十キロ先には断崖絶壁の岩肌が取り囲むように露呈ろていし、下を覗けば抉られたように谷状の低地が崖まで続いている。


 また小さなクレーターが所々に点在していた。


 そして俺が目覚めたここは、この円のほぼ中央に位置している切り立った山の台地であるらしい。


 頂点とは言っても、付近には俺が大小さまざまな山が数個ほど形成されていた。


 遥か向こうにある断崖よりはだいぶん低い場所にいるみたいで、遠くの崖の更に向こうは見えないが、ここからは満遍なく全方位を見渡せる。



 全貌を探るため、空間移動系統魔導術を行使する。目にも留まらぬ速度で、数百メートル上空にまで達した。


 地上いた時はあまりにも巨大すぎて、具体的にどのような地形なのか把握できなかった。


 しかし、ここからだと非常に全て把握できる。そこには月や火星にしか存在しないような巨大なクレーターが目下に形成されていた。


 その光景はとても美しいかった。


  円形の盆地とそれを取り囲む円環状の山脈であるリム。また広大なクレーター底と、中央には非常に大きな中央丘がいくつもできている。


 遥か遠くを眺めると衝突によって飛び散った噴出物が光条こうじょうを成していた。


 リムは綺麗な山脈となっており、クレーター底には無数の二次クレーターがあった。


 多重リングクレーターと分類される最大規模のクレーターである。



 超音速飛行で最遠の光条を辿るが一向に光条の果ては見えない。


 全方位、数百キロに渡って噴出物が飛び散ったようだ。


 クレーター付近には一軒家ほどの巨大な岩塊がごろごろと転がっていたが、そこから遠ざかるうちにだんだんと岩塊は小さくなっていき、岩塊の隙間には所々大木の破片や緑の地面が顔を出していた。


