真面目に戦わないと怒られるけど、真面目に戦うと貶される。
35日目? 最果ての迷宮 56F
偵察からの報告を聞き、会議する。
本当は撤退するつもりだったが、57Fの魔物ムーミーは数が多いだけで消耗戦にしかならないみたいだ。
もう一度戻って来ても、57Fで消耗し時間を取られる。
ならば、57Fだけでも殲滅し、次の攻略を有利にしよう。
そう決まった。
でも次なんか何処にも無かった、57階層。其処が私達の攻略の最期だった、この迷宮での終焉だった。
「ムーミー Lv57、数は多いけど力だけのミイラだよ。遅いし、すぐ死ぬし。」
「ただこの数はねー。」
「とにかく減らそう、もうリスポーンは無いんだから、削っちゃおう。」
「ただ、スキルに「黄泉返り」って有るから、神聖魔法か、火炎で止めね。」
「「「「「了解!」」」」
情報通り数だけだ、消耗戦、速攻で殲滅し撤退する。
力こそ強いが、動きは遅く、一撃で数体を一気に倒せる、ひたすら数が多いだけ。
倒した敵は神聖魔法で浄化し、火炎で焼き尽くす。
楽勝だ、面倒なだけの階層だ、みんなそう思い、最期にひと暴れとなぎ倒していった。
無双のままに蹴散らし、踏破し、58Fまであと少し、そう思ったときにそれは始まった。
何処からか、紫光が輝いたと思う間もなく、大地が揺れ、死者が蠢く。
あまりにも数が多すぎる、だが、撤退するにも退路が断たれた。ならば、下へ逃げるしかない。
下も安全なんかじゃ無い、でも、此処に留まっても、上の階を目指しあの死者の群れに突入しても、確実に全滅する。
作戦とか戦術とかじゃ無い。もう、下にしか逃げ場がないのだ。
今は、後悔してもしょうがない、皆を逃がす。
無限に湧き続ける木乃伊達の軍勢、無限に繰り返す迎撃、其れでも見渡す限りの木乃伊達の海原。
刀は折れ、矢は尽き、魔力も枯れ、盾も砕け、鎧も割れ、槍も失い、戦う術すら無い、もう、何も残っていない。
最早、敵の足止めも、振り払う事も出来ずに、只這うように逃げる。
限界なんかとっくに超えている、皆傷つき、魔力も枯れ果て、装備も破壊され、薬も尽き、体力すら使い果たし、気力すらも燃え尽きかけている。
ただ、逃げる為に、傷ついた仲間を引きずり、倒れた仲間を担ぎ、逃げ込む。
そこに58階層への出口、この先に在る階段、ただ一つの希望、それは、叶わない。叶わなかった。
其処には一頭の怪神、通さずの怪像、、ネメスを付けたファラオ、獅子王の体を持つ王者の象徴、敵を打破する神聖な存在、王や神すらも守護する怪神。スフィンクス。
倒すとか戦うとか考えられる様な存在ですらない。あれは人に殺せるものでは無い。逃道はもう無いんだ。
スフィンクスの瞳が怪しく灯ると、朽ち果てた木乃伊達がまた動き出した。黄泉返り。
不死ですら無い、神聖魔法ですら効かない、倒しても、焼き払っても、殺しても幾度と無く黄泉返る。
斬り、払い、打ち、燃やし、貫き、潰し、突き、撃つ、それでも、それでも次々に起き上がり、また襲い掛かる。幾度と無く黄泉返る。
唯一の退路には何人も通さぬ神殿の守護者、スフィンクス。獅子の身体と王の顔を持つ神聖な存在、そして怪物。
一人また一人と倒れ、もう戦う処か動ける者すらほんの僅かだ。
挟まれてる。もう勝つ術は無い。一人でも逃がす、一人でも多く、それだけを願い、祈る。そして身を捨ててでも退路を開く。敵陣に飛び込もうと、切り込もうと、当たり砕け散ろうと、、、、、、、
だがそれすら叶わない。
突然に死と恐怖の闇風を撒き散らしながら白銀の甲冑姿の騎士が舞い降りる。只一刀で最悪の魔獣、最凶の化身スフィンクスの首を落とし、此処に至る。
あれは抗えない者だ、抗う事すらも許されない何かだ、死よりも危険で、魔すらも跪く、此の世に在らざる者、迷宮の王、全てを統べる者、神魔の覇者。
誰にも勝てない。誰にも止められない。その影を踏む事すら許されない。でも、止める。この身を挺してでも止める。最期なら私が皆を守る、例え一瞬の時間しか止められなくても。
そんな思いすらも許されず、瞬く間も無く白銀の輝きは戦線に立つ。殺戮の荒れ狂う周りの時が静止する、時間の流れが凍て付き停止した、運命すらも止められた。其処に在るのは死の静寂のみ。
果てたスフィンクスの亡骸の上に、無数の数えきれない程の赤光が天を覆い尽くし瞬く、こんな焔炎が豪雨の様に降り散れば、瞬く間に全ての命が殲滅される、そんな残酷な瞬き。
其処には死が佇んでいた。唯我独尊の圧倒的な漆黒の死の使いが。
だから、笑って呟いた。
「お帰りなさい。おそいよ?みんな待ちくたびれちゃったよ?」
時が動き出す。横殴りの嵐の様な紅の豪雨が、赤光の光の雨が吹き荒び、皆を囲んでいた魔物の群れは焼かれ、吹き散らされ、燃え上がりながら砕け散る。
圧倒的な殺戮、圧倒的な暴力、圧倒的な惨殺、それは且つて森の中で死を覚悟し、悲劇に打ち拉がれて居た時に観た赤光の豪雨、私達の絶望を虐殺した焔の流星群。
「ただいま?的な?いや、遅いって、今日何日?みたいな?」
そう言いながら、黒い死の様な影が表れる。私が、みんなが、待ち望み、焦がれた姿で死を虐殺する 。
「あと殺っとくから、皆を下げといて。」
そう言い、一歩踏み出すとその姿は魔物の群れに躍り込み、斬殺し、惨殺し、滅殺し、圧殺する。
煌めく白銀と、漆黒の闇が舞い、駆け、踊る、踊り狂う、狂喜乱舞。周りには死。唯々死のみを撒き散らし、命を舞い散らす。
また、いつもの様に。
私たちの絶望を斬殺し。
私たちの哀みを虐殺し。
私たちの悲劇を惨殺し。
私達に訪れる死を皆殺し。
有無を言わせず死を殺し。
「おひさー?なの?今っていつ?みたいな?」
また、いつもの様に。
帰って来てくれた。
お帰りなさい、遥君。
みんなも待ちくたびれちゃってるよ?