だって誰かが仕事をくれないと何時まで経っても内職から解放されないんだよ。
お読み頂きありがとうございます、未だ総合評価が上がっているのに胃痛中です、ブックマークも1,400件も頂きました、本当にありがとうございます。評価も50件近く頂き本当に有り難い限りです。
と言う訳で調子に乗りつつまた投稿させていただきます、これでストックが尽きましたが仕事をほったらかして続きを書いていたりします、年度末~申告日はエタりそうで焦ってます。毎度の乱文にも関わらずお付き合い頂きまして本当にありがとうございます。
51日目 夜 領館
「明日の朝一番に宿へ使いを出してくれ、あの少年に何時なら予定が空いているかを確認して来てもらう必要がある。丁重にだ。」
迷宮が次々に死んでいる、毎日の様に冒険者ギルドから知らせが来るのだ。しかも氾濫の危険度の高い中層以上の迷宮ばかりだ。
あの少年達だ。その少年達を本来なら手伝う事は有っても邪魔するなど許しがたい行為なのだがどうしても少年の協力が必要なのだ、発展の速度に資源が追い付かなくなってきている。特に金属関係はあと数日で枯渇するだろう、木材の供給が早すぎるのだ。
予定より凄まじいまでの勢いで魔物の森が伐採され、斬り開かれている。
巨大な鎌が旋回しながら魔物も森も斬り裂いているという報告も有る。
日々迷宮を殺し、魔物の森まで伐採し、合間に偽迷宮を管理し辺境を守る。今でも多忙過ぎるだろう、だが鉱山の開発計画書には「坑道掘り 一時間100万エレ」と料金表が付いていたから良いのだろうか?発掘権払いも有るみたいだ?かなりお得だ。しかも鉱山に坑道を巡らす予定時間は3時間らしい、300万エレなら格安だ。しかも普通は時間当たりでは無く年単位の時間が掛かるのだ、だがそれでは供給が間に合わなくなる。だから少年に頼むしかなくなった。また少年に負担を掛けねばならないのだ。
もう何と言って頭を下げれば良いのか言葉すら無いのだ。
領主がすべき全ての苦難を一身に背負い込む少年にさらに頼まねばならぬなどと言う恥晒な真似をせねばならない、恩知らずもこの上ない振舞いだ。
この無駄な頭など何度下げようとも返せぬ恩を受けておきながら、未だ少年に頼ろうというのだ。最早頼む言葉が無いのだ。
それでも領民の暮らしには代えられない。
やっと巡って来た幸せなのだ。
この辺境には訪れる事の無かった幸せと言うものなのだ。
一人でも多くに、一日でも早くに、幸せというものを知って貰いたい。
この街の様に、この街の人々の様に。笑って暮らして欲しいのだ。
この身で出来る事ならば何でもしよう、だがあの少年にしか出来ない事が余りにも多過ぎる。
そしてその重荷のどれもがあの少年には本来何の関係も無い、本来する必要もない事ばかりだと言うのに。
「報いる術すら無いのだぞ?これでは辺境の民の幸せの為に少年に犠牲を強いているだけだ、少年の幸せなど何処にも無いでは無いか?」
「いえ、だからその少年自身が「仕事無いのー?安くしとくよー?マジで。」とちょくちょく営業に来ていますが?」
この辺境を生まれ変わらせるだけの計画書を書き上げ、更には農業の指導書や薬草学の本まで大量に届けてくれたのだ、それでも進捗度が気に為っているのだろう。一体その身にどれ程の激務を背負い込ませようと云うのか?それでも他に方法は無いのだ、何も出来ぬのだ。
「メロトーサム様。ギルドから使いの者が参りました、お通しして宜しいでしょうか?」
「通せ。」
冒険者ギルドからの使いは受付嬢だった、そしてその内容は恐ろしい物だった。
「オシム様。新たに二つの迷宮が死んだそうです、明日からギルドで確認作業に入ります。ただその迷宮にいた迷宮王が問題なようです。」
大問題だろう。殺せない魔物がいたのだ、「サンド・ジャイアント」殺せず無限に砂の兵士を作る魔物。
「解決済みですが、「殺せないから壊した?みたいな?でも普通殺せないから気を付けてね?」と言う事です。殺せない事は間違いない様です、通訳の方に確認を取りました。」
あの少年だけが壊せたそうだ。他の誰にも今の所は殺し方が分からない、またたった一人の少年に危険を背負わせたのだ。もうその背にはどれだけの重荷が積み上げられているか分からない程なのに。
だが少年を良く知る受付嬢は平然と言い切るのだ。
「あの少年が仕事が欲しいと言うなら本当に欲しいのです。ただ単にお金が無いのです、有ってもすぐ無くします。だから働かせれば良いんです。」
何故お金が無いなどと言う事が有り得るのだろう?迷宮王を倒せたならば、迷宮を一つ殺したならばそれだけで莫大な財産になっているだろうに?
