アレな方でまあアレでその他すべてがアレな方ですってドレ?
61日目 荒れ地
辺境に向かってひたすらに駆ける。まさか国王の代行の部隊に強襲を掛けて来るとは、これは完全に王国を教国の属国に取り込み王家を傀儡にして辺境を奴隷化して魔石を一手に支配する気なのだろう、そこまで落ちたか。
王国は獣人の連合国を認め獣人の人権を認める数少ない国で教会からは目の敵にされている、教会に取り込まれた貴族たちはその法自体を変えようとしているが王家の盟約である以上決して変える事は許されないし変える気も無い。どれほど教国が強く出ようとも決して王国に敵対は出来ない、教国は王国の魔石が無ければ教会の権力を維持できなくなる、教会は魔石の加工を独占し「神の浄化」以外は汚れた悪魔の技と呼び他の魔石を加工する者を魔女と呼び捕まえて見せしめに拷問にかけ、隠れても一族ごと狩り、殺し尽くし、滅ぼして魔石の加工技術を独占してその富を独占した。その魔道具や魔具によって大陸に教会を広げ侵略して行くのだ、そして魔石加工の全てを独占されてしまえば国家ですら安易に逆らえない程の力を持ってしまった。
それがいつの間にか是ほどの数の貴族が教国につき第1王子まで取り込まれていたとは世も末だ、それは即ち王国の諜報部までが教会側だったと言う事なのだから笑い話にしても笑えんだろう。王家は何も知らず嘘の情報で騙され動かされていたと言う事の証明なのだから。
これは辺境まで辿り着け無いようだな、敵軍の深緑の鎧に白いラインと言えば森林戦を得意とする傭兵部隊と聞いていたが森で襲われ急いで平地に出ても既にこちらは壊滅に近い状態だ、これでは立て直せないし敵が強い。完全に情報が教国側に流れている、と云うよりも教国と内通した情報部の策案した罠に自らがかけられて飛び込んだのか。オムイ伯にこの首を差し出す前に討たれるとは無様極まりないがこれはもう既に命運が尽きてしまったようだ、兄の代理も果たせずオムイ伯に詫びる事も出来なかったか。
ただ 辺境に向かって遮二無二駆ける。せめて教会の軍まで動いている事を知らせねば、せめて、
「前方に人! 1人、武装無しの一般人です。」
「可哀想だが避けきれん、突っ切れ!」
悪く思うな等とは言わないが突っ切らせてもらう、せめて辺境の近くで討たれれば辺境軍が教会の動きに気付くかも知れん、もうそのくらいにしか私の命には使い道が残されていない。そしてそれだけが王国に希望を残せる、だから……消えたっ!
前方にいた黒いマント姿の人影は目視出来ていた、それが忽然と消えた? 罠か? だがもう突き進む以外にない、一歩でも辺境の傍で果てる以外に道はもう何もない。
「後方で戦闘! 黒マントが敵軍と交戦中、敵は停止!?」
何が起こった、反撃に出る好機なのか逃げる好機なのか、いや何を置いても辺境に行かなければならない。
「前方に旗。白に赤、剣にハート。シャリセレス様です! 単独ですが武装されています!」
剣の王女の旗が上がり味方が俄かに活気づく、これこそが王子共がシャリセレスを恐れ弑そうとする最大の理由。最強故のカリスマだ。
たった1人で騎乗もせずに剣を持って立っているだけで兵が纏まり集う、王としての覇気を持つ真の王族の血統、あれこそが姫騎士シャリセレスだ。
そしてシャリセレスが指揮を執れば烏合の衆の弱兵が10倍の敵を打ち破る、だからこそ兵が慕い命を預ける。
「シャリセレス、無事だったか! だが敵に喰い付かれた、この……」
「王弟閣下、先へお進みください! 殿はお任せを。まあ、必要ないみたいですが……」
振り返ると後ろは静かな地獄だった、そこには黒衣の死に神が一方的に圧倒的な大軍の命を無音で刈り取っていた。
消える様に舞い、駆け抜けて消え、現れては傭兵たちを消し去って行く。残るのは静寂のみ。
あの強兵が脅え混乱し瓦解して行く、たった1人に蹂躙されている。
100騎に近い敵が振り向くまでに半壊し、振り向いてからの僅かな間に殲滅されて行く。あれは地獄だ、此の世の悪夢だ。
「王弟閣下、何故辺境へ? 王都で何かありましたか?」
あれを見て平然としている、シャリセレスが連れて来た者なのか?
