仕入れ商品におっさん混入な異物混入事件で妹さんが可哀想だ。
66日目 夜 御土産屋 孤児院支店
どうやら仕入れに問題が発生したそうだ、仕入れ商品におっさん混入だったらしい? 異物混入事件は聞いた事あるんだけどおっさんは混入しないでね? お饅頭には混ぜないでね? それで持って帰って来ちゃったらしい。
「いや違うんだって、仕入れに行ったら仕入れの邪魔でおっさん混入で美人女怪盗さんをお待ちしてたのに泥棒呼ばわりで剣を殺す剣で鉄球直撃? うん、剣じゃ無くて鉄球だったんだよ? 粛たる静寂の中で音も気配も無く静謐に鉄球が乱舞してこっそり暗殺だったんだけどまだ生きてる生おっさんなんだよ? おっさん仕入れても売れないからどうしよう、だって美人女怪盗さんじゃないんだよ? でも魔剣たくさん貰ったし頭焼くのだけは許してあげたから捨てても良いかな~? だっておっさんって置いとくと増えそうだし増えたら困るし地底人さんもお困りらしいし、深刻なおっさん増加問題で異世界が中年男性限定人口問題にまで発展中だと街で噂の大問題でおっさん限定人口爆発? みたいな?」
聞けば聞く程訳は分からないけど商国の懐刀と言われる大陸の伝説魔剣士ヴィズムレグゼロさんが転がってる。
お目目がばってんだから犯人はあの人だ! ついに歴史上初のモーニングスターでの暗殺事件が発生した様だ、極めている、極めちゃってるよ! 鉄球が極められてしまい暗殺まで可能になった様だ。流石は元迷宮皇?
「でもマッケンジーさんはどこから来たの? ヴィズムレグゼロはどこに行ったの?」
そこに転がっているよ? だってどうせ名前覚えて無いよ? 寿限無さんだけズルい!
「誰も勝てなかった魔剣の使い手さんじゃ無かったけ? 商国の取って置き?」
だってアンジェリカさんの鉄球の舞は無理だと思う、魔纏で転移まで纏って瞬間連続移動中の遥君を連檄でボコってる。 消えててもボコるんだよ?
「この男があの魔剣のヴィズムレグゼロ。商国の7剣の1人! ……6人しかいないんですけど」
「「「何で6人で7剣って名乗っちゃったの? あと1人いなかったの?」」」
人材不足らしい、因みに剣使うのは4人らしいから1不2武4剣とかじゃいけなかったんだろうか?
「なんだか凄そうだったのに有り難味が無くなった? 6人しかいないけど7剣で、でも2人は剣じゃ無いって……ただの剣士じゃん!」
「え~強いんですよ? 今まで他国から商国上層部に送り込まれた暗殺者も突入部隊も全滅させられています、教国軍の導師すら殺られてるんですよ?」
最強の教国軍の導師クラスはS級の冒険者に効果付き武具満載のエリートさんらしい、それすらも倒すほどの力。
でもこっちはS級に更にチート付きで効果満載豪華武装にオーダーメイドブラ付きの娘がゴロゴロしていてそれがみんなまとめて毎日ボコられて目がばってんなのに、よりにもよって連続目がばってん製造犯の犯人さんに出会ったらそれはもう目がばってんだと思うの?
「う~ん、強いんだけど剣技も多分凄いんだろうけど上手いんだよ? でもバレバレだから無意味にうだうだやってるから後方不注意で鉄球に衝突で魔剣出血大放出? いや、だって落ちてたし? 拾ったから俺のなんだよ、だって手を放してたし3秒以上たったからアウトだよ! もう俺のなんだよ? だって俺のアイテム袋に収納されてるって言う事は俺のものだって言う事の証明なんだよ、だって入ってるし?」
鉄球に衝突でって後ろから殴っちゃたんだよね? それってさっぱり全然事故じゃ無いし? そもそも後ろから鉄球で殴って落ちてたからって武器取り上げて拾ったって強盗さんでもそこまで悪逆非道な酷い証言はしないと思うよ?
