森の中で
風の音。
目を開ける。
木々の隙間からかすかに青い空が見える。
体を起こす。
世界がはっきりと見える。少女は僕のお願いをちゃんと聞いてくれたらしい。
まず状況を確認しよう。
服は、知らないもの。少女がこの世界に合わしてくれたのだろう。あと、簡素なリュックが近くにおいてある。手紙つきである。
目覚めたか?
何も持たせずに死んだらつまらないので役に立ちそうなものを入れといた。
魔法の地図
これには果実の在り処が記されている。あと現在地が示される。
三日分の食料
大事に食え。
革製の水筒
水も入ってる。大事に飲め。
小刀
まあ、ナイフだな。
手帳
異世界転移者たちの名前が書いてある。死ぬと、名前に線が入る。
じゃあな。我が手助けできるのはここまでだ。
なお、この手紙はお前さんが読み終わると爆発、はしないが消滅する。
手紙の隅がが黒くなり欠けていく。
ジリジリと見えない炎が手紙を焼いた。
此処はやはり別の世界であの少女は神なのだろう。
「ふう」
覚悟を決める。もう、やるしかない。
ナイフは一つしかないし、色々な使い道がある。武器として使うのは得策ではない。
地図を見て現在地と果実の位置を確認。道すがら、石を何個か拾う。長めの木の枝が落ちていたので先をナイフを使い尖らせる。
危険度は低いと少女は言っていたがあくまでもこの世界の中で、だ。つまり今までいた世界の森の危険度はあると思った方が良いだろう。熊や狼くらいならいるかもしれない。もしかしたらゴブリンやオークなどがいるかもしれない。
しかし、運動不足だ。受験と引きこもり生活のせいで。
「体鍛えないとな」
このままじゃすぐに死ぬ。
「大分進んだな」
今のところ順調である。道は険しいが...
しかし、もう暗くなってしまった。夜動くのは危険だ。明かりになるようなものも持っていない。
今日はもう休もう。
簡単に寝床を作り、腰を下ろす。そして、リュックを枕にして、目を閉じた。
朝、目が覚める。伸びをする。猿と目が合う。
木の上からこちらを不思議そうに見ている。小さい。小猿だろうか?
ガサッガサッと木が揺れる音がする。嫌な予感がする。
猿たちが集まってきた。
こちらを見ている。
「やばい」
頬を冷や汗が流れる。もしかして、縄張りに入っちゃった感じかな?
猿たちの目がギラリと光った気がした。
「ウッキー!!!!!」
木から僕めがけて飛んでくる猿たち。
「うわわわわわっ!」
慌てて荷物を持って走り出す。猿の手に掴まれたら洒落にならない。全速力だ。
「うおおおぉ!!イテッ。イタタタタっ!」
木の実を投げつけられる。小猿が空から降ってきて顔を引っ掻かれる。
「くぬっ!」
小猿を引き剥がす。
やばい。息が!疲れた!
いきなり全力ダッシュはきついよ!運動不足なんだよ!
だが、ここで、止まったら猿の攻撃の集中砲火を食らう。
走れ!
……。
拝啓 母
お元気ですか?私は死にましたがチャンスをもらい、違う世界で生きてます。
だから、悲しまないで下さい。え?元気かって?
………。
ただいま全力ダッシュ中でぇぇぇぇぇぇぇぇす!!!!!!!!
アハハハハ!!元気でぇぇぇぇぇす!!!!!!
…いかん。脳内で手紙書いてる場合じゃない。
走れぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!
猿たちの縄張りから出たのか、追ってこなくなった。
「はあはあはあ、おうぇええええぇ」
吐くわ。そりゃあ。全力ダッシュなんて何年ぶりだ?
「あぁぁ。疲れた」
木に寄りかかる。ここはどこだ?
地図を確認する。
目的の大樹までの距離は…。意外と近いかも?逃げた方向が運がよかったようだ。助かった…。
あたりが薄暗くなってきた頃、周りに違和感を覚える。
待てよ。足を止める。なんか変だ。辺りを見回す。特に怪しいものは見えない。
だが、静かすぎる。さっきまで鳥の鳴き声とかしてたのに。
ぞわっとする。これはやばい。
木の槍を構える。物陰から狼が姿を現した。綺麗だ。思わず見とれてしまう。
いや、見とれている場合じゃない。
でかい
知っている狼のサイズよりでかい。
一匹のようだ。いや、油断はできない。
どうしよう。心臓の鼓動が速くなる。
やばいやばいやばいやばい。落ち着け落ち着け。
「グルルル。」
狼がうなる。びくっとする。
大丈夫。落ち着け。ゆっくり息を吸え。考えろ。思考を放棄するな。
ジリジリと近づいてくる狼。一気には近づいてこない。
警戒してるのか?よし。
「うわぁ!!!!」
大声を出す。木の棒で地面をビシッビシッ!と叩く。少し後ずさりをする狼。
「わあああああ!!」
びくっとする狼。どうやら臆病らしい。もう一度大声をだすと逃げていった。
汗が吹き出る。
怖かった。
森に音が戻る。
早く目的の物を見つけて村とか安全な場所へ行こう。
現在地は果実の在り処を示している。大きな木。優しい光を帯びている。よく見ると光っていたのは木ではなく巻き付いてた蔓だった。果実は何処だ?その蔓を辿っていく。
「これか…?」
ぼんやりと緑色に光っている果実があった。少女が言っていたのはこれだろう。
たぶん。光る植物なんかあまりないだろうから。
果実をとる。拳より少し小さい。
よし。食うぞ。かじる。
まずい。もう一口かじる。
まずい。でも食わなきゃ。
よし。
モチャッネチャッ。
うわぁなんだこの食感。
なんとか全部食った。気分が悪い。
気持ち悪い。
体中が痛み始める。頭が割れるように痛い。鼻血が出る。
「うぐぐぐぐ…。」
その場に倒れ込む。
気持ち悪ぃ。吐く。やばい。
「うぼぁぅ、うぐっ!」
吐いちゃだめだ!実を食べた意味がなくなる。必死に呑み込む。
体がビクッビクッと震える。
起きてられない。鼻血が止まらない。
目がかすむ。灰色の物体が近づいてくるのが見える。
ハッハッと獣が息をする音が聞こえたような気がした。まずい。意識が遠のいていく。もう、終わってしまうのか…?
気を失った。