「あれは一体何なんだ、あれは……人なのか?」
「……護衛です? たったの一度も守らずに敵を殲滅しているんですが多分護衛です?」
あれが護衛! オムイ伯が付けてくれたのか? だがあれは……あれが何かすら分からない、戦いと呼ぶにはあまりにも違う何かだ。
戦慄き暴れ回る軍馬の狂乱の中を歩く、静かにすり抜ける様に消えては現れて消し去り悲鳴も怒号も叫び声すらも静寂に変えていく。
混乱し恐怖に暴れ回る騎馬の群れの中をすり抜ける様に進む黒衣の影、幻影の様に瞬きながら舞うように進む。気が付くと騎手がいない、死体も無くただ消え去る。
傭兵達は逃げようとしている様にも見えるが、まるで囚われた檻の中を逃げ惑う様に駆け廻る。
そして馬だけが逃げていく、騎手は消え去り馬だけが逃げ去っていく。
まるで人などいなかったかのように無人だ、馬は逃げ、死体の一つも無いただの荒れ地にたった独り黒マントの男だけがいる。
まるで何も無かったかのように全て消し去った。
歩いて近づいて来る、未だ少年のような幼さの残る顔立ちだ。
「遥様、ありがとうございました。国王代理で在られる王弟閣下の身に大事無く済みました事を感謝させて頂きます。」
「あ~? いや、関係ないしお礼何か良いんだけど? どうせあいつ等は宅配決定だったんだから、それにあれはちゃんと念入りに梱包してちゃんと宅配しとかないとオタ達が煩いから良いんだよ? 「殺っちゃった。テヘペロ~」って感じ? みたいな?」
無礼な餓鬼だった、叱りつけたいがあれを見た後にそんな事が出来る訳が無い。そしてシャリセレスが何の問題も無いように会話をし、あの口煩い影が何も言わない。何者かが分からない。
「王弟閣下、え~こちらは遥様と申されまして遠方から参られたオムイ家の御客人? と言うかアレな方で言葉~は問題ない? まあアレで礼儀作法や常識……とその他すべてがアレな方ですがご容赦下さい。」
全てがアレってどれなんだ? だがオムイ家の客人なれば無碍な扱いは出来ん、無礼極まりない相手でも恩人には違いないが見ればまだ子供じみた少年でLvも21しか無い小僧に過ぎない、さっきのあれは何かの魔道具だったのか? だが危険には違いない、あれは恐ろしいものだった。
「助けてもらいシャリセレスまで世話になった、礼を言うぞ。してオムイ伯は来られているのか? メロトーサム卿から何か指示を受けているのか? こちらには敵意は無い、ただ伯に話があるのだが辺境軍の本陣はどこにある?」
聞いていない! 代理とは言え国王の前で膝も付かぬ無礼を許してまで礼をしたと言うのに聞いていない? オムイ伯の客人で無ければ無礼討ちだがそれも出来ないしこの小僧は得体が知れない、だが王国でその国王の地位を侮辱して許すと言う訳には決していかぬ。
「丁重に捕らえて簡易牢に入れろ、怪我は決してさせるな」
「お待ちください!そのか……
是ばかりはシャリセレスがいかに庇おうと許す訳にはいかない、私は国王である兄の名代だ、王の権威だけは汚させられない。そうでなければこの首に何の価値も無くなってしまう、この先の辺境にまで代王としてこの首を運んできたのだ。そうでなくてオムイ伯に、メロトーサム卿に何を持って詫びろと云うのか?
この首が胴から離れるその時までは王であらねばならん、王族としてオムイとはそれ程までのものなのだ、王として頭を下げて首を落とさねば謝罪にすらなりはしないだろう。
この先が辺境、最果てのオムイ領。私の死に場所だ。