鍵をかけていれば入って行って拾ってくるし手に持ってれば殴り倒して拾ってくるし迷宮に行けば迷宮皇さんとか迷宮王さんぽんぽん拾ってくるしきっとそのうちこの大陸とか惑星も落ちてたから俺のだよって言いだすんだ、凄く言いそうだ!
「あとの5剣の人も来るのかな~? 可哀想に健気に剣持って戦う気でやって来るんだよ? ボコられて終わりとも知らずに一生懸命に武器を持ってくるんだよ? ボコられた挙句に落ちてたから拾ったって剣を強制的に拾われちゃうのに?」
どうしていつも敵さんの事を思うと心が痛むんだろう? いつもいつも可哀想な想像をするんだけれど現実はいつももっと過酷だ、だってきっと剣だけじゃ無く身包み剥がされる!
そしてみんなが悩んでいるのに遥君は子供たちと遊んでる。って言うか遥君を見つけた子供たちになだれ込むように大挙して押しよせ群がられ詰めよられて埋まっている、高速回転を始めて子供たちを吹き飛ばしてるけど子供たちにすぐさまハリケーンに再突入で飛び込まれては抱き着かれて群がられて行く。埋まって行く。
「お兄ちゃんごはん!」「お兄さんお腹空いた」「今日は何?」「昨日のお芋美味しかった」「お肉また食べられるかな?」「おむすび!」「今日もご飯食べれるの?」「いっぱいお仕事したよ?」「ご飯ご飯!」「美味しいは正義」「私オムライスが良い」「クレープの開発はどうなっているの! 急いでよ!」「お兄ちゃん新しいバックが欲しいな~」「晩御飯何~」「お兄ちゃん追加注文!」「遥君麺類が良いよ」「お兄ちゃんミュールも欲しい!」「かつ丼一丁!」「あと寄せて上げる奴!」「お兄様、新作Tバックはまだかしら?」「「「お兄ちゃん、楯っ娘ちゃんだけエアー入りはズルいよ!」」」
よく見たら子供じゃないのも大量に混じってどさくさに注文している、全くみんなもう…………「お兄ちゃん栗饅頭も食べたいよ?」
回転しゆっくりと宙を舞い焼き上がって行く薄焼き卵がお皿の上に舞い降りケチャップライスを包み込む、そしてケチャップさんで描かれる文字は「オム?」。自分で作ってるのに何が疑問なんだろう?
じゅうじゅうとカツもあがっていく、丼に降り注ぎ合わせ汁と卵がとろとろとかけられていく。
子供たちが純真な目で夢見る様に眺めている、不純な娘達は大きいカツをぎらつく目で狙ってる。ヴィズムレグゼロさんはまだばってんで隅っこで転がっている。
大鍋からはシチューさんまで現れてみんなの熱狂が興奮の坩堝に包まれるやら飲み込まれるやらで溢れちゃう! お腹の音も合唱と輪唱で鳴り響く。
「出来たんだよ~、かつ丼とオムライスの食べ比べ謎鳥のシチュー添えで茸のサラダは胡麻ドレッシングさんです! 召し上がりやがれ? みたいなって見てないで食べようね? みたいな~!」
「「「「いただきま~す」」」」
茸のサラダは新製品の胡麻ドレッシング、子供たちの身体の回復の為に毎食茸が付くから飽きない様にこっそり開発したんだろう。「懐くな~」とか「鬱陶しい~」とか言って逃げ回って振り飛ばしてるくせに甘々だ、今もこっそりお芋を蒸かしてる。
「美味しいよ~、今日も美味しいよ~」
「食べて良いの? これも食べても良いの? 本当に?」
「美味しいね、パンてこんなに美味しかったんだ」
「全部食べちゃったよ。明日からのご飯どうしよう?」
まだ子供たちはおごちそうを食べる度に泣いちゃう、お腹いっぱいになるまで泣きながら食べている。夢なら覚めないで欲しいって願いながら食べているんだ。
毎日毎日食べるものも僅かな貧しい食事、それを今迄ずっと何か月も何年も当たり前のように食べて暮らしていた、暮らさせられていた。
だから遥君は作り捲くって振舞いまくってる、今までの分も奪い返せって、今までの分全部取り返して美味しい物をお腹いっぱい食べろって、テーブルから零れる程に次々とメニューが追加されて行く。まだ足りないもっと食べろ全部食べちゃえって、子供たちが引っ繰り返るまでずっと続くおごちそう、余波でぽっこり娘達も引っ繰り返ってるけどどうしよう? わんもあせっとで足りるだろうか?