 衝突の直前までは森林地帯だったようだ。


 衝突に伴う地震も凄まじかったようでもはや地面は原型をとどめていなかった。



 幸い陸地に衝突したが、この惑星に海洋があるのであれば確実に、この衝突で小さな津波が起こっているはずだ。


 恐らく空気や地面を通して衝撃波は人間の居住区域にも届いているはずである。


 更にはこの惑星の公転軌道すらも数μmmほどずらしてしまった可能性があった。


 それによる気候変動や異常気象は計り知れない。



  ここまでの被害をもたらすには超高速で大質量の物体が強大な運動エネルギーを持って落下したとしか考えられない。


 また、綺麗な円形のクレーターから考えるに衝突物の入射角はほぼ直角と考えられる。


 このクレーターが衝突ではなく、人為的な爆発であるとも推測できるが、森林という利用可能な土地で、わざわざ兵器の実験などするだろうか。



 岩石を溶かす超高温の身体、クレーターの中央で目覚めたという事実。


 ………この二つから考察するに「落ちたのは……俺か…完全に俺だよなあ……」という結論に至る。


 眼前には破壊によって創造された超自然的な光景が広がる。



 改めて、今までの記憶をさかのぼってみても、どうやら記憶障害を起こしているようで何も記憶がない。


 感覚的なことや、自分以外のことに対しては記憶があるが、自分のことやここに至るまでの経緯などは全く思い出せない。


 この状況といい、何が起きているのかさっぱりわからなかった。



 もう一度周りを見渡す。


 再び、クレーターの中央部に戻ろうとした時、風が吹いた。


 上空を流れる風はすっかり冷えてきた。


 最初は一帯は、空気ごと熱せられていたが、既に冷えていて、涼しかった。


 一応、暑い寒いの感覚はあるようだ。


 「俺もまだ、人間なんだな」とりあえず安心した。


 風が吹いてきた方向を眺める。


 そこには何やら、浮遊する物体があった。


 この遠距離でありながら、その物体は細部までまじまじと観察できる。


 それは巨大な戦艦あった。


 一触即発の雰囲気を醸す戦闘機集団は明らかに俺を攻撃対象として睨んでいるように見えた。


 しかし攻撃を仕掛けてくる気配はまるでない。じっとこちらを観察してきている。


 数十秒が経過した時、艦底から数機の航空機が出現し、爆音を鳴らしならがこちらに向かってくる。


 見るからに戦闘に長けた航空機である。数機は、接近するにつれて減速し、俺の数メートル先で停止した。



 あの戦闘機集団との接触を図ろう。


 警戒されないようにゆっくりと空間移動をする。


 何らかの機械を使わずして生身で飛行する人間は奇怪であろうが、わざわざ荒れ果てた地上を走るわけにもいかない。



 すると数個の物体が、機体の体側のハッチから出現した。


 「あれは…ロボット?」


 人間型の物体が、エンジンを吹かせながら飛行という手段を使ってこちらに向かってくる。


 近づくにつれて判明したが、あれは生きてる人間ではなく、人間型のロボットであった。


 鏡のような銀色の体は、何度か大陽光をちらちらと反射してきた。


 「何者だ。なぜここにいる」氷のように冷たい女の声が聞こえる。


 「…俺も知らない。気づけばここにいた」


 正直に答えるも「ふ、そんなバカなことがあるか」と茶化された。


 「こいつ、初対面のくせに馴れ馴れしいやっちゃな」なんて言えるわけがない。



 「一応、自己紹介しておくか。私は世連軍統合航空宇宙軍戦略攻撃軍団第805航空団、筆頭艦長のカリヤ・シヴァルだ」


 こちらも自己紹介しようとするがどうも自分の名前が思い出せない。


 「しかし、なぜこんなところにいる? ここは第3惑星群、地球からは10.7光年も離れている。亜空間航行が出来そうな宇宙船はどこにも見当たらないが……」


 「本当だ。気づいたらここにな」至って真剣に答える。


 女はため息を吐きそのまま続けた。


 「ため息?え?なんか変なこと言った?」なんて言えるわけがない。


 「報告によれば、巨大な隕石が降ってきたと聞いている。お前は生存者か? 人間は跡形もなく吹き飛ぶはずだ」


 アンドロイドはこちらをじっと見つめてくる。


 「……恐らくその巨大な隕石……そりゃ多分俺だ」


 しばらくの沈黙の後、アンドロイドは吹き出して高らかな笑い声をあげる。


 「そりゃすごい、一体なんの冗談だ? 正直たいして面白くないぞ」


 アンドロイドなので分からないが、最後に一言は明らかに故意に冷やかしている。


 「お前、殴るぞ」と言いそうになる。


 先ほどから本当のことしか言っていないのだが。


 「まあいい。とりあえず私の船に乗れ。亜空間長距離航行遭難者は搭乗させなければならない義務がある」



 先ほどアンドロイドが出てきた母艦の舷側のハッチが開く。


 戦闘機が出撃するような巨大なハッチではなく、人間が一度に数人ほど出られそうな大きさだった。


 艦内に搭乗すると未だ高温である外気温とは違って人間に適した温度管理がされていた。


 ひんやりと涼しい。


 気づいたら水蒸気が身体から発生している。


 体温と外気温の差で生じる水蒸気のためどうすることもできない。


 奥の方からひとりの女性が歩いて来る。


 不審に思われないだろうか。少し不安だった。


 綺麗なお姉さんだったらどうしよう。



 「はじめましてですね。私こういう者です」


 すごく綺麗なお姉さんでした。


 《第805航空団緊急医療班ヒビヤ・トモコ》と表示されているディスプレーを俺に見せてきた。


 嬉しいことに、水蒸気に驚いてる様子はない。


 「貴方が遭難した方ですね。まずは医務室へご案内します。ちなみにレジスターはお持ちですか?」


 そのレジスターというやつ、持っているはずがない。


 「持ってても溶けてるね」


 トモコは頭を傾けて、「あなた何言ってるの?」と言ってきそうな顔をした。


 どうやら俺が落下物の正体であることは知られていないらしい。


 記憶喪失に陥っているせいで、レジスターも何なのかも思い出せない。


 「少し記憶障害があるようね……」「しかも船外に生身で……」「よくもまあ船外で活動できたわね……」


 などとぶつぶつと言いながら《総合医療センター》と表示されている比較的大きな部屋に入る。


 見たこともないような多くの医療機器が並べられている。


 更に奥にある総合診療室に入った時、彼女は耳を手で押さえる仕草をした。


 トモコの耳介には白色の小さな機械が貼り付けられている。


 見たところそれは通信機器の類である。


 少し通信内容が気になる。


 「…少しだけ覗いてみてもいいよね?」心の中で呟く。


 適当に選んだ椅子に座る。


 少しばかり背徳感を感じつつも、電磁気系統魔導術で通信を傍受する。


 「彼の容姿は、かの大英雄ユウシロ・ケイジ大元帥にそっくりだわ」


 ユウシロケイジ、それが俺の名前なのか?


