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2巻出版記念SS 「お嬢様の後ろ姿」

お読み頂きありがとうございます。皆様のお陰を持ちまして、オーバーラップ文庫様より明日6月25日から2巻が発売となりますm(_ _)m。


「ひとりぼっちの異世界攻略 life.2 最強迷宮皇もぼっちだった」

著:五示正司 イラスト:ぶーた様


実際は書店では(フライング)発売中とのことですが、OVL様HPにて特設サイトも公開されております、そんなわけで2巻前後の風景を。


ど素人の大迷走なお話を読んで頂いた上に沢山のレビューを書いて頂き、本当に沢山の方々からブックマークや御評価を頂き、感想欄では誤字脱字からステータスまで皆さんに修正していただいて本当にありがとうございます。沢山の方々にご購入いただいたおかげで2巻まで出すことが叶いました、もう只々恵まれ過ぎて皆様への感謝で一杯です、重ね重ね本当にありがとうございます。


五示正司m(_ _)m


とある日の辺境の領館



 降り注ぐような日差しの中を、黄金色の髪をなびかせて姫様が輝く笑顔でお出掛けになられる。沢山の御友人に囲まれて嬉しそうに幸せそうな微笑みで──きっと、あれは未来の英雄譚の後ろ姿。あれが姫様のずっと目指されていた夢の果て。


 姫様の幼き頃からの夢、それはムリムール様でした。それは憧れと呼ぶにはあまりにも悲壮で哀しい決意にしか思えませんでした。それは幼い少女には辛い厳しすぎる道だったのだから。


 それがあんなに嬉しそうに、幸せそうに御友人に囲まれて……それを一番に喜ばれているのはきっとムリムール様なのでしょう。


 ずっと必死でした、身命を賭した壮絶な決意でした。その姫様があんなに嬉しそうに、心のままに軽やかに……地団駄をお踏みになられて?


 かつて私が幼い頃に憧れたのは当代の姫騎士ムリムール様でした。王国でも辺境でも美しき姫騎士様の英雄譚はどれだけ語られてきたことでしょう、歌に謳われお芝居が上演されて当時はまだ跡継ぎだったメロトーサムと並び語られる活躍に幼き胸を踊らせたものでした。その何もかもが子供の頃から身体が弱かった私の憧れだったのです。


 そして、その姫騎士様が辺境へと嫁がれて来られると決まった時は誰もが大喜びし、お祭り騒ぎでした。それは優しかった先代の領主様が小数の兵だけを連れて魔物に襲われた村を救けに向かわれ、身を張って魔物を食い止め村人を逃して……そして命を落とされた悲劇の後にようやく訪れた幸せな話題。誰もが嘆き悲しみ悲嘆に暮れていた辺境に、ようやく齎された幸せな知らせだったのですから。


 そして王国の剣と湛えられたメロトーサム様が領主を継がれ、姫騎士を廃されたムリムール様が嫁いできた時は辺境中がお祭り騒ぎでお迎えをしました。


 貧しかったけれど、命を捨てて領民を護って下さった先代様の為にもってみんなが燃えていました……だけど、それこそが破滅への始まりだったのです。


 王国の剣メロトーサム様と姫騎士ムリムール様が辺境軍を率いる。それは魔物たちと戦う強い力になるはずでした、実際ご結婚されてからは一気に平和になりつつあったのです。


 だからこそ、その強さを恐れられた。今まで辺境への支援を掠め取っていた貴族たちの疑心暗鬼な怯えが膨らみ、そして王都で影響力を持たれていたお二人は共に辺境にいらっしゃる……徐々に辺境への支援物資が途絶えたのです。それは戦う力である武器装備、そしてその材料までもが。


 辺境が王国から孤立したのです。多くのの英雄たちが尽くした辺境は王国から裏切られ、辺境は力を失い貧しくなっていく日々が始まりました。それはどれだけメロトーサム様が王都で粉骨砕身に働き掛けて下さっていたのかという事の一端。王都との繋がりが途絶え、メロトーサム様のご友人でもあらせられる国王様が倒れてからは状況は一気に悪化し……ついには辺境は王国からの支援を断たれたのです。


