甘かったら山脈散歩だいって言われても辛かったら水中遊泳なの?
60日目 夕方 宿屋 白い変人
50階層まで踏破して迷宮王を倒し意気揚々と街に帰ると宿が無い?
いや、有るんだけど豪華なリゾートホテル? 石垣の上に真っ白な階層が積み重ねられたビルディング、そして異世界では未だ貴重且つ透明には出来なかった筈の硝子がふんだんに使われた壁面。
でも看板は「白い変人」だった、犯人は考えなくてもみんな分かってる。
中を探検してその驚異の脅威に驚愕し狂乱していたら真犯人が何の罪の意識も無さそうな素知らぬ顔で現れた、宿屋の一家はみんな泣きそうな顔なのに無反省で現れた。
「おかえり~? って言うかそっち本館でみんなはこっち、こっちはほとんどそのままだよ? まあ広くなって部屋は増えたけど基本そのまま、こっちは貸し切りみたいなもんだし? 的な?」
いつもの入り口にいつもの食堂、そしてみんなが「ただいま~」って言いながら入って来る、これがこの街での日常。
本館の豪華さにもちょっっぴり心惹かれたんだけど、こっちが我が家だった、だからこっちはそのままに残してあるんだ。
だってみんなが帰ってくる場所だから。
よく見ると結構いじられている、全体的に広いし天井もちょっぴり高くなっているんだろう。
だけど綺麗になっているが新品っぽさが無いし、今までと同じ素材が継ぎ足されているだけだから違和感無く馴染んじゃう。
今まで通りの落ち着いた慣れ親しんだ造りのままで拡張する方がきっと難しかっただろう。
お部屋は一気に増えたから2人部屋か個室にするか女子会で話し合おう、1人でゆっくりもしたいんだけど1人だとやっぱり寂しい。
女子風呂は広くなって魔動シャワーも付いてサウナも完備、地下に訓練場も出来たらしい。
そっか~、ずっと訓練していた裏庭は無くなっちゃったんだ。
新しい宿屋になったんだ。
宿屋のご主人も奥さんも看板娘ちゃんだって涙ぐんでいた、こんな立派でこんなに頑丈にして貰ったって。
その言葉でようやく分かった、あの涙は立派だからなんかじゃ無いんだ、一度滅びた事がある精神的外傷の為の在りえない迄の強固堅牢さだった、あの涙はようやく本当の意味で安堵できたんだ。
多分魔物の大襲撃で街が滅んだってきっとこの宿は残る、ここに逃げ込めば生き残れる。そういう意味だ。
そう思える宿を作ったんだ、まあそれってもう宿じゃ無いよねって言うのは置いといて作ったんだ。
豪華で綺麗な宿じゃ無くて安心感を作ったんだ、ここにいれば大丈夫だよって、絶対に守るよって。
きっと城壁が崩され城塞が破壊され城までが落ちても宿が難攻不落だと魔物さんも吃驚だろうけど、だってオーナーである経営者一族がもっと吃驚しているんだから。
でも凄まじく堅牢で頑丈で強固さだけれどそれでも充分過ぎるくらいの豪華さと華麗さと綺麗さだった、しかも凄まじい美術品の数々は何処のルーヴルさんの大英さんのメトロポリタンなの~って言う位凄かった。あれだけで充分にお金が取れる、全部偽物なのにオーラがあったんだから!
「ひまわりってあんなに沢山あるの? あとヴィーナスさんちょっと違わなかった?」
「あんなに大きくは無いんだけどひまわりは連作だったはずよ? ヴィーナスさんは服着せられてたね?」
「モナリザさんも結構いたし、印象派迄で止めたみたいだね? まあ遥君の洞窟はA・ウォーホールだったし?」
「まあ今の異世界の文化だとエロいの禁止だったんだと思うよ? ヴィーナスさんも服着てたし?」
街中の人が見物に来て感動していた、きっとこの世界でこの街の文化が動いた。
産業革命や文明開化じゃない、あれは見る人の心に感動を与えていた。
きっとただ暮らすだけの生活に美しい物に憧れる文化が根付いた、きっと美しい街になる。
その為の象徴だ、日々の生活の中に幸せや喜びや嬉しさを生み出すのは感動だから。
前に教会風の孤児院が出来たと思ったら美術館風の学校が出来ていた、そしてホテル兼美術館?
そう、いつの間にか丈夫で快適な家しか考えていなかった街の人が壁を白くしたり形を整えたり庭園を造っていた、変わり始めている。
「そっか~異世界って何だか殺伐としているって感じていたけど芸術とか文化がまだ浸透していなかったんだねー」
「でもお洋服や家具なんかも売れ始めていたよ? これからなんだよ、辺境は貧しかったんだから」
そして帰って来て用意してくれた晩御飯は肉じゃがさんだった、もう女子がみんな胃袋を掴まれちゃっている!
焼き魚に白ご飯に肉じゃがときゅうりの浅漬け、しっかりと味が染んでいて美味しかった。でも何でものの2~3分で染んじゃうんだろう? よく考えれば2~3分でご飯が炊けるのだって充分におかしいし胡瓜の浅漬けだっていくら浅いって言ってもそんな漬けた瞬間に漬物にはならないだろう。
なのにどうしてお魚だけは毎回ちゃんと焼くんだろう?