ましてや中層クラスの迷宮を連日倒している、そもそもがあの大迷宮を殺したなら国が買える程の秘宝を手にしているだろうに?
少年はばら蒔く様にお金と商品を街に齎していると言うのに本人に何も残っていないのか?全てが街に流れているのか?
今オムイの街は変貌したと言っても良いだろう。
街中に笑顔が溢れている。
もうその姿自体が豊かさを象徴している。
特に女性など王都でも見かけない程の上質な服を着ているのを見かけるのだ。
その出所はあの少年が出資し大きくした雑貨屋だった。貧しい村々から特産品を全て買い上げ豊かにし、安価に見た事も無い様な多彩な商品を提供するこの街の、辺境の心臓にまでなった商会。売れなかった物を買い取り、買えなかったものを安価に売る、そしてすべてを豊かにしていく奇跡のような商会。
「あの全てを齎した少年はあの莫大な富を注ぎ込み辺境全体を豊かにしたと言うのに、自らは貧しいままに暮らしている等許されざる行ないだ。」
「勘違いなさらないで下さい。莫大なお金を毎日受け取っても毎日莫大に使うから無いだけです、朝にいくら膨大なお金を渡しても夜迄にはきっちり貧乏です。使い切れない程の富でも直ぐ使い果たします。気にしたら負けなんだそうです、通訳の方々が断言されていました。」
貧しい辺境と言えども広大な土地には数々の町や村がある、そのすべてに資金と物資を提供しようとすれば途方もない金額になるだろう。
「まさかたった一人の資産で辺境全てを賄おうとでも言うのか?だが実際に辺境中で資金と物資が流通し、物流が出来上がりつつある。少年に渡された指示書に有った「経済活動の活性化」と言うものが起こっていると報告もあったが?それを一人で?」
「文官達からも仕組み自体は理解できるがどういう物なのかが理解できないと在りましたので聞いてみたのですが「物が売れて、お金が手に入ったから物が買えるんだよ?売らない事には買えないんだよ、だから作っても誰も買えなくなって貧しくなるんだよ。買ったり売ったりで豊かになるって事だと思っとけば良いよ。」と言われまして多分それなのでは無いだろうかと?」
あの少年は物が売れないと貧しくなるから皆買ってしまったのか?そして民が買える物を作り販売しているのか?たった30人しかいない少年少女がその全てをこなし辺境全土を生まれ変わらせ豊かにしているのか?だから自分たちの資金が枯渇したまま暮らしているのか?
ならばどれ程税収から礼金を送っても足りなどしないだろう、辺境の富の一部を集めた税収など辺境全土に満ち渡らせる膨大な金額に対すれば微々たるものなのだ。
何という事だろう。未だに何一つ報われてなどいないままに、重責だけを背負い続けているのだ。そして日を追う毎に増え続けている、恩を返そうとすればさらに莫大な恩を受け莫大な恩に報いようとすれば更に膨大な恩を渡されている。
「きっとまた盛大に勘違い為されていると思いますが、あの少年はただ楽しく幸せに暮らしたいだけですよ?ただ周りが不幸せだったり貧しいと自分が困るから幸せに豊かにしてしまっているだけです、それで街が豊かになったのです。そして街が幸せでも辺境が不幸ならやはり幸せにならないから辺境まで幸せにしてしまっているだけです。あの少年に意味など在りません、「邪魔だから不幸や貧しさや災厄を殺して回っているだけ」なのだそうですよ?世の中の不幸や貧しさや災厄を殺して回られると大体幸せになるんです、そこに何の意味もありません。考えても無駄なんですよ?あの少年は。」
そう言って帰って行った。
何の意味も無く辺境全土を幸せに出来る物なのだろうか?自分が困るからと言って街や辺境全土を幸せに豊かに出来る物なのだろうか?だが例え本当に意味など無いのだとしてもこの辺境に齎された幸せは意味あるものだ、意味も価値もそしてその恩も有り過ぎるのだ。
例え意味など無く報われる事も望んでいなくてもこの辺境の領主として無駄な頭など何度でも下げよう。とうに頼む言葉が無くても掛けられる言葉など感謝以外の何も無いのだから。