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一気に出さずに少しずつ上げたり目線を変えると長くぼったくれる。

 

56日目 夜 宿屋 白い変人



 アンジェリカさんが笑っている、とても嬉しそうな笑顔だ。きっと今までずっと心配していたんだろう。


 宿に戻ると遥君は部屋で寝ていたらしい、普通徹夜で村を一個作っちゃったら寝ると思うんだけど……でも、ぐっすりと眠っていたらしい。


 ずっと眠らない、とても浅い眠り。深夜にする事が無くなっては虚ろな目で何かに思いを馳せていたんだ、眠れば魘されて目を覚ますから。


 でも、ぐっすりと眠っていた。


 あの滅びた村に行って村を作りお墓を作りそして村の人からありがとうって言って貰えた。


 そして感謝されるの恐れていた遥君は今朝は少しだけ大人っぽくなっていた。いつもの作り笑いじゃない、自然でちょっとだけ悲しげだけどそれでも感情がちゃんと顔に現れていた。


 それは諦めたとか忘れたとか吹っ切れたとかじゃ無いんだと思う。少しだけ心の中で折り合いがついた、だからちょっとだけ悲しげなんだけどちゃんと前を見ていた。


 とても久しぶりに見る遥君の顔だった、そしてちょっぴり大人になっていた。


 まあちょっぴりでは済まないくらいに毎晩毎晩大人の階段を500段飛ばしくらいで駆けあがって成層圏なんてとっくに突破してるんだけど。


 それでもやっぱり普通に笑う遥君の顔はチョットだけ大人っぽかった。


 ずっと男子の事を女子のみんなは羨んでいた、男子だけで莫迦な事してる子供みたいな時や、こっそりギルティーなお話している高校生らしい時や、莫迦莫迦オタオタ言って怒鳴ってる感情が活き活きとしてる時にちょっぴり羨ましかった。


 みんなで追加注文だーとか駄々を捏ねた時だけは「横暴だー!虐待だー!」とか言って、でもちょっぴり嬉しそうだった。そんな事でしか自分の価値を認められなかった、そんな時だけちょっとだけ笑っていた。 


 それが今朝急に普通に笑って「ただいま」何て言うから、ちょっぴり大人っぽい顔で急に言うからみんなドキドキしちゃったよ。吃驚した、そして嬉しかった。


 本当に久しぶりに見れたから。


 ずっとずっと見れなかったから。


 ずっと一緒にいたアンジェリカさんですら嬉しそうだ。


 きっと初めてちゃんと寝顔が見れたんだろう、ずっと見た事が無かったんだ。


 「「「寝顔見たーい!」」」


 「駄目だよ!やっとゆっくり寝られているんだから。絶対駄目!」


 それでもやっぱり悲しげなのは、それでもやっぱり悔いているんだ。


 だって遥君だからしょうがない、もし本当に忘れて気にもしなくて自分のせいじゃ無いからしょうがないなんて思えるんならきっとそんな人は誰も救わないし救えない。


 しょうがない様な事だって死ぬほど悔いて苦しむ様な人だからこそ救ってしまうのだから、無理だとかしょうがないとか残念だとか言えるような人は救える人しか救わない、手も届かない様な人まで救えない。決して勝てない者を殺せない。


 (プルプル)


 でもスライムさんは帰って来ても遊んで貰えなくて不満みたい、もうすっかり甘えん坊さんだ。


 雑貨屋のお姉さんだからこそ知っていた、救いなんて無いから折り合いをつけるしかない事を。どこかでけじめを付けてあげる事を。


 かつて自らが苦しんで苦しんで苦しみぬいたあのお姉さんだから知っていた、その苦しみを理解できた。


 だから突き放せた。救いなんて無いんだよって、でもみんな救いなんかなくても救いたくて足掻いているんだよって。


 

