昔の偉い人が言ってた事にはちゃんと意味があるんだよ。
36日目 最果ての迷宮 56F
結局、遥君は皆の治療を済ませると崩れ落ちる様に寝落ちしてしまった。
そして甲冑の騎士の人は其れを守るかの様に傍に佇んでいた。
話し掛けられる様な、話し掛けて良い様な人では無い様な雰囲気。
お礼だけを言い、遥君が目覚めるのを待つ。
こっちも皆ぼろぼろで、倒れ込む様に眠りに落ちて行った。
もう、誰も動く体力も、喋る気力も失い、精神が切れると共に崩れ落ちた。
目が覚めた時には、いつもの様に、当たり前の様に、まるで普通の日々の様に遥君がご飯を作っていた。
あの、洞窟での毎日と同じように、茸だらけだとぼやきながら、当たり前の日常を、只普通に、極自然に。
みんな重い身体で、でも美味しい匂いで起き出した。お食事をしながら、遥君を質問攻めにする。
完全に詰んだ。全滅だった。罠とすら気付かずに、逃げる事すら出来ずに、ここで終わりだった。
けど、遥君は答えを知っていた?空間把握ってスキルで分かったらしい?
「ほら?ここってパズル部屋?的な?えーと、あれだよ、四つの隠し部屋を見つけて、アイテムを揃えたらクリアー?みたいな?」
そういう仕組みだったらしい、道理で絶対不可能なモンスターハウスだと思った、知らなければ絶対に死ぬ。最悪のトラップだ。でも?あれ?揃えて無いよ?アイテム?
「でも、倒せてたし?殺せるんだよね?どうにかしたら?」
「いや、ムーミーも、スフィンクスも倒せないから、スフィンクスは「魔法無効」「物理無効」「不死身」だから、で、スフィンクスがいる限りムーミーも黄泉返るから、永久に倒せないよ?これ?」
倒せないって?殺せないって?魔法無効で物理無効なら攻撃なんか効かないし、効かないのに不死身の化け物さん、殺されてたよ?
「「「「なんで魔法も物理も無効な不死身の魔物を殺しちゃってるの!?」」」」
「それはほら?あれだよ?昔の偉い人が言ってたじゃん?「殺って殺れない事は無い」みたいな?」
その言葉は聞いた事が有る。有名だ。やらずに出来るはずがないと続くんだけど、意味がちがわない?物騒な方向に?
「「「「「誰が言ったの!なに、その凶悪な昔の人?第六天魔王より残虐非道な戦国武将かなんかなの?」」」」
「え~と?はらっ、あれっ、「殺ればできる」、とか?」
「「「「、、、、、は~っ。」」」」
どうして大体全部何もかも問題は殺して解決しようとしてるの?その人?そんな恐ろしい昔の人が昔存在していたら、間違いなく人類は絶滅してるから!?その人に確実に殲滅されているよ人類!?
そして、
「え~と、其方の騎士の方、助けて頂き、ありがとうございました。」
「「「「「ありがとうございました。」」」」
無言のまま優雅で奇麗な返礼を返してくれた。でも、なんか、ただ其処に居るだけで、其処がまるで違う世界の様に見える。そう、別世界。
「え~と、遥君?此方の方を紹介してくれるかな?」
「あー、ここの迷宮皇さん?元?的な?」
「「「「なんで、迷宮皇さん連れてきちゃってるの!?」」」」
圧倒的な筈だ。スフィンクス、あの恐怖と畏怖を混ぜ合わせたかの様な凄まじさ、そのスフィンクスがまるで目にも留まらぬ羽虫の様に踏み散らされる訳だ。
ただの57階層の主、階層主ですらないスフィンクスなど通り縋りの塵芥でしか無かったんだろう。
「え~と?助かったと思ったけど?私たちここで死んじゃう?」
「あれだよ、あれ?連れてきちゃってる訳ないじゃん?え~、ほら?使役しちゃった?みたいな?」
「「「「なんで迷宮皇さん使役しちゃうの!?その人って使役とかしちゃっていい様な人じゃないから!?この世界の最大重要人物だから!?」」」」
一体全体何をしちゃってくれてるのだろう?迷宮王ではなく、迷宮皇。迷宮全てを統べ、迷宮王さえ従える迷宮皇。元って、そんな重要な要職の要人を退職させちゃったの?それで、使役しちゃった挙句に連れてきちゃったの!?
でもそれなら、だからこそ遥君はここにいる。
そうでなければ私達は全滅していたのだけど。
何をどう考えたって遥君がここにいる筈が無い。
たった一週間前に、迷宮の最下層、第100階層に落ちたのだ。
たかが一週間で、43階層も踏破出来る訳が無いんだから。
でも、その横に居るのが、この迷宮、全ての迷宮を統べる最強の迷宮皇ならば?
其れなら突破出来るんだろう。其れだから踏破して来たのだろう。
最悪の魔物が犇めく迷宮の下層を、最下層の最強と共に。
だから私達は助かったんだ。
最悪の迷宮の最強の迷宮皇の脅威で、その迷宮皇を使役しちゃう非常識な殺戮者の虐殺で。