魔力の目覚め?
眩しい。
なんだ?
頬の傷がヒリヒリする。顔が生温かい。
目を開けると目の前に狼の顔面。
「うぉっ!」
ビクッと後ずさる狼。
この前会った狼だ。何故かそう思った。どうやら敵意はないらしい。ただ僕に興味があるだけのようだ。なんとなく話しかけてみる。
「心配してくれたのか?」
くるくると尻尾を回す狼。可愛らしい。
「この前はごめんな。怖がらせて」
狼をなでる。
ペロペロと顔を舐められる。
「ははっ」
気にすんなとでも言ってるのだろうか。
太陽が眩しい。
どうやら長い間気を失っていたみたいだ。
よく襲われなかったな。もしかしてこの狼がいたおかげだろうか?
「ありがとう」
狼はいきなりどうした?とでも言いたそうな顔。
クスリと笑い立ち上がる。
さて、体の変化はあるか?
気持ち悪さや体の痛みは、もうない。
鼻血は、止まっている。地面はひどいことになっていたが…。
しかし何かが変わった感じはあまりしない。
試してみるか。
「ちょっと離れてて」
何となく体に力を入れてみる。そして右手をかざす。
「出でよ、炎!」
…………。
何も起こらない。
いやいやいやいや恥ずかしっ!顔が真っ赤になる。
ちょっとかっこつけて出でよっとか言っちゃったし。
地面をごろごろと転がる。
うわぁ土に帰りたい。
よし、誰かに教えてもらおう。魔法は。
一人で試してたら使えるようになる気がしないし、恥ずかしいし。
よしそうと決まれば村か町を探そう。
地図、地図。
「狼に聞け。
なおこの地図は今後一切使えなくなる。
あ、でもたまにこんな風に我からのメッセージを送るから、大事にとっとけよ」
との文字が表示される。
もう、地図は使えないらしい。
仕方ない。狼をチラリと見る。
綺麗な眼。
でも、狼に聞けと言われましても...
まあ、ダメもとで聞いてみよう。
「狼君、この近くの人間がたくさんいるところを知らないか?」
「ワォッ!」
歩き出す。
驚いた。
ほんとに僕の言葉が分かるのかもしれない。賢い。
「ついて来いって?」
しかし、歩みを止めて伏せをする狼。こちらを見てウォウと吠える。
「乗れってこと?分かった」
狼にまたがる。
スクリと立ち上がり走り出す。
だんだんと速く、速く。道は険しい。落とされないように必死でしがみつく
筋肉痛がやばい。
しかし、文句など言ってられない。狼は僕のために湧き水が湧いている場所に寄ってくれたり、果実の採れる木を教えてくれたのだ。
狼も食べていたので、あれ、狼って肉食じゃなかったっけ?と思ったが細かいことなので気にするのをやめた。
狼はこちらのためにいろいろ考えて行動してくれている
頑張らなければ!
夜、すやすやと眠る狼を眺めて思う。
なぜこの狼はこんなにも自分を気遣ってくれるのだろうか?
なにか、この狼に特別なことをした覚えはないし、むしろ脅かしてしまって迷惑をかけた。
いつかなにかお礼がしたい。
どれくらいしがみついていたのだろうか。体がだるい。家っぽいものが見えてきた。
「ワォッ!」
狼は立ち止まった。
「ああ。ここまででいいよ。ありがとう」
背中を頭をなでる。森の中に帰っていく狼を見送る。
「本当にありがとう!!!」
狼は一度吠えると去っていった。
さて、ここからどうしよう。どうやって人に話しかけようか。人に話し掛けるのは苦手だ。不審者扱いされないようにしないと。まあ、頑張るか。それしかない。猿の時みたいに、いきなり襲われたりはしないだろう。…たぶん。
だいじょーぶ。
僕からしたら、あれからしたら、
村人に話しかけることなんて、簡単なはずだ。