 だからちょっとだけ悲しげで、ちょっぴり大人になって、そして強くなっていた。


 ステータスなんて何も変わっていない、だけどずっと強くなっていた。研ぎ澄まされた。


 きっと折り合いをつけ救いなんて無い事を理解し、ただ殺す事しか出来ないと嘆く少年は殺す事への覚悟を持ってしまった。それしか出来無いと、だから殺すと。そしてちょっぴり大人になった。


 「なんか迫力があったよねー?」


 「でも笑顔がちょっと良い感じになってた?」


 「晩御飯は……今日はとんかつ。」


 「「「そうだったー!」」」


 でも誰も起こそうなんて言わない、でもちょっぴり期待してるから宿の晩御飯も食べれない。因みにとんかつソースは無理だったそうだ。


 

 「おはよ~う、って言うかお帰りなさいませ?みたいな?じゃあご飯にする?お風呂にする?そ れ と も オタ狩り?」


 「「「ご飯だー!とんかつさんを夢見て帰って来たの!あと狩らないのっ!」」」


 起きて来た。気配探知に掛かっても寝惚けちゃう位にゆっくりと寝られたんだね。


 ぼんやりとした顔で階段を下りて来るが既に魔力を纏い操作が始まっている、臨戦態勢だ!


 そうしてとんかつ祭りが開催された。遥君の周りには仕込み済みのとんかつさん達が複雑な螺旋の組み合わせを描きながら宙を廻り、次々に揚げられていくとんかつさんのジュウージュウーと立てる音まで美味しそうで女子達もグーグーと音を立てて待っている。

 

 それが次々にアイテム袋から取り出され宙を舞うお皿に乗せられると魔手さんの超高速のワイヤーカッターの斬撃で刻まれたキャベツさんに合流してはソースをかけられてテーブルまで滑空し着陸する、そしてそのお皿を追いかける様に滑り込んでくる炊き立てご飯さんから湯気が出ている、しかも茸スープまで追従して滑空してきちゃった!


 多分ちゃんと時間を計れば3分も掛かっていないと思うけど、でもその音と匂いで美味しいの、食べる前から美味しいから待ってる時間が永遠に思えるほどに待ち遠しい!手なんて出せないから待っている事しか出来なくて余計に待ち遠しい、だってジュージューと音を立てるとんかつさんを前に抗う事なんて誰にも出来ないだろう。


 「出来たよ~、たーんとお食べ~?御かわりあるんだよ~、でも何時ものぼったくり価格な素敵なスペシャルプライスで今なら一枚800エレだよ~!」


 「「「いただきまーす!」」」


 「「「おかわりも予約!」」」


 室内にはモグモグとガツガツと無言の幸せが満ちていた。また一つ失った思い出が帰って来た、きっと何一つ失わせたくないんだ、例え異世界だからって全部取り戻す気なんだ。それは絶対に不可能な事だけれど一つでも多く取り戻す、自分こそが最大の強欲の強奪さんなんだよ?だって諦めないんだから。


 異世界になんて連れて来られて何もかもを失ってしまったけれど、今日また一つ取り返して貰えた。異世界でのReとんかつさんは正義だった。


 柿崎君達はとんかつを咥えたまんま御代わりに行って遥君に怒られている、女子達も御代わりの在庫数を横目で確認中だ。また遥君の分まで食べちゃったら駄目だよ!また怒りのぼったく祭りで無一文にされちゃうよ?私のも残してね?3枚までなら余裕の筈だ!



 しまった!罠だった、何で2回も御代わりしてから大根おろしさんが出て来るの!しかも別料金!あくどい、でもいるよ!


 ……どうしてデザートまで有るの!何で寄りにも寄って果物のムース各種なの!大好物なんだから!嫌いな女の子なんていないんだよ?それをよりにもよってとんかつさんの後に出すなんて……しかも4種類もある……。



 そして食べ終わったらお風呂の前に訓練だ!演習で鍛練だ!きっとカロリー計算がヤバい!アンジェリカ隊長のキャンプに入隊しよう。わんもあせっと?


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6月25日にひとりぼっちの異世界攻略コミック24巻が刊行されます。 公開された書影はこちら。

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