「ご褒美が無いならぼったくれば良いじゃないの」と彼女(仮名マリさん)は言ったとか言わなかったとか。
65日目 昼前 王都 貧民街
村が無くなってお母さんも父さんも死んでしまってここに連れて来られました。
ここはひもじいです。
お湯みたいに薄いスープとカチカチのパンのかけらを分け合って食べるけどお腹は一杯になりません。
ここはさむいんです。
ボロボロで風がぴゅーぴゅー吹き込んで薄い毛布で震えながらお腹を空かせて眠ります。
ここは貧しいんです。
小さい子も大きい子も頑張って働きに行くけどご飯も満足に買えません。頑張っても頑張っても貧しいんです。
朝のお仕事が終わって帰って来ました、大きな街だけど帰る所はここしか無いんです、お金はちょっとしか貰えなかったけどこれでご飯を買わないと小さい子達がお腹を空かせて待っています。
暗い内から働いても、夜遅くまで働いても、みんなが1日中頑張って働いてもご飯が足りないんです、みんなお腹をすかせてひもじいんです。
今日は食べ物が買えるだろうか、そんな事を考えながら建物の角を曲がって孤児院に……孤児院に?
孤児院はどこでしょう?
帰る所が無くなってしまいました、他にどこにも行くところが無いのに孤児院が無くなりました。
大きなお屋敷が建っていました、ここにいた小さい子達はどうしたんでしょう、どうなったんでしょう。
どうしようもなくて、何処にも行くところが無くて、どこかに小さい子達がいないかとお屋敷の周りを廻ってみました。
「お姉ちゃんこっちだよ~。美味しいご飯が有るんだよ、いっぱい食べても良いんだよ」
小さい子達が手を振っていました。
お屋敷の中から呼んでいます、あんな立派なお屋敷で勝手に食べ物を食べてしまったらただではすみません。
走って行って謝りました、一生懸命に謝りました、小さい子達を許して下さいって、食べ物はきっと弁償しますって、お金も全部差し出しました。
何度も何度も頭を下げました、ごめんなさいごめんなさいって。
抱きしめられました。真っ黒な髪の真っ黒な目をしたとってもきれいなお姉さんでした、凄く柔らかくて良い匂いがしてちょっぴりお母さんみたいでした。
「大丈夫だからね、ご飯はみんな食べて良いんだよ。これはみんなに食べて貰いたくて持って来たんだからね、だからいっぱい食べてね」
連れていかれた所は一面のご馳走でした、見た事も無い美味しそうなご飯が山のように並んでいました。
小さい子も大きい子も笑いながらご飯を食べて、こっちにおいでと呼んでいるんです。
その向こうでは黒い髪に黒い目のお兄さんがご飯を作ってます、どんどんどんどんすごい速さで美味しそうなご飯が並べられていきます。
「た~んとお食べ? って言うか食べて大きくならないと大きくならなくて悲しい事が起きる可能性がとても高いんだよ? でも既に悲しい事が起きてるのによく食べるよね……って違うから!小さいとか言って無いよ、思った事は想いを乗せて想像は無限大だけど可能性はもう駄目かも? いや見て無いって、可能性見て無いよ! 無かったんだから見えないって、ふうんぶうおおおるうっとおおっ! 何でモーニングスター持ってるの? えっ、甲冑委員長さんが貸してくれたの? 道理で見慣れたモーニングスターだと思ったよ、ってなんで俺攻撃する時はモーニングスターって決められてるの! ……」
楽しそうでした。みんな笑ってます、みんなが笑ってます、私も笑ってました。
いっぱい食べました。こんなに沢山食べたのもこんなに美味しい物を食べたのも初めてだって言ったら「まだまだ甘いよ、真の恐怖は甘美味しいお菓子まで食べてから後で後悔してワンモアセットだけど最近お饅頭食べ過ぎでワンモアセットじゃ足りなくなってる人がチラホラ……ぐううあふぇえるああってええ!ってだから何でモーニングスターがそんなにぽんぽんレンタルされてるの? って言うかなんで常に準備されてるの? それこの間ミスリル化しちゃったからまじヤバなんだよ? だって甲冑委員長さんにナースさんでミスリル化してくれたらしてあげるとか言われたらそれはもう男子高校生的にミスリったよ! ミスリきったよ! だってミニスカナースさんにして貰えるんだよ~!ってぎゃああああっ!」すごく賑やかですごく楽しくてすごく美味しくて、そしてすごくやさしくされました。