そして大豆が有ったってあ~だこ~だと研究中だ、狙いは豆腐? まさかのお味噌?
ようやく気が付いたみたい。ヴィズムレグゼロさん、完全におっさん扱いだけど20代後半くらいに見えるエルフさんで痩せた背の高い体躯の剣士。一目で強いのが分かる、まあさっきまでお目々ばってんで気絶てたから分からなかったけど。
「あ~捕まっちゃったのかよ~。捕まえる為に王国まで来たのに失敗だね~」
周りをのんびりとみ回しながらため息をつく、隙が無い。武器も無いけど、パクられてるの。
「おひさ~、マッケンジーのおっさんだっけ? 捕まえた訳じゃ無くて仕入れのついでに混入されて運ばれてきちゃったんだけど売れないからいらないんだよ? おっさんだし? どうしよう地下に捨ててこようか? 地底人さんに許可とった方が良いかな?」
「「「話くらいは聞いてあげて~、あとマッケンジーって誰?」」」
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お莫迦さんだった。
唯一の肉親である病気の妹さんの為に薬を分けてもらうために冒険者を辞めて商国のために働いていたらしい、ベタベタな上にお莫迦さんだった。
王国こそがそのお薬の原産地で辺境こそが供給元なのにそれを独占して流通させないようにしている商国のために働いていたらしい、だから薬が手に入らないんだよ?
「妹さんが可哀想だ、唯一の肉親の兄が莫迦って可哀想過ぎる、あまりにも妹さんが可哀想」
「そうだよ、病気で苦しいのに兄が莫迦で莫迦な事してるってとっても妹さんが可哀想」
「しかも辺境で噂の「茸の伝道師」襲って鉄球喰らってるくらいの莫迦さんだから妹さんが可哀想」
「それだけの腕があるんなら茸採りに来たら解決なのに莫迦だから莫迦な事してるって妹さんが可哀想」
「大体唯一の肉親の妹さんが病気なのにあれに喧嘩売るって莫迦過ぎだ! 妹さんが可哀想」
「「「このお兄ちゃん莫迦なの? 可哀想~」」」
滅茶へこんでる、怒涛の莫迦と妹さんが可哀想の波状攻撃でもう涙目だ、孤児っ子達も止めを刺してる。
それでもお莫迦さん過ぎる、だってそれは妹さんだけじゃない全ての病気の人を苦しめる行為だ。そしてそれに加担して来た、頼る相手が正反対で助けを求めようにも敵対している。お莫迦過ぎて妹さんが可哀想だ、こんなお莫迦の為に病気で苦しんでるなんて妹さんが可哀想過ぎる。
「知らなかったじゃ済まないが知らなかったんだ、茸の事も辺境の事も知らなかったよ。薬は商国にしか無いって思ってた……本当に馬鹿だね、妹に合わせる顔も無いしあの世でも両親に合わせる顔が無いよ。ただ頼めた義理じゃ無いんだが魔剣は全て譲るから妹に茸を分けてやってくれないか、金も妹に預けて有るから頼むよ……お願いだ」
やっぱり莫迦だった、だって殺される気だ。
すごく馬鹿だ、唯一の肉親の兄が命を諦めれば病気の妹さんはどうなるか分からない、頼んだって確認が取れないし信用できるわけもない。病気が治ってもたった1人になってしまう。自分で届けるのを諦めればそれは諦めたも同じだ。