使えるスキルが何にもないって言う割には誰よりも便利に使いこなしている、きっと生産系のチートスキルがあってもこんな事は出来ない筈だ。だってスキルを分解して組み立て直すってスキルをどうやったら分解なんて出来るのか誰にも分からないし組み立てだって全くできない。あれは何なんだろう?
このしっかりとしてしっとりしっくりの味付けにお芋さんのホクホク感は究極の逸品だろう、でも遥君は糸蒟蒻が欲しかったみたい。もうとっくに既に元の世界の水準を遥かに超えちゃっているのに未だ不満みたいだ。
そしてお風呂が凄かった。
「「「うわあああっ! ゴージャスなリゾートなの? って彫刻の像からお湯が出てる!」」」
「大理石のお風呂~! あっ、木の浴槽も別にある。あっちは水風呂?」
「うたせ湯だ、悟りが開けて新スキル! 阿耨多羅三藐三菩提?」
お風呂は広かった、女子風呂だけらしい。
男と一緒に入っても楽しく無いから男風呂は個別らしい、だからと言って混浴には出来ないところが遥君らしい。
「シャワー久しぶり~。」
「ジェットバスだ~、これって洞窟に有ったのの豪華版?」
あのお風呂へのこだわりは何なのだろう、異世界に来て1週間位で既に猫脚バスを造りジャグジーを作っていたのだ。
「「「サウナで引き締めだ~!」」」
ちゃんと流石に肉じゃがさんを丼でお代わりした危険性には気づいていたみたいだ、タオルを巻いた女子校生20人+1名で一気にサウナが満員になっていく。うわ~熱いよ~?うん、私も食べちゃったの。
ゆっくりとしっかりとじっくりと汗を流す、極楽だけど暑い、熱いんだけど気持ちいい。
お風呂の前の訓練では楯っ娘改め楯委員長が大活躍だった、その成長にはアンジェリカさんも目を細めて喜んでいた。
守りたい、守らなきゃと必死に戦っていた女の子は、守るんだという覚悟を持ち決意した。そして楯委員長になっていた。
「遥さんに楯を貰いました。楯委員長って認めてもらいました。だから守ります」って、ダンジョンでも訓練でもみんなを守り抜いていた。その手に遥君に渡された「明鏡の大盾」を持ち皆を守る楯委員長になっていた。
島崎さんの新装備も凄い破壊力だったがそれ以上に速度とそれによる手数で圧倒的に強くなっていた、でも何よりもその手に「永久氷槍」を持ち氷の鎧を纏い氷の大盾を持ち氷の剣と氷の矢を操る姿はまるで氷の女王の様だった、とても綺麗で苛烈だった。
でも戦いでは圧倒的威力で暴威を振るい君臨する氷の女王さんは、戦闘が終わると嬉しそうに愛でるように永久氷槍を撫でてデレデレだった。
図書委員ちゃんは最後まで手の内を見せなかったが文化部組の状態異常攻撃も味方への付与も段違いに力を増していた、そのせいで魔物さん達は片っ端から弱体化してしまいサクサクと踏破が進んでしまったくらいだ、だがあの「波及の首飾り」は遥君と図書委員ちゃんが延々と話し合って渡されていた、きっとまだ何かある。
次は柿崎君達体育会系組の装備だろうか? でも遥君がいないときはちゃんとブーメランを投げて牽制しハルバートで魔物達を制し剣を持って切り裂き回っていたんだけど武器は何なんだろう? 寧ろあの身体能力と判断力、そして直感こそが彼らの武器だ。でも遥君と一緒だと途端に莫迦になる?
そして珍しく大騒ぎコンビのバレー部っ娘A、Bと呼ばれている垪和さんも酒々井さんも無口だ、これから始まるブラとショーツの採寸と言う名の乙女の危機に緊張しているみたいだ。フォローしてあげたいんだけど……あれは大丈夫だよとは言えない、もう最後は腰が砕けて立てなかった。そしてあの時の事を思い出しちゃうと思い出しちゃうと熱くなってきて…………(ぽてっ)
「救護班~! 委員長がっサウナで倒れたよ~、もう顔が真っ赤でヤバいかも~? 譫言も……エロい?」
「運び出して、早く出して。そして冷やして、冷やして。いや冷凍魔法は冷やし過ぎ? 凍っちゃうから。」
あれは乙女の危機って言うか、乙女が堕乙女な危機が洩れ出して溢れ出しそうな危うい採寸だった。あれは乙女が大丈夫じゃないの!
お読み頂きましてありがとうございます。
11,500件ものブックマーク登録を頂きました、ありがとうございます。(と書いていましたら連続で登録を外されちゃって足りなくなっちゃいましたが凹みながら投稿させて頂きます)
お礼投稿と言うには烏滸がましいお話で恐縮ですがお礼に併せまして投稿させて頂きます。重ね重ねありがとうございます。