SS 箪笥の行商に行ったら儲かったのに怒られた?
お大尽様が町にやってくる。袋いっぱいのボッタクリ商品を抱えてやってくる。
「また、ぼったくりが」「ああ、全然恩など返せてもいはしないのに……まただ」
良い子に過払いした町には追加の現物支給だと高価な茸や棍棒がばら撒かれ、魔法のように町が広がり壁も頑強に……空には舞うように白い白い魔法の粒が踊り、白く輝きながら町の風景を変えていく。
きっと誰もが生涯この光景を忘れることはないんだろう。なのに涙で世界が歪んで、白い白い世界が溶けていく。
「全く過払い請求される前に強制現物支給を強いられる超過労働で、何で投資額を超えて延々とみんな返済しちゃうの! 忙しいな!?」「「「うん、茸と棍棒が無料だって思ってる限り、延々とぼったくっても延々と過払いされ続けると思うよ?」」」「あと、魔法と錬金も無料同然だってほいほい魔改造してる限り、永遠にわかり合えないと思いますよ」
小さな小さな織物と染め物だけで細々と暮らしていた町が、赤と白に塗り替えられて美しく景観を変えて行く。織り機も染色工房も便利に変わり、恩を返そうと作っても作っても高額で買い取られていくのに……なのに、またボッタクリ商品がやってきた。
「だって無料落ちてた魔石で一生懸命に作った商品をぼったくりすぎると、バレたときが怖いんだよ? うん、あれってどうせゴブのだから山ほどあるし?」「「「誰かがゴブをゴブゴブボコボコ言いながら大虐殺してないと、魔石って山のように落ちてないのよ!」」」
子供たちが笑顔で駆け出してくる。お大尽様がやってきたと、ぼったくりにきたんだと笑顔で駆け回る。
「しかも蔓延って採っても採っても減らない茸と交換ってバレたらヤバいんだよ!」「「「何処かの誰かがゴブをゴブゴブボコボコ言いながら大殺戮してないと、茸も無限に蔓延らないし採集すらできないのよ!!」」」「ああー、原価が無料で、輸送費と人件費の本人が迂路迂路してるだけで無料だと……実は凄いボッタクリ価格!?」「ええ、魔物の脅威を全く感じず、伝説級の錬金術が暇潰し感覚な人だけにしかできないボッタクリ価格ですけどね」「あれって道端に落ちてる石塊も茸も魔石も、全部おんなじ感覚なんでしょうね」「「「ああー、全部落とし物だと思ってそうだね!」」」
もう病人もいない。誰もが元気に働けて、そして今では魔物の脅威からも守られている……だから町の誰もが必死に感謝を込めて糸を紡ぎ、祈るように丹精込めて染め上げ、その思いを込めて織り上げていく。
なのに織っても織ってもぼったくられる。それは黒髪の言葉だという、どの街でも村でも怯える恐ろしい言葉――そう、またぼったくられて町は豊かに幸せに変えられていく。白い白い幸せに染め上げられていく。
「これは魔石動力の紡績機!」「こ、こんな高価なものを」「「「ああ、またノリと勢いで作りすぎたんだね!」」」「触手製大量生産ですから……あれすら無料で大儲けだって、こっそりガッツポーズしていますよ?」「「「うん、その後ろで町の人は拝んでるし、温度差が凄まじいことになってるね!」」」
お大尽様が町にやってきた。袋いっぱいのボッタクリ商品を抱えてやってきた。子供たちは玩具を貰って泣きながら喜び、その親達も涙を零しながら困りきった顔で微笑む。
「うん、子供に欲しがらせて親に買わせるボッタクリ商戦こそがお大尽様への道なんだよー! みたいなー!!」「「「うん、問題はどうして毎晩毎晩内職で余剰在庫が溢れちゃうのよ!!」」」
そして笑顔を残してお大尽様は町から町へとぼったくりに旅立っていく、「ぼったくったぞー」と歌いながら。
「なんか拝まれてるよ!」「本人はぼったくりつつ、内職を丸投げしたって悪い笑顔なのにねえ?」「「「うん、ボッタクリってなんだったっけ!?」」」「つまり……また破産したんだね!」「「「遥君!!」」」「ちょ、違うんだって、あれは先行投資って言って閃光のように投資が闘志を漲らせてスピードの向こう側でハードランディングに箪笥作りすぎちゃったんだよ!」「「「どんな状況なのよ、それは!」」」
ただただ、いっぱいの幸せだけを残して、町から町へ村から村へと。ああ、これは良い箪笥だ……でも、なんで箪笥?
メリークリスマス(*´ω`*)