「あ~、それだったらとっても助かるんだよ。久しぶりに物わかりの良いレロレロ趣味の人と出会えて超感激だよ、いや~最近諦めの悪い人たちばかりで超大変だったよ。だってみんな自分の身を捨てて突っ込んでいって、それが出来ないと自分の首持って辺境までうろつくし、村人ですら助かるかどうかも分からない家族の為に鍬持って魔物の海に飛び込んじゃうしもう散々だったけどやっと物分かりが良くて諦めの良い人に会えてとっても嬉しいよ、何とかさん。」
「良いも悪いも捕まって、しかも馬鹿だから薬貰う処か薬が出回る邪魔してたんだ。もう言い訳も言い分も何もねえ、全部駄目にしちまった。」
笑ってる。もう駄目だ、もう誰も声が出せない。だって遥君が笑ってる。
「これが治療茸、普通1本で余裕で末期でも2本あったら完全回復でお釣りがくるのに3本あれば死に掛かってても治った瞬間走り回れるよ? それとおまけにHP茸と体力茸でサクッと完治するよ。でも諦めたんだよね、もう良いんだよね、妹死ぬけどしょうがないよね。さようなら~妹さ~ん」
ヴィズムレグゼロさんの縄を斬り、取りあげていた魔剣を投げつける。
「……」
「何その目? 諦めた人には何にも手に入らないよ、当たり前だよ諦めたんだから? みんな諦めなくてもどうしようもなくてそれでも諦められなくて這い回って足掻いてるんだよ、手を伸ばさないで下ろしちゃった奴に手が届く訳無いんだよ、だから妹さんは死ぬんだよ」
殺気。狂気を孕んだ狂暴な殺気。
「……よこせ」
「要らないって言ったじゃん、もう諦めた癖に何言ってるのかな~」
「……よこせよ」
「奪えば? 諦めちゃったら楽で良いよ?」
狂気を孕んだ狂暴な殺気が爆発する様に膨れ上がる、ただそれだけ。だって遥君が笑ってる、狂気? 狂暴な殺気? 魔剣? 足りないよ、そんなんじゃ足りないの、諦めちゃった人の狂気なんかじゃ届く訳が無い。諦めきれずに悔み続け手を伸ばし続けて奪い続けて奪い返そうと抗い続けてる現役強欲強奪者の現行犯に届く訳が無い。
魔剣が煌めく。
突き出された魔剣が分裂しながら斬りかかり逆の手からは魔剣が見えない斬撃を飛ばす、急激に身体を反転させながら下から別の魔剣が伸び貫く。でも殴り倒される。
這い寄りながら魔剣を地に突き立て岩の槍が生える、即座に飛び上がり逆手に持った魔剣で焔を纏い薙ぎ払い、もう一本の魔剣が死角から飛び込む。殴り落とされる。
両手の魔剣を杖にして立ち上がり前に出る、歩こうにも足はもう動かない、体重を支える事も出来ていない、それでも前に出て行き殴り倒される。
魔剣を突き立てて地面を掻く様に這い進み這い寄り前へ前へと這う這い進んで魔剣を翳し何かの魔技を発動させるが魔技ごと殴り倒される。
何度でも何度でも殴り倒され何度も何度も殴り倒される。
蹲りながらも這い寄り、倒れながらも這い進み、前へ進む。
そして握りしめた魔剣を叩き付け殴り倒される。
ただ茸を目指して這う、もう魔剣も手に残っていないし握る力も残って無いからただ這うだけだ、そして這って行けば殴り飛ばされる。
それでも這う。
もう目も見えていない。
方向も見失い気配を探して這って進む。
鎧も服も肌も肉も擦り切れてそれでも這って行く。
馬鹿は死んでも治らないらしいが、莫迦は死んでも這ってでも諦めないみたいだ、それが正しい莫迦だよ。やっと遥君が普通に笑ってる、殴ってるけど。




