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生産流通計画に合わせて区画整理と治水工事を先にやれたら結構簡単なんだよ。

49日目  夜 オムイの領館



 「と言う事で報告終わります。其れと此れが遥さんからの提案書です、此方が商業、流通の経済関連。下は主に近隣の農業政策と改築案、後お手元の資料が辺境全般の整備案で、一番下は街の改築の提案になります。以上です。」


 そして女の子は「失礼します。」と言葉を残し出て行ってしまった。


 手元には膨大な資料の山。その周りも資料の山。


 どれもが軽く目を通しただけで画期的な提案だらけだ、最初に説明された辺境の防衛計画の時点で空前絶後の提案だった。


 辺境を遮る険しい岩山を逆にオムイの城壁として城壁都市を建設し王国との流通を制御する。既に山脈の城壁化と城門に当たる管理迷宮は建設済み、その出入り口に防衛と流通用の都市を造り、現オムイの街も魔物の森に対する防衛都市に特化させ最終的には南北の二つの防衛都市と東西の農業地区の中心に新オムイの街を建設し有事の際は東西南北に駆けつけられる駐屯地と辺境の物流を担う都市にし、その為の交通整備案までが事細かく整備順の計画書として提案されている。


 隣りの領のナローギとの話を聞くつもりが対王国まで視野に入れられているであろう防衛整備計画を聞かされてしまった。


 しかも辺境を巨大な一つの街、一つの城と捉えた革新的発想であり既に王国側の城壁と城門は完成している。


 そしてその巨大公共工事すら格安で引き受けると料金表まで付いている、物々交換も有りの良心的な価格だ。


 既に各分野の文官達は提案書を奪い合い魘される様に互いに読み上げては顔を見合わせ当惑する、だが皆の目には燃え上がる様な熱がある。


 まるで憑りつかれたかの様に読み直しては他の提案書と突き合わせて確認する、その顔には隠しきれない興奮がありありと見える。


 そう、これは夢だ。


 夢にまで見た平和で豊かな辺境が夢見る事も無かった様な夢だ。


 有り得ない程の幸福な夢を現実に実現させるための手順書だ。


 信じる事も恐ろしくなる程の夢の様な未来の辺境の設計書だ。


 信じられずにいくら疑い確認しても確実な迄の夢の設計図なのだ。


 皆が涙を流しながら提案書に没頭する、その中にある夢の世界を覗こうかとする様に。


 引き攣った笑い顔からは我が子や孫達が幸せに暮らす未来まで読み取ってしまったのだろう。


 夢の本だ。


 この本を読んだ者は皆が夢の中に引き摺り込まれるのだ。


 見果てぬ夢のその先までが書き記されたその本に溺れる。


 実現不可能な夢物語の実現の為の手引書なのだ。


 現実に有り得ない現実を造る為の設計書なのだ。


 皆が未来の幸せそうな領民を、子孫を思い涙しているのだ。


 これは夢の提案書などでは無い。


 夢を無理矢理にでも現実にさせる為に其れ以外の要素を全て蹂躙する為の戦略書だ。


 夢が叶う事を夢見るのではない、実現出来ない全可能性を殲滅させる為の戦術書だ。


 幸せな夢以外の全てを認めない暴虐な立案書だ。


 「お前達。是程迄に与えられ、更に是程迄の物を見せられ、出来ぬと云う者は名乗り出ろ!遣らぬと云う者は名乗り出ろ!」


 皆が涙を溢れさせながら私を睨みつける。


 良い気構えだ。


 良い覚悟だ。


 是程迄に心満たされる、遣り甲斐の在る、命や人生等幾ら賭けても惜しくも無い仕事が一体何処に在ると云うのか?


 「では各自始められる事を始め、出来る事を遣り、進捗度と問題点は報告を挙げよ。居る物は物資でも人手でも直ぐに要求を上げよ。」


 皆が先を争い持ち場に戻る、戦場の様な気迫だ。


 否、文官達の戦場なのだ。


 今迄は文官達に負け戦の処理に追われる様な仕事しか与えられなかった我が領で、文官達に与えられた初めての決戦場なのだ。


 武官達も防衛計画に感心しつつ、添えられた兵法、戦術の書に魅入られていた。


 どれ程の知恵と知識と技術を持っているのだろう?


 あの少年は何なのだろう?


 あの少年少女達は何なのだろう?


 貧しい辺境の見る夢なのだろうか?


 悲惨な辺境の見た幻なのだろうか?


 この辺境は神等信じない。

 

 奴等教会等許す事は無い。


 何も信じられない辺境に、夢見る事すら許されない辺境に、あの少年少女達は何をしにやって来たのだろう?何故に此処までしてくれるのだろう?何も報いる財も権力も無い私に、辺境の民に。


 遠くない将来に滅びる事が定められていた辺境の地と民に。


 幸せをばら蒔き続けるかのような少年少女達。


 魔物と言う名の不幸を薙ぎ払い続ける少年少女達。


 何処から来たのかも知れず。


 何をしに来たのかも告げず。


 何をするかも分からないまま。


 ただ当たり前の様に皆に幸せをばら蒔き続ける少年少女達。


 

 崇拝しても事足りぬ恩を受け続け、只々感謝以外の何を以ても報いる事の適わない恩人達。


 そしてその中心に居るこの辺境の名も知らぬままに幸せをばら蒔き続ける少年。


 何故に名前を憶えてくれないのだろう?看板も増やしたのに?


 夢の様な立案書には辺境のムリ何とかって言う街と書かれている、、、。


 遥君、オムイだよ?オムイなんだよ。


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[一言] お無為?
2021/09/05 16:57 退会済み
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