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仲間たち誰もが追い求め手を伸ばし続けて捕まって押し競饅頭で潰されてるんだよ?


62日目 昼過ぎ ムリムリ城



 化け物と化け物の壮絶な戦いは、静謐で整然と無音の静寂中で音を立てず踊る演舞の様に美しく流れるが如く地を滑る様な舞の廻る輪舞の戦慄のいくさ


 お互いに木の棒を持ち片や無造作に歩み寄り片や構えもせずに立ち、何事も無いように一閃するや否やに狂気の乱舞が静かに激しく繰り広げられる。


 これが化け物だ。


 これこそが化け物だ。


 ぬるりとした水の中を泳ぐように身を捌き緩やかに踊る、不気味な速度差が其処には在る。


 速いのに速く見えず、遅いのに目で追えない、遅延したかの様な重い時の流れの中を泳ぐ。


 人斬り専門の最強の殺人鬼が何も出来ない筈だ、この舞に一歩踏み入れれば瞬く間に切り刻まれてしまうだろう。


 人を殺す為に究められた技なんてただのカクカクと動く人形劇みたいなものだ、これは違うものだ、これはただの斬。


 人だとか人体だとか魔物だとか魔法だとかも全く以て関係の無いただの斬。


 戦うとか殺すとか守るとか理屈も理路も一切合切剥ぎ取られた剥き出しの斬。ただ斬る為の技。


 身体を動かして斬る剣技とは別の物、斬る為だけに身体を動かしている。斬ると言う結果だけを求めている。


 あの少年は迷宮殺し、化け物だ。


 ではあの美女は何者なのか? 迷宮殺しより強い迷宮殺しの従者、先ほど王女様と訓練を受けたが強さが分からなかった、只強いとしか分からなかった。


 そして化け物と戦い分かった事は化け物と戦える化け物だと言う事だった。


 強いと言うには弱い。


 巧いと言うには雑だ。


 速いと言うには遅い。


 極みと呼ぶには単純だ。


 だけどこれは化け物だ、私は暗殺者の訓練を受けているからこそこの恐ろしさが分かる。


 これは殺せない、私の剣は届かない、あの時腕一本で済めば運が良かった、これは死ぬ。


 無駄を極限まで削ぎ落とした動作モーションで無駄極まりない奇怪な奇天烈な挙動で動く。


 人の動きでは無い何かだ、あれは目の前で見て理解する前に皆殺しにされるだろう。


 それを美しく的確に適切に躱し掃い避ける、もう決められた振り付けの演武で無ければ在り得ない事だろう。


 この2人の世界は狂っている、これは狂気の世界の中でしか起こり得ない、常識も摂理も真理も無意味に斬り捨て斬り回る。


 まるで2本の剣、斬る為だけに作り上げられ鍛え抜かれ研ぎ澄まされた斬る為だけのいきもの、それは化け物だ。


 だから残酷な迄に美しく冷酷な迄に無駄無く過酷な迄に静やかだ。



 「怖くて美しい……これは私達に見せてくれているのですね、戦うのなら勝てと、万の敵でも切れと。なんて残酷な剣舞」


 「そうでしょう。先ほどまでの意味不明な戦いでは無く私達の戦い方に合わせて演じる様に演舞の様に見せているんでしょう」



 姫様の盾となるなら斬り掃えと、姫様の剣となるなら斬り散らせと、身を捨てるなら殺す為に捨てろと、命を懸けるならば剣を掲げよと。


 今から私達がやろうとしている事は人に出来る事では無い位は分かっていた、だがだから人で在らざる化け物になれば良いと見せ付けられた。


 姫様は諦めないと言い切った、だからもう諦める事すらも許されないようだ。


 本当に諦めないとはこういう事なんだ、命を懸けたり捨てたりは言い訳でしか無いのだと、それは諦めと同じだと。


 これは死ぬ事すら許されず諦める事も許されない戦い勝つ事以外の全てを許されざる者の戦い、それこそが戦いだと。


 そうたったLv21の少年にこれほどまでのものを見せられ教えられ伝えられたのだ、お前らのLvで出来ないとは言わせないと、弱くても殺せば勝てると。



 ああ何て化け物なんだろう。



 どれ程苦しめばこんな技が振るえるのか?


 どんなに危険極まりない目に遭えばあんな精密な動作が身に付くのか?  


 過酷や峻烈や苛烈何て温いんだ、その先に在る物では届かない。


 この化け物たちなら地獄より惨憺たる死地を超えた凄惨たる絶望の底より最悪な戦場ですら諦めなどしないのだろう、諦める己を許さずに地獄より惨憺たる死地を歩み続けて来たのだろう。



 たったLv20程度の身体能力ステータスで地獄よりも辛い悪夢の中で戦い抗ってきた、それが化け物の正体。


 弱いままの力で生き延び戦い抜いた力、諦める事無く死地を殺し尽くしてきた強さ、弱くても強くあるその意思おもいこそが化け物だ。


 

 この少年ばけものに何かを言い返すなんて出来ない、言い訳も弱音も許されない、この少年は地獄を平然と生き延びて見せたのだ。


 英雄や勇者の様な仲間に囲まれて、それでも焦がれる様な目で見詰められる最弱の少年。


 村人程度の力しか持たないのに英雄や勇者も辺境の王も剣の王女も圧倒して見せる狂気つよさ


 

 1人で万の敵と対しても諦めさせては貰えないようだ、1人で1万人殺せばいいと、殺される前に全員殺せば勝ちだと、これはそう教えられている。


 出来ない不可能だと在り得ないと叫び出しそうな絶叫も悲鳴も意味はない、目の前の答えが在る。


 姫様が強く強く剣を握り直す、見てしまった、見付けてしまった、目標を、目的を果たす為の目標みちしるべを。


 そして私の手もいつの間にか強く剣を握りしめていた、誰も彼も守ろうと狂った様に戦い地獄で生き抜いた化け物に見惚れ魅入られながら。


 語られている。姫を守ると覚悟したならば全てを殺せと、身を捨てて盾になるなんて無駄だその身で殺し尽くすのだと、それが守ると言う事だと。



 狂っている。狂わなければ化け物になんてなれない、本当に諦めないと言う事の本当の意味は狂ってでも成し遂げ化け物になる事だった。


 誰かの為に、何かを、誰かを、守ろうとした。負けも死も許されない戦いを強いられた、その果てにこの2人の化け物がいるのなら私達はまだ何も抗っていないしまだ抗い始めてもいなかった。

 

 命を懸ける何て無意味だった、命になんて何の意味も価値も含まれていなかった、やり遂げてこそ意味になり価値になるのだから死はただの無意味だった。


 剣を手に立ち上がる、私達はまだ何も成し遂げていないし成し遂げる力も持っていないから。


 死も許されないのなら力が必要だ、そしてその力は目の前にある。


 届かない程に遠く高くても諦める事ももう許されないし、もう許せない。


 その生き様に手を伸ばし這いずり回りのたうち回ってでも届かせる、この手はもう下ろせない。


 きっと一生この手を下ろせる事なんてもう無いだろう、だってもう少年ばけものに手を伸ばしてしまったから。


 「お願いします。」


 生涯をかけて届かないなら生涯追い求め手を伸ばし続けるしかない、その先にしかあの少年ばけものはいない。


 

 だから英雄や勇者の様な少年の仲間たちがあんなにも焦がれているんだ、誰もが追い求め手を伸ばし続けて焦がれている。


 たった2人ぼっちの化け物の傍に立ちたいと、孤独に死地に赴かせまいと。ずっと手を伸ばし続けている。


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