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辺境中で名前が普通に定着してるなら其れは正式名称では無いのだろうか?


61日目 夕方 ムリムリ城



 身なりの良い騎士の一団、整然とした行動に練度が窺える。


 そして掲げているのは王弟旗、現国王代理の一行と言う事だ。


 全員が立派な装備を施され、中には目を引く程の豪奢な出で立ちの者もいる。


 完全装備した精鋭級の軍隊特有の威容と畏怖を振り撒くような迫力。


 高価な全身甲冑を揃えられた騎士団に人の目を釘付けにする迫力がある。


 だが一際目を引くのは王国で見た事も無い豪華な造りの馬車。


 それは馬車というのが憚れるほどの麗麗とした邸宅の様な姿だ。


 しかも巨体からは想像も出来ない程の軽やかさで滑らかに流れるように馬に牽かれる姿には微塵も揺れている様子が無い。


 その前を艶絶極美な甲冑姿の姫騎士が絶美な姿で先導し守るかのように進み、その周りを美騎達が守り付き従う。


 其処だけがまるで夢物語のように美しく輝いて見えるほどだ。


 大陸中の王と言う王が首を垂れるほどの圧倒的な権威と風格。


 何人も畏敬の念に平伏しそうなまでの威風凛凛とした威容。


 ただ進むだけで制圧する程の威風凛然と威厳に満ち溢れている。



 「囚人です。檻に閉じ込めたら勝手に豪華な生活を始めて時々気ままに出歩いては普通に帰って来ます」


 疲れたように前触れの兵が告げる。


 あの見る者全てを魅了し跪かせる絢爛豪華な馬車は簡易牢だったらしい?


 意味が分からない。


 まあ毎度の事だからもう慣れたよ。


 此の世で起こる意味不明な出来事は数多いが、訳が分からない程の意味不明は大体いつも少年絡みだ。


 荘厳華麗な馬車の豪奢な扉が開かれると逍遥自在と捕らわれの囚人が歩き出す。 


 黒マント姿の少年が平然と扉から降り立ち姫騎士を傍らに美騎達を引き連れて歩み出す。


 騎士たちは慌てて道を開き、その眼前を悠然と進む。


 国王の代理である王族の王弟に一瞥もくれずに歩む。


 格が違うのだ。


 それは覇者の格だ。


 貴族だ領主だ王族だ王だと喚いた所で意にも介さない格だ。


 権威も威光も威勢も権勢も霞ませる圧倒的な格。


 地位も身分も立場や分際や身の丈等も歯牙にもかけずただ身の程を思い知らせるような圧倒的な格。


 王家伝来の甲冑に身を包んだ国王代理の王弟が有象無象の群衆扱いだ。


 その力を威張る事も無く、煌びやかに着飾る事も無く、いつも一竿風月いっかんふうげつにただ過ごす少年の威に飲まれている。


 そして何時ものように悠悠閑閑と歩いて来る、一国の権威に道を開けさせて王を退けて姫を従えて歩いて来る。


 「ただいま~、って出て行ったのにつれて帰られたんだけど俺は何しに行ったの一体? まだお土産屋さんの営業準備しか出来てないのにお帰りなんだよ? みたいな? ってメリ父ーさん何してんの? ついにムリムリさんに謝りに来て追い出され中? 夫婦喧嘩はコボも食わないけどビッチなら何でも齧りそうだから貸そうか? 齧られる? 痛いんだよ? 的な?」


 笑って少年を出迎える、笑うしかない。これは格が違い過ぎるのだから、人が山や海に挑む様なものだ、相手には気にもされていないんだよ。


 「やあ遥君、王女様がお世話を掛けたね~? まあ外じゃなんだしムリムリ城の中でゆっくり話そうっていつの間にか辺境中でムリムリ城の名前が普通に定着してるんだけど何でなんだい? あと別に出迎えに来ただけで夫婦喧嘩で追い出されて無いから齧らせないでね? 寧ろ夫婦喧嘩で追い出された可哀想な人を齧らせたら可哀想過ぎるんじゃないかな~? 止めてね。」


 側近に遥君達を案内させて王弟閣下にご挨拶に向かう、圧倒され過ぎて呆然自失のまま固まっている様だから出迎えて上げよう。



 子供の頃から頭が固かった、そのころ未だ王太子だった兄にあいつはそのうち山に向かって「王の御前だ、頭を下げろ」と言いかねないと言われていたがどうやら正しかったようだ。


 礼儀正しく真面目で兄思いで努力家だったが融通が利かない、そして正直で素直過ぎる。


 この状況下で国王の代理につくなんて気が休まる暇が無い位に苦悩し続けていたのだろう、げっそりと顔はやつれ目に隈をつくり疲れ切った表情が顔にへばり付いている様だ。王で在る兄の病に心労している間に任された国が壊れて行ったのだ、気が狂いそうなほどに自らを責め苛みそして決意し覚悟を持て此処に来たのだろう。


