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恐ろしい子とまで呼ばれてたのに舞台と台本も用意したのに出演を禁止された。

 

68日目 昼 御土産屋 孤児院支店 

  


 ついに商国が手を引いた、未だ商業連合からの通達は無いが鼻の利く商国の商人達は挙って王都から逃げ出そうとして幾人も捕縛されている。


 捕まえた商国商人から得た情報ではどうも手を引いただけではなく商船まで次々に沈んでいるとの噂も有る、もう商国から王都への補給が入って来る事はないだろう。


 これで王都は門を開き王国から食糧を調達するしか無くなった、つまり第2王子の謀反クーデターは失敗し少なくとも王位継承権は剥奪されて表舞台に立つ事は無くなるだろう。たった一軒の御土産屋が商国の支配から王都を奪還してしまった。


 だが未だ門は開かれないのは未だ商国からの助けを待っているのかただ事実が受け入れられないのか。


 受け入れられずに見苦しい悪足掻きまでして見せてくれるようだが見せられる方にはいい迷惑だ、しかも言うに事欠いてあのお土産屋から食料を接収して来いと言い出した。頭が悪いのは良く知っていたが諦めまで悪いらしい。


 「あのお土産屋から強奪などすればそれ以降永久に王都に外部から食料を仕入れできる者はいなくなりますよ、まさか強奪されたお土産屋が王都の為にまた仕入れしてくれるとでもお考えですか」


 「「「ぐぬっ!……ならば緊急の税として徴収すればいいだろう」」」


 目先しか見えないから最後の命綱まで手をかけようとする、だがその命綱はどちらにせよ貴族たちの首を絞める絞首刑に用意された綱だ。


 「我等は税務官ではありません、まして辺境領の特別自治区と認めた以上は王都の税はかけられませんよ。そして我等第2師団は如何な御指示であろうとも民には手をかけません、あなた方が民を害せば契約は破棄しあなた方を捕らえます。そう言う契約でしたね」


 我ら第2師団にお土産屋の食糧強奪を持ちかける前に憲兵隊が襲いに行ったという情報は届いている、そして皆消え去ったのももう知っている。


 もう第2王子派や商国派達を守る憲兵隊は壊滅に近い、ここまで来て未だ負けたと分からない貴族たちの頭の中には一体何が入っているのか一度開いて確認した方が良いだろう。


 以前に兵舎まで訪れて来て下さったかの少年は貴族達についてこう仰られていたものだ、「頭の中に夢と希望が詰まっててお目目を閉じて空想と妄想の中にいるんだから何をしたって言ったって無駄なんだよ? だって自分達の嫌な事実も現実も見ないんだから? 話せばわかるような相手って話さなくても分かってるもんなんだよ、誤解や間違いじゃ無く真実を認めない自分に都合のいい夢と希望が詰まったおっさん何て話すだけ無駄って言うかおっさんだから無駄?」


 現実を見ないでまだ王国を乗っ取る夢を見ている、事実を認めずに商国との約束と言う希望に縋りついている、何もせずに只自分達に都合のいい未来を夢見て探し回っている。


 「配給が途絶えれば王都の都民は門を開きます、自ら門を開くかお土産屋で仕入れし続けて都民に配給し続けるかしか在りませんね」


 民を虐げ民から搾取し続けて来た貴族達が民への配給の為にその蓄えて来た富を吐き出し私財を投げ売ら無ければ門を開かれて自らが死罪になる、何と素敵で狡猾で悪辣なわなだろう、貴族達に自らの首に縄を巻かせて締めあげさせようというのだから。


 元々王都封鎖で配給制になり都民の不満は高まっていた、もし御土産屋が出店されなければ王都の内側で小競り合いくらいは起きていただろう。だが最後まで誰一人血を流さぬままに商国の富と貴族の蓄財だけを毟り取り剣を交える事すら無く謀反は終わるだろう。


 憲兵隊が消えた今、身分以外何も持たない貴族に何が出来ようか。


 最期の悪足掻きが無謀極まりなかった、たった1万もいない軍人ですらない憲兵たちであのお土産屋を攻めようなんて落とせる訳が無い。あのお土産屋は我ら第2師団ですら落とせない、あの貧民街に攻め入れば必ず負ける。もし辿り着けたとしても剣の王女クラスの美姫数十名が守っているお土産屋なんて落とせる訳が無い。


