セルフ遅滞戦術と情報漏洩機能付きでぼったくり放題なお得意様だ。
69日目 朝 御土産屋 偽迷宮
最悪な異世界転移で異世界に来て最悪な日々を過ごしたが今日こそが最も最悪な朝だった。だって3万を超えるおっさんたちと朝を迎えるとか男子高校生にとってこれ以上の悲劇在り得無いんだよー!
「小僧早いな。よし朝食を30人分用意しろ、いや40人分だ」
早く無いよ寝て無いよだっておっさん3万とかむさ苦しくて寝れないんだよ、しかもコッチの貴族軍に補給しながらアッチのムリムリ城側に罠仕掛けなきゃいけないから大忙しなんだよ?
そして朝から作戦図の前であーでもないのこーでも無いのと貴族達が話し合う、まあこいつ等の無駄な指示のおかげで楽が出来ているのだから役には立っているんだよ? 現場の兵たちが即断即決で行動すればこっちは罠が追い付かない、何せ3万人って言う数は偽迷宮を埋め尽くせる数だ、一気に一斉に速攻を仕掛けられたら遅滞戦術も使えずに戦いになっていただろう。そうなればぼったくれないし教会の動きが速まっていただろう、だがこいつ等はいちいち命令していちいち報告を呼ぶセルフ遅滞戦術の情報漏洩機能付きな使えるおっさんたちなのだ、しかもぼったくり放題なお得意様だ。
「夜までには城攻めに入りたいものだ、我らの様な高貴な身がこんな穴倉で過ごさねばならぬとは」
「まあそう言うな、今日1日の我慢だ。それにこれで我らが一族は迷宮踏破者の英雄の一族だ、これで田舎者のオムイ等にでかい顔をさせんで済む」
「英雄の一族は悪くないがこう色気が無くてはな」
「それこそ辺境に入ればより取り見取りだろう、田舎女だが辺境の女は見目も良く味も良いと噂だぞ」
「うむ、それは味わって見んといかんだろうな。ならば尚の事さっさとこの穴倉を潰してしまえ」
うむ? 色気が足りないのは男子高校生的に大賛成で異論は無いんだけど、味見って頭齧っちゃうのだろうか? まさかビッチ達の仲間だったとは恐ろしい敵が隠れて居たようだ! でも弱そうなんだけど? って言うかこのおっさんたちで棍棒の街襲ってもフルボッコされて終わりなんだけど? あそこはマジ修羅なんだよ、あそここそが辺境の恐怖なんだよ、だって棍棒装備の奥様達がぞろぞろといる魔境なんだよ! 頭齧る前に頭割られちゃうんだよ? わりとマジで。
やっと中間地点の飛び石の沼だ。沼の中の飛び石を飛んで渡るだけの簡単なコースだが沼の中は腐食効果の溶解液だ、おっさん裸祭は見たくなかったが見無くて済む様だ、埋め立てて橋を架けるらしい。まあ正しい判断だろう、真っ裸のおっさんたちも嫌なんだけどあの飛び石の最後の1個に油塗ってあるんだけど何故かみんなあれに引っ掛かって進めないみたいなんだよ? 態々あの最後の1個だけ色まで変えて上げてるのに飛び乗っちゃうんだよ? そんなもん滑って落ちるよ! 何故に皆作り手の気持ちを理解してくれないのだろうか? まさか振りだと思って空気読んで飛び乗っちゃてるんだろうか? 「踏むなよ踏むなよ!」みたいな?
沼底を深くして邪魔をしても良いんだけどおっさん裸祭は見たくないからここは進ませよう、だって嫌なんだよ。
そして罠階段の間だ、何列もの階段が続く階段の間。外れの段を踏むと滑り台になって下まで落ちるという結構作るのに苦労した罠なんだよ? 腐食液も流れ出るから下まで滑って真っ裸確定な罠だったりする。だって委員長さんが一生懸命絵まで書いて持ってきた企画だったから面倒だったけど断れなくて採用しちゃったんだよ? なのに未だ誰もここまで辿り着いて無くって出番が無かった罠だったんだよ、王女っ娘達がここを通らなかったって話していた時の委員長さんとっても悲しそうで可哀想だった。 落としたかったらしい? 溶かしちゃいたかったのだろうか?