 そして、悲劇は止まらずムリムール様が出産後に病に罹り剣を置かれたのです。それは悲嘆と安堵で迎えられました。日に日に拡大する魔の森に怯え被害を受けながら、満足な武具もない状況でムリムール様やメロトーサム様に前線に出て欲しくなかったからこその皮肉な安堵。


 ですが、その事実にもっとも苦しんだのは幼きメリエール様でした。物心つく頃には自分が生まれたせいで姫騎士だったムリムール様が体を壊したのだと自らを責め、幼いうちから小さな手で剣を握りしめて母の代わりに辺境を護ると必至に強くなろうとしておられました。ムリムール様の分までご自分が戦おうと自らの小さな体を痛めつけるように鍛え、昼夜を問わずに修練に励まれていました。


 今でこそ双剣姫などと称賛されていますが、いつかきっとムリムール様のようにとそれだけを目指しておられましたが、身体が小さくムリムール様のように大剣を振れないと知ると三日三晩泣きはらし、その翌日には細剣や小剣の鍛錬をされ始めたのです。


 決して諦めずに直向きに努力を続けられ、ある日の朝の鍛錬のご様子を見に行くと2刀流の訓練を始められていました。夢が絶たれても諦めず、ムリムール様の代わりに戦えればそれでいいと……小さな手で剣を振る小さな小さな必死の後姿でした。


 でも、それは自らを虐めるように、自身を呪われたように強さを求めていた姫様が──ある日、夢から覚めたように毒気が消え、悲壮感漂っていたはずのお顔は憑き物が落ちたように変わられていました。


 その御様子を不思議に思っていると不思議なものを見られたのだそうです、それは空を駆ける黒髪の少年……そして本物の強さを見られたのだと。


 「男の方でしたが屈強な体躯の盗賊達と比べれば細すぎる御身体でした、それがまるで風が流れるようにふらりと、流れる水のようにゆらりと躱してしまうんです! 男の子が巫山戯て、ただ棒切れで遊んでるみたいに……Lvなんてたった9で、外に出るのすら危険なはずなのに……本人のほうが危険極まりないんです! あと、名前覚えてくれません!!」


 おとなしく真面目でひたむき、それは裏返せば御自分を責める呵責が子供らしさを許さなかった……そのお嬢様が感情も露わに地団駄を踏まれている。それが私めは嬉しゅうございました、その顔は初めて見る感情がむき出しの女の子の顔で、その姿は年相応の少女のようでした。


 年頃の姫君なのに着るものは質素で動きやすいものを好み、領主の娘としての最低限の装いしか求めない。それしか自らに許さない、あの頑なだったお嬢様がドレスを着て……心を隠さず想いを乗せて、地団駄を踏まれているのを見た時は扉の影からメイド一同で涙したものです。


 その姫様が2振りの大剣を腰に佩き、綺羅びやかなドレス姿で笑って手を振られてお出掛けになられる。


 それは姫騎士ムリムール様の伝説すら凌駕する”迷宮殺し(女子会)”。なんでも女子力なるものを極めて研鑽し、あらゆる魔物を葬り去る恐るべき異国の力なのだそうです。目も眩むような黒髪の美姫に囲まれても見劣りせずに輝く迄に美しくなられたメリエール様、その美姫たちに囲まれて逃げ回るのが黒い瞳の災厄、遥様。


 ええ、災厄様がまた領館を改造しちゃったようですね? まず探索隊に地図を作らせて、お掃除の部隊編成を組み替えないと……また、館内で行方不明者が出ないと良いのですが。また地下も広がっていそうですねー……探索隊には非常食を持たせ、捜索隊の準備もしておきましょう。


 ため息とともに窓の外を眺め、黒髪の1団の中で長い金色の髪をなびかせながら全身で幸せを語るお嬢様の後ろ姿へ呟く──もう、ずっとずっと追い求めた夢よりもはるかに高いところにいらっしゃるのですよと、今お嬢様がいらっしゃるのは既に前人未到の伝説の領域なのですと。


 それなのにまだ目指されるのですか、その黒い髪をなびかせる誰も辿り着けない果てしなき高みにいらっしゃる少年の後ろ姿を追い求めて。  


 ですが……その少年は私が手招きすると毎回ホイホイ寄って来てましたから、年上好きみたいですよ? 

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6月25日にひとりぼっちの異世界攻略コミック24巻が刊行されます。 公開された書影はこちら。

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