ぎゅって抱かれてうれしかった。
何度も手をつないでくれて嬉しかった。
そしてあたまを撫でてもらいました。
「頑張ったから良いんだよ、頑張ったらご褒美が無いなんて嘘なんだよ? 無かったらぼったくると解決するよ? だから今までずっと頑張ったご褒美なんだよ、今までずっとずっと頑張ったご褒美なんだからこれからはずっとずっとご褒美に決まってるって言うか決めたからぼったくる? まあ大体世の中の困った事は殴るかぼったくれば解決できるとかの高名な誰かさんも言ってたよ? うん言ってたかどうかは知らないんだけど誰かも知らないからどうでも良いよ? みたいな?」
ご褒美が貰えた。ずっとずっと頑張ったからご褒美だって。
そしてあたまを何度も何度も撫でてもらいました。
ずっとずっと頑張って良かった、だってこんなに嬉しい事があった。
ずっとずっと頑張って良かった、だってこんなに楽しい日があった。
これでこれからもずっとずっと頑張れるって思えた。
だってずっとずっと頑張ったらまたこんな嬉しい事があるかも知れないから。
もう小さい子も大きい子も笑いながら泣いて、泣きながら笑っています。
嬉し過ぎて楽し過ぎて幸せ過ぎて涙が出るんです、びっくりしました。
いつもひもじくて泣いて、寒くて泣いて、さみしくて泣いてたのに幸せで涙が出るんですよ?
辛くて涙が出て、苦しくて涙が出て、悲しくて涙が出てたのにうれしくて涙が出るんですよ?
お屋敷の中に案内されました、でもお屋敷じゃ無くて孤児院だからみんなのお家だよって言われました?
お風呂が有りました。まき割りに行ってお風呂はみた事があるけど……すごいんです。
すごいです、お風呂に入っています。
お姉さんたちに洗って貰って、みんなぴかぴかです、良いお家の子みたいにきれいになってます。
「次は頭を洗うからねー、順番に1人ずつ出て来てね。」
「「「はーい」」」
まだみんな泣いてます、だって信じられないんです。
だって美味しい物をお腹いっぱい食べて、お風呂に入ってるんです。
こんなに幸せがいっぺんに来ちゃったらどうしよう、明日からどうしよう?
「大丈夫だからね。もう大丈夫になっちゃったんだから大丈夫よ。
だってさっきの黒いマントのお兄さんが大丈夫って言ってたでしょ?
あのお兄さんは笑って無いと嫌なの、みんなが笑ってないとすっごく嫌なの!
だからもう大丈夫になっちゃったんだから、いっぱい笑える様にしちゃうからね。
絶対に幸せにされちゃうんだからね、あきらめてね? あのお兄さんは諦めないからね」
みんな大泣きでした、小さい子も大きい子も大泣きでした。
だってもうじゅうぶん幸せなんです、もう信じられないんです。
なのに、なのにもっと幸せにしてこれが毎日続くなんて言われて涙が止まらないんです。
だってもうじゅうぶん幸せなんです、もうずっとずっと忘れないくらいの幸せなのに。
そして看板が付きました。
黒いマントのお兄さんは「のっとったぞー!」って大きな声でさけんで怒られてます?
孤児院は『御土産屋 孤児院支店 みたいな? 感じ?』になりました。
明日からきれいなお洋服を着てお手伝いをしたら、毎日ずっと美味しいご飯が食べられるんです。
小さい子も大きい子もお揃いのきれいなお洋服でした、制服なのだそうです?
黒いマントのお兄さんは「労働力ゲットだぜー!」って大きい声でさけんで怒られてます?
孤児院の外のひとたちもご飯をたくさんもらって、お家をきれいにしてもらって泣いていました。
みんな泣いていました。
小さい子も大きい子も大人の人もみんな大泣きでした。
もうさむくないんです。
あたたかいふかふかのお布団です。
風もぴゅーぴゅー吹き込んできません。
お腹もいっぱいで苦しいくらいです。
眠るときももうだれも泣いていませんでした、ずっとずっと泣いてたのに今日はだれも泣いていませんでした。
小さい子たちも笑って寝ていました、今日は初めてだれも泣いていませんでした。
おなかいっぱいであったかいって幸せだ。