そしておっさんたちの群れが延々と滑り続けて仕組みを理解するまでに1時間掛かり、そこから罠の段を見つけ出しきるまでに更に1時間。その間ずーっと延々と滑り落ちて服が解けていくおっさん地獄絵図、まさか委員長さんはこれが見たかったの! 委員長様のおっさんストリップ趣味疑惑発覚? 聞いたらボコられそうだ。
そして3万人分の昼食が売れていく、備蓄が尽き始めたのだろう。メニューは孤児っ子たち直伝の薄い水のような野菜くずスープにカチカチのパンの欠片だが量は有る、孤児っ子たちはこれを毎日ずっと食べてた、しかも量すら僅かだった。そうやって必死で生きて来たんだからこの料理に文句は言わせない、辺境の人々を殺しに行く人間には最後の晩餐でも勿体ないほどだ。
もう第3師団の一般兵は皆逃げ出したようだ、尾行っ娘一族がちゃんと手引きして逃がしてあげたのだろう。だが第3師団の中枢は貴族の子弟が集まっている、これが王軍である第3師団が乗っ取られて王族の力がそがれた元凶だ、そしておっさんだから焼いても問題ない奴等だ。
しかしこれで夜までに出られるんだろうか? このままでは3万を超えるおっさんたちと1昼夜洞窟内で共に過ごしてしまうという屈辱的な記録が残ってしまう、もう24時間焼くの我慢してるのに未だ出口すら見えない、忍耐力の限界が試されている! あ~焼きたい焼きたい焼き払いたい灰燼にしたって良いおっさんにはならないのだ、良いおっさんとは生まれて来なかったおっさんだけなんだよ?
そろそろ甲冑委員長さんはこっちに向かっているてるかもしれない、これで1つは止められるがまだ早い。委員長達は早くても明日だ、まあ今日の夜は流石に無理だから明日の朝、普通に考えれば昼過ぎまでは掛かるだろう。そしてメリお父さんたちは精鋭のみでも二日は掛かるはずだ、そしておそらくもっとも出発が遅いはず。そしてオタ達とスライムさんは……間に合わないだろう、だから間に合っても3つまでしか止められない。4つ目と5つ目でこっちは引くしかない。
オタ達はまあ良い、まさか攻め込むとは想像もしていなかったがあれで良い。やっと本当に異世界にまでやって来たのにそれが同級生と一緒だったからまた気持ちが閉じこもっていたんだけれど、やっと自由になった、やっと怒れた、やっと異世界まで来て自分達が怒っていた事に気付けたんだろう。やっと全てから自由になれたんだからこればっかりは仕方がない、無茶するかなとスライムさんを付けて置いたが正解だった様だ。やっと異世界の勇者様が1組お目覚めだ。
莫迦達は……ずっと寝てそうだから考えない事にしよう、闘えればいいだけなんだろうし? だってあれは戦う事しか求めていない。それだけを求めて生きてきてずっと叶わなかったものをここで手に入れたんだから。 それにどうせ何も考えて無いんだから。
結局はまた俺が失敗した、全部なんて無理に決まってるのに全部をどうにかしようとしたツケだ。ツケてしまったなら払わなきゃいけない、もう支払っても許されないが、どっかの首なし王弟さんじゃ無いが俺だって他に払える物なんて何も持って無いんだよ? だから止められるものだけは止め、守れるものだけでも守る、もうそれしか出来ないみたいだ。
結局いつも最後は数が足りない。でもわかっていた事だ、43人だ、それだけの人数で異世界にやって来た。もう13人もいない、俺が見殺しにして1人は殺した、だから足りる訳はない。
だから足りない分は購おう、他に支払える物なんて持っていないんだから。今頃はきっと愚王な王弟は代王を返上して愚弟に戻って皆から罵られている事だろう、ずっと自分の首を抱えて王国を駆け回り最後まで何の役にも立たなかった無能なおっさんだ、だがあの愚王こそが王国を救った。 だから俺の番だ。おっさんみたいに救えなくても首くらいは持って駆け回ろう。
「お~い、小僧。靴は売っているかあ、無かったら仕入れてこい。急げよ」
靴はたっぷり作ってあるがおっさんの靴を作っても何も楽しくなかった、だからすぐ出来るモカシンブーツにしたら何故か大盛況でまた増産する羽目になっている? 儲かるんだけど楽しく無いんだよ? 調整はしないよ、おっさんの足触り回るなんて絶対に嫌だ!
