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異世界はもっと振りを理解して行動する努力をするべきだ。

54日目 朝 偽迷宮



 私が命じられた指令はこの辺境への道を塞ぐ迷宮を殺す事。そしてその奥に隠れている辺境伯に最終通告を渡す事だ。最早王国には時間が無い。


 だが王国は辺境と辺境伯を甘く見過ぎている。それでも交渉に持ち込めなければ王国が破綻する。


 まずはこの迷宮を殺す。


 Aランク冒険者を中心とした迷宮のエキスパート達を率いて迷宮に踏み込む。Bランク冒険者達がサポートに回る豪華な探索だ。


 だがそれは激闘でも死闘でもない何かだった。正直笑ってはいけない迷宮踏破だった。


 王国からの要請で連絡が付き手の空いていた高ランク冒険者を招集させた。高額の依頼料が提示されたため即応した。


 それ程までにこの迷宮を落とす事は急務。王国の存亡にかかわる大事だ、人員も戦力にも出し惜しみは無い。

 

 それが、その選りすぐりの精鋭達が…だめだ!笑ってはならない!彼らは必死に王国の依頼に応えようとしているのだ…ぶふううぅっ!


 深い底も見えない大穴に掛かる一本の細い通路、曲がりくねりながら続く切り立った岩の道だ。


 軍の大軍では渡れない、両側の壁から打ち出される岩に叩き落されて行くだろう。だから迷宮を殺して仕掛けを止めるのが任務。


 華麗な身のこなしで岩弾を躱し俊敏に進む冒険者が…脚が滑って落ちて行く。


 滑る道を避けて飛び上がり迷宮の天井の岩に摑まった冒険者が…岩ごと墜ちる。


 仲間を救おうと手を伸ばし止まれば岩弾に叩き落される、油断しているとごくまれに上からも岩が降って来る。


 剣の腕も魔法の技も関係なく滑り転び転がり落ちて行く冒険者達、そしてあと少しと身体強化して向こう岸まで跳躍すると見えない糸に弾かれ落下していく。


 穴の底では水音が聞こえるので命に別状はないだろう、だが聞こえてくるのは「装備が、服が溶ける!」と阿鼻叫喚の絶叫だ。


 先の広間では天井を覆い尽くす蜘蛛の魔物達を魔法を使える者を集め一斉に攻撃したら天井が崩落して傭兵団が脱落した。蜘蛛の魔物は天井に描かれた只の絵だった。


 その前も通路の落とし穴を避けて通路の向こう側に一斉に飛び込むと壁だった、壁に描かれた通路だったのだ。そして落とし穴に消えて行った。


 何故か集団で軍事行動をとるゴーレムとの戦闘を避け突破して来たと言うのに、只の通路が通れない。只の通路こそが恐ろしい。


 そして何が恐ろしいかと言えばもう残った者の半数以上が武器や装備を破壊され服も溶け全裸に近い、戦力として数えられない。


 これで迷宮王に挑むなど不可能だ、女性冒険者たちは全員が逃げ帰った。ちょっと残……ンンンッ。無事に帰還した。


 「撤退は許されていないがこれでは全滅しに行くだけだ。迷宮王戦は冒険者たちを逃がし我等だけでやるしかないな、年若い兵から武器と装備を取り払い撤退させろ。無駄死には許すな。」


 「「「…了解しました。」」」


 武器装備を持たなければ戦力たり得ない、撤退させても責任は追及されない。


 「宜しいのですか?それでは…」


 「私が残れば問題ない、帰らねば全滅と見做される。」


 これは王国が滅びるしかないな。王国が、王国の貴族が辺境にしてきた行いを鑑みれば辺境伯は許しなどしないだろう。当然の事だ。


 王族貴族全員の首を差し出せと言われても驚くことも無い、我ら王国は辺境に死ねと命じて来たのだ。助けを出すはずの王国が搾取して苦しめて来たのだから許しを請う事すら認められる事はない。ただし王国の滅亡が掛かろうと中央にいる下種貴族達が財や生命を差し出す訳が無い、王国は滅びるしか道がなくなった。


 

 そうして僅かな兵たちと進むが罠ばかりで魔物がいない、下層への階段すら無いから通路型の特殊迷宮なのか?なら奥に迷宮王がいる。残りは8名。


 この手勢で倒せるなんて露程も思ってはいない、しかし戦う事無く罠に掛かり迷宮王すら見ぬままに朽ち果てれば私を庇い消えて行った兵に合わせる顔が無い。だが残りは5名。


 充分に注意したにも関わらず扉を開いた兵は消え去った。扉の取っ手自体が罠だったのだ、手が離せないままに扉に引き摺られる様に地下へと消えて行った。


 これで残りは私一人だ。


 だが命運は尽きている。既に両手と両足が接着され四つん這いのまま動けない、まるで獣の様に地面に這いつくばり進む事も戦う事も退く事は愚か立ち上がる事も出来ずに運命がついえた。


 もう剣を手に取る事すら叶わず、甲冑も腐食され朽ち果てている。


 そして岩壁が蠢き動き出した、次々と壁から剥がれ出る岩の人形たち「ストーン・ゴーレム」。


 こんな惨めな姿で戦う事すら許されずに屍を晒すのは屈辱だ、だが此処で果てるなら少なくとも王国の滅亡を視ずに済むだけ幸せなのかも知れない。


 そんな悲観をよそにストーン・ゴーレム達は私が張り付いている床を私ごと頭上高く持ち上げた?


 叩き付けられるかと思ったが上下させているだけで叩き付けられることも無く、攻撃のそぶりも無い?


 ただ私の張り付いた床を上下に揺らしながら行進する、まさか迷宮王への生贄なのか?戦う事も無く魔物の餌として生きたまま喰われるのか?考えても抗う術はもう無い。


 延々と上下に揺らしながら、ゆっくりと回されながら運ばれて行く。何かの儀式なのか?迷宮王にまみえた事も無ければ魔物に捕まり喰われた事も無いのだから分かる訳もない。


 明かりが見える。あそこが目的地か?


 ストーン・ゴーレムの行進、そしてひけらかすかの様に四つん這いのまま蹲る私の姿が高く担ぎ上げられて晒される。


 明るさに一瞬目が眩むが例え生きたまま一太刀も浴びせる事無く貪り食われるのだとしても、せめてもと睨みつける。


 外だった?


 そして遠く眼前には城壁が包囲する様に囲み、その前に展開するのは王国で最強と恐れられる辺境軍。そして其れを率いるのは英雄の一族とまで呼ばれ幾多の伝説を残すオムイ家の現辺境伯、王国の民が辺境王と呼び、他国の軍が挙って軍神と恐れ、王都では無敗の剣士と知られる英雄メロトーサム・シム・オムイ。


 皆の視線が注ぐ、あれ?今の格好って半裸…って言うか襤褸布が辛うじて纏い付いているだけの姿で四つん這いのまま蹲った姿で高く担ぎ上げられてる?

 

 ……。



 「くっ、かぁ、きゃああああああああああああああぁぁっ!」


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