 それこそが我ら第2師団に決して裏切らせないという少年からの宣言メッセージだ。


 更には貧民街の民までが武装して一命を懸けてあのお土産屋を守る気だ、貧民街に暮らす人々は皆救われぬ貧民街を救い子供たちの笑い声が聞こえる街にしてくれたあのお土産屋の盾になり守る気だ。


 だから決して手なんて出せない、守る事は有れ攻める事は無い。


 我ら第2師団は民を守る王の為の盾だ、我らが民に手を上げれば歴々の第2師団の誇りまで捨てる事になる。 そして王国王家の意義すら失われる。



 「様子はどうだった」


 お土産屋には手練れの手勢に警備はさせて有る、無駄で出番も無いだろうが見守る事くらいは許されるだろう。


 「通常営業ですよ、子供や御婦人方の笑い声が絶えない賑やかなお店でした。我らが目指し守りたかったものが全てあそこに在りました」


 民が幸せに暮らしそれを国が守る、たったそれだけの理由で出来た王国が出来なかった事、失いかけたものがあの店には有る。


 ましてや我らの犠牲となり続けて戦い守り続ける辺境の名を冠する店だ、あれを攻められるような奴は貴族でも軍人でも無い強盗だ。あれを見て守りたいと思えない者は軍に、少なくとも我が第2師団には必要ない。


 「これほどまでに鮮やかにたった一滴の血も流さずに民に犠牲も無く一国の王都が落とせるとは、しかも商国にも向かう事も無く大打撃を与え王国に手出しできない所までの大被害を与えているとはいやはや恐ろしいな。これは軍では勝てないもう一段上の戦いだ」


 「ですが……我らは救われましたが、辺境が……また辺境が犠牲に……」


 第1王子は捕らえられたが貴族軍は止められなかった、第1王子はお飾りで実質は教会派貴族軍が頭だったと言う事だ。そして辺境の兵力も王国軍も王都にいる、王都を助けたが為に辺境が犠牲になる。第3師団の兵は貴族軍から離脱しているが第3師団上層部と中核の貴族の子弟は残り地方の貴族軍も勝ち戦と見たか挙って貴族軍に加わっている。


 「時間が惜しいな、間に合わないのは分かっているが辺境が襲われている時にこんな茶番にオムイ様を付合わせてしまうとは。いっそ第2王子の首を……」



 「速報です! 門が開きました、シャリセレス将軍と旗下の近衛師団、辺境伯オムイ様と辺境軍が王都に入られました!」


 「すぐに出る。貴族と憲兵の動きに気を付けろ」


 王都の民が門を開いたのか? それにしては早過ぎる、未だ配給は滞るまでは行っていない筈。


 「御土産屋 王都前店です! 大量の食糧に衣類や生活用品を満載にして王都門前で格安セールを始めた模様です、それに呼応して都民が門を開いたようです」


 「っくっ……最後まで、結局最初から最後まで王都は御土産屋に制圧されたのか。それなら我等王都の盾に出番は無い様だ、シャリセレス様オムイ様をお出迎えするぞ! 全員整列して待機させろ。お待たせするなよ」


 「はっ!」


 舞台に役者は揃った様だ、あとは茶番しまつだけ。お土産屋に用意して貰った舞台の上でお芝居はようやく終幕する様だ、最高の結末だというのに終わりが見えればあの少年によって書き記された幸せな御芝居が見れなくなるのかと残念にさえ思えて来る。


 最高の台本は心の奥底から気持ち良く笑える話だったのだから。


 貧民街に見降ろされ上からゴミをかけられて怒鳴りながら泡を吹き倒れて行く貴族共、その貴族共が財を毟り取られて破産して行き流浪していく、なけなしの富も配給で搾取し続けた民に配られて無一文になって行く。そうして自らが虐げ罵っていた貧民になり終幕フィナーレだ。


 入城するのは王女にして姫将軍シャリセレス様が王国の精鋭近衛師団を引き連れる、更には王国の生ける伝説 辺境の伯オムイ様が王国最強の辺境軍を率いて王都に入って来られたのだ。王都は割れんばかりの喝采に湧き、口々にお二人の名を大声で連呼している。