もうおっさん嫌だから偽迷宮ごと崩落させて埋め立てたら一番早いしスッキリ爽快なんだけど、教会はいまだ準備だけは進めているだろうから引き込み続けるしかない。面倒くさいしおっさん臭い。
やっとたどり着いた泥沼地帯も埋め立てながら通る様だ。
ここは男子高校生が泥まみれなお姉さん達が泥んこでストーン・ゴーレムにあられもない姿で挑みポロリも有るかもと期待しながら心を込めて造り丹精込めて「腐食」効果付きの泥を敷き詰めた思い入れ深い泥沼さんなのにおっさんに埋め立てられていく。まあ泥まみれのおっさんの半裸とか需要は無いから良いんだけど、なんだか凄くやるせない気持ちでアンニュイな気分? 駄目だ、おっさん成分が濃すぎて拒絶反応が出始めている。
外はもう日も暮れるだろうしこの調子だと明日の朝まで御土産屋さん主催の偽迷宮おっさんぼったくりツアーが続きそうだ、もう嫌だ、おっさん何て見たくもない、いやだいやだいやだもうお家に帰りたいって言うか甲冑委員長さんを連れて帰ってジャグジーで沫塗れたい! このままだと禁欲過ぎて悟りが開けて神の元まで到達しちゃって爺の髭毟り回ってしまいそうだ、あんな爺よりも甲冑委員長様こそが必要なのだ。宗教戦争になったってこっちの甲冑委員長様の圧勝間違い無しだ、攻撃の破壊力も見た目の破壊力も圧倒で圧勝だ。
「アンジェリカ様が来られました、外で隠れて頂いております」
そうぼやいていると尾行っ娘一族のおっさんの知らせが届いた、女神さまが降臨されたらしい。これで1つ。
「ちょ~っと1時間だけ仕入れって言うか在庫調整って言うか放出しなければ大変な事になる男子高校生的な危険物を出血大放出しに行かなければならないから店番頼めるかな? ま~2時間になる可能性もやる気も有るんだけれどここほっといても夜までは動き無いと思うんだけど何かあった時だけお知らせ頼めるかな~?」
ダッシュで廃墟の街まで神速で偽迷宮を掛け抜けて、甲冑委員長さんを見つけるや否や即座に廃墟な元宿屋に連れ込んで甲冑を外しておっさん濃度の削減に努めて務めて務めきったのは言うまでも無いだろう。いや、マジおっさん許容量が限界でもう焼き払う寸前だったんだよ? 俺の目付きについて意見を述べたおっさん数人は地底で永遠の反省謹慎中だけど、他のおっさんは焼き払わずに我慢し続けて耐え忍び偶に埋めて我慢していたんだよ? うん、頑張っていたんだからしょうがない。
だって俺の中の男子高校生が本来の姿を取り戻してお説教のかけた呪縛を解いて男子を超えた男子高校生に近い存在へと変わって疑縮体でうねってエネルギーが延々と再起動だったからしょうがない? つまり……やっちゃった(テヘペロ)?
問題は今からが本当の戦いが始まろうかと言うのに最大戦力の甲冑委員長さんが撃沈中? どうしよう!
怒られるのは決定だろう、だから怒られるように前から約束していた麻の帽子を作っておいてあげよう。まあお説教は免れないだろうが喜んでくれればそれで良い、大してあげられるもんなんて無いんだから帽子で喜んでくれるならそれで良い。
起こさないようにそっと頭を撫でてから帽子を手で作り上げていく、あの深く暗い迷宮の底から連れ出しちゃったけど、それ自体は全く後悔も反省も無いんだけど、アンジェリカさんは幸せになれたんだろうか? 俺はちゃんと……出来て無いのはアレとして、連れ出しただけの事はしてあげられたんだろうか? 女子達もいるし仲良くなったし子供たちも懐いてた、スライムさんだって帰って来るしオタ莫迦達……は~まあ、いいや? 幸せになれたんだろうか、幸せになれるだろうか、幸せでいて欲しいな~。