 「あの決戦級秘匿魔導士ですか?! 医務長、彼はつい先日、自ら命を絶ったと聞きましたが……」


 彼女は向こうの医務官室で診断のための機器を用意していたが、驚いてる様子を隠しきれていなかった。


 「そうなの。そのためにも解析を急いでちょうだい」


 医務官室から出てきたトモコは精密検査室へと案内し、同心円状の医療機器の中央に横になるよう指示してきた。


 言う通りに横になったのを確認して、窓越しにある『大型CPI管理室』に移動していった。


 どうやらこの同心円状の医療機器はCPIというものらしい。



 数分ほど待っていると、彼女はまた耳元の通信機器で医務長と言われる女性と話し始めた。


 CPIからコンタクトレンズ型のディスプレイに視覚情報が送られている。


 魔導術を使い、外側膝状体を通して大脳皮質感覚野に視覚情報を移す。


 『CPI分析結果』と名付けられていたその資料は俺の情報を隅から隅まで調べ上げていた。


 しかし身体情報を以外の全部の欄が『error』と表示されている。



『身体情報』

《身長》189㎝

《体重》85kg

《BME》23.58(平均値範囲内)

《視力・聴力》error

《血糖・血圧・血中脂質》異状なし

《機能不全及び異状臓器》なし

《ウィルス及び病原体反応》なし

《詳細情報》

未知の生命体です

ホモ・サピエンス・サピエンスと

酷似していますが

現存するヒト型生命体に比べ

未確認の物質で構成され

遥かに高度な生体構造と

未知の分子構造で構成された

細胞を持っています

細胞核からは非常に複雑な

高分子生体物質が確認されました

また身体内部から非常に高い熱源反応があります


『観測情報』

《最大瞬間魔子放出量》error

《魔子空間含有量》error

《魔力潜在保有量》error

《魔導演算式処理速度》error

《事象軸干渉率》error

《詳細情報》

観測限界値を超えました


『内在情報』

《対事象軸シーケンス制御能力》error

《演算言語瞬間変換効率》error

《高エネルギー事象子加速度》error

《論理演算子完全性》error

《主記憶処理率》error

《二次記憶処理率》error

《三次記憶処理率》error

《標準事象出入力》error

《集積素子移動率》error

《詳細情報》

ヒト属以外の内在情報は解析不可



 うぉ、なんだこれ。正直に驚いた。


 「へ? なにこれ……。こんなの見たことがないわ。」


 少しの間を置く。


 「……じゃ、私達は新人類を見つけてしまった、ってこと?」


 「CPIの故障という可能性は?」


 「ブレイン社のCPIに故障なんてここ数十年ただの一度もないわ。その可能性は限りなく低い。にしても人間でなくてもここまで詳細に解析できるのねえ。さすがブレイン」



 検査終了後もトモコは俺を珍しい目で見るわけでもなく、驚愕の事実に腰を抜かすわけでもなく普通に接してくれた。


 ただし「貴方は、人間でないの」とは教えてくれなかった。


 俺は人間でないと知ったとき、案外、あまりびっくりしなかった。


 人間ではないと宣告されても「ん?ああ、そうなの」と言ってただろう。



 今まで自分について分かったことは、まず俺の名前はユウシロケイジである可能性が高いということ。


 そして人間ではないということだ。


 俺はこの事実にどう反応していいのかわからなかった。



 「休憩室でどうぞ休んでて下さい」と言われたので、仮眠スペースで横になっている。


 人間ではないもののどうやら睡眠欲はあるらしい。


 人間らしいことは残っているんだな。


 少しばかりか眠くなってきた。段々と意識が遠ざかっていった。


 数十分前、「俺もまだ、人間なんだな」と呟いたのを思い出した。



 「全然、人間じゃねぇじゃねぇか」


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