 まさに役者が違う、民が最も愛する真の貴人で在られる御2人と第二王子さる貴族ばかでは考える余地も無ければ見比べる気すら起きない。


 王都が湧く、英雄が王都を解放したと。


 皆が剣を置く、敵で在れ味方で在れ近衛と辺境軍に剣など向けられる訳が無い。一滴の血も流されずに下るしかない。


 「お帰りなさいませシャリセレス王女殿下、王宮まで先導させて頂きます。オムイ様もこの度はありがとうございました」


 オムイ様には詫びて済む事では無い、我らが謀反など許してしまったばかりに辺境が……もっとも救われるべき辺境の民が……


 「久しいなテリーセル。だが笑え、民が見ている。悲痛な顔など必要ない、笑え。私は辺境を心配していないし勿論諦めてもいない、これは我らの為にあの少年が用意してくれた見せ場だ、だから笑え。少年が何とかすると言ったのだ、我らはただ笑えばいい、だから笑え」


 王国中の兵力は王都と国境に在り後は敵に回った貴族軍だけだ、辺境に兵などいない。


 無理矢理笑顔を作りながら王宮へと進む、もう手向かう者はおろか止めようとする者もいない。


 「王の元へ」


 だが、辺境を何とか出来る訳が無い。いかに少年が神算鬼謀の戦略を用意しても戦える兵がいない、徒手空拳の身で辺境に向かわれたという。


 それでも笑うしかない、それがかの少年から与えられた私の役割ならば唇を噛み破ってでも笑って見せよう。


 

 それからはただのお芝居だった。


 第2王子や貴族達が項垂れ膝をつく中シャリセレス王女閣下とオムイ伯が颯爽と通り抜けて王の元へ向かう。そして王の元を訪れ辺境で取れたと言う秘薬を恭しく献上する、そして瞬く間に回復されて意識を取り戻した王のもとに誰にも気づかれずにちゃんと居た王弟が国璽と代王の名を返上する。


 皆が待ち望んだ王の復権だ。


 王の名において王子と貴族達は捕らえられ王都の民へ布告されると民は快さいを上げ王都は更に沸き立つ。


 そして王とオムイ様の名で大量の御馳走と酒が振舞われお祭り騒ぎになる、王国復活のフェスティバルだった。


 王宮のテラスから手を振る国王と王女、そしてオムイ様と恐れ多くも私まで呼ばれて笑顔で手を振って立っている。


 役者は舞台に揃い王都の民は最高潮クライマックスまで盛り上がる、舞台の邪魔者きぞく達は既に御退場頂いた。王都の真の貴族のみが立つ舞台、市井に埋もれても王国の剣であろうとしてお土産屋に剣を買いに行った落ちぶれた貴族達は皆「これサービス」と言われて立派な礼服を渡されたらしい、この場に立つことを少年に認められた本物の貴族達だ。


 英雄譚のお芝居のように壇上の上に立つ王や王女にオムイ様に喝采が止まぬまま王都が熱気に包まれている。英雄たちの舞台、そこに黒髪黒目の少年の姿はない。


 

 王都が揺れる程の歓声が湧きたち、群衆が祝い歌い踊る。終わったのだ。


  

 「テリーセル。迷惑をかけた、そして我の代わりに民を守ってくれた事、礼を言うぞ」


 「我が王! 有り難く……」


 だが此処には最も礼を言われるべき方々がいない、最も民から称賛されるべき少年達はいらっしゃらない。あの方は辺境に向かった、真の王都の解放者は辺境をたった1人で守護しに行った。


 「王よ私も辺境に戻るぞ。此処は王の治める地、私は我が領地でする事がある」

 「すまんメロトーサム。結局我等ディオレールはオムイに助けられオムイに救われそして迷惑をかけるのだな、私の代で終わらせる気だったのにこの始末だ。すまんメロトーサム」


 王が頭を下げる。民の前で無ければ膝すら突きかねない程の謝罪、家臣として友として万感の思いを込めて頭を下げる。辺境の領主が辺境の危機に辺境を離れて王を助けに来た、その意味を噛み締めながら頭を下げる。


 「頭を下げるなディアル! お前は王国の王、頭をあげて民の為に笑え。例え王で在ってもこの舞台を汚す事だけは許さんからな、皆が笑い喜べる結末を用意され舞台まで作って貰ったのだ。だから笑え」


 オムイ様は鬼気迫る笑顔で民に応え手を振っている、誰よりも辺境に戻りたい、一刻でも早く駆け付けたいオムイ様が笑顔を作り応え王都民たちの喝采に応えていらっしゃった。


 だから私の様な大根役者はただ笑うしか出来なかった。

 

 舞台の上で与えられた役割を演じ笑顔を作る、だが皆の心は此処では無い遠い辺境の地に馳せている。


 そこでたった一人で数万の敵と対している少年を想いながら。


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