 後ろからは囚人の筈の少年たちの笑い声が絶えないと言うのに、前には王国の王が言葉なく悲壮な顔で震えている。己の責任感に苦しみ過ぎたのだ。


 「ようこそおいでになられました、王弟閣下御自らが御身を持ってこの最果ての辺境にまで御出で頂き恐悦至極でございます。オムイ家の頭首として歓待させて頂きます、狭苦しい……(チラッ)え~城ですが中にお入りください、せめてもの御持て成しでお迎えさせて頂きます。」


 「その様な過分な礼は不必要ですメロトーサム卿、この地辺境に至ったからには頭を下げるはディオレールの王族の方なのです。我等ディオレールのものにとって辺境とは頭を下げるべき地であり頭を下げられるような資格は無いのですよ。メロトーサム卿……メロトーサム様、すいません。……すいません。」

 

 今にも泣きだしそうな沈痛な顔だ、全く子供の頃から変わっていない。自由奔放な兄とは真逆で権威と礼儀と保守的な責任感とを固めて作った堅物のままだ、王家は何もしていないし常に辺境を守り続けようとしていた事くらいシャリセレス様に聞いているというのに代王として全ての責任を被りに来たのだろう。


 勘違いも甚だしい、辺境の滅亡に対して謝罪と贖罪に来た心算つもりなのだろう。


 王国と教国に最悪大陸の国家全てが敵に回ったからと言って滅びてやる気などこの辺境には欠片も無いと言うのに、勝てないなどどうでも良い事だ、我らは負けてやる気も無いし滅びてやる気も無いのだ。我等は既に諦め嘆くなど許されない、我らはそれほどまでのものを後ろで笑っている少年から受け取っている、それ程までの素晴らしきものをあの少年から渡されたのだ。


 しかしいつか山に頭を下げさせるとは言われていたが、まさか大迷宮を落とし魔の森を殺す少年を捕らえて来たという偉業には未だ気づいていないのだろう。まあ遥君も気付いて無い様な気がするんだが? きっと説明は聞かない方が良いだろう、今度通訳さんに聞いてみよう。


 未だ深々と頭を下げ続ける王弟、これから起こる辺境の悲劇を嘆き苦悩し贖罪に代王自らが此処まで来たのだろう。


 小声で王弟……ムスジクスに話しかける「話は中で良いだろう、それに代理でも王が家臣の前で頭を下げるな。王ならば胸を張れ、ムスジクス。」そう言って背を叩くと漸く疲れ切った顔を上げた、暫く逢わなかっただけなのに痩せ老けたものだ、美味いものでも食わせてやろう。遥君に頼んで。


 積もる話も聞きたい事も有るがまずは休ませよう、全員が疲れ切り汚れているし1部隊にしては人数が少なすぎる。王弟までが襲われたか、やはり裏は教国か。


 戦乱と悲劇が起きると伝えに来たんだろう、それを詫びに来たか。


 これから起こる辺境の戦乱と悲劇と滅び、王としてその贖罪に来たか。



 しかし悲劇が来ると言われても正直この辺境を落とす手段が全く思いつかないのだが?


 軍事の基礎だが守る時はそこをどう攻めるかを考えるのだ、だから辺境軍の幹部も軍師も考え抜いた、この辺境を攻め落とす方法を全て並べ精査し練り上げて思案して検討した。落とせないんだよ? 消耗戦で擦り減らすしかないと結論に達しても消耗戦でも如何な大軍を持ってしても先に擦り減って消滅してしまうのだ。


 どうやるんだろう?


 しかも辺境にあの少年がいる状況で戦いを挑むなんて狂気の沙汰としか思えない、そもそも最強の近衛を揃えた剣の王女が率いても戦う事すら出来なかったのだ、軍事以前の問題でそれこそが大問題なのだ。


 あの少年は軍事に精通し軍略も戦略も戦術も策略も権威と言って良いだろう、あの少年から渡された「オモなんとかのって言うかまあ辺境? の防衛白書だけどちゃんと書いたから白書じゃないんだよ?」と言う本には考え及びもしなかった軍事の全てが詰まっていた、それは全ての戦術研究されその結果が探求し尽くされて洗練された戦闘の芸術とすら言えるだろう恐ろしい本だった、やっぱりまだ街の名前も憶えていなかった。


 だが戦術を極めた少年は事も無げに言い切った「戦わずに勝つのが1番だよ? って言うか戦わせたら負け? みたいな?」と、そしてそれは恐ろしい迄に真実だ。


 どう考えても辺境よりもあの少年達こそが落とせない、あれがどうにか出来るんならさっさと大迷宮でも魔の森でも何とかしてどうにかしている事だろう。


 その少年達が笑っている、これで滅びろと言われても「どうやって?」と聞き返したくなるくらいだ。



 後学の為にどうやるか聞きに行ってみようか?


お読み頂いてありがとうございます。

皆様から12,000,000PVものアクセスを頂いておりました、ありがとうございます励みにさせて頂きます。

お礼投稿と言いうのも烏滸がましいと言いながらもまた何時もの乱文です、もし万が一何かの間違いで御気に入って頂けてお付き合い頂ければ本当に幸いです。

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