どうやら一緒に召喚されてきた同級生かと思てたら人違いだった。
49日目 朝 宿屋 白い変人
「本日の目玉商品だよ~!魔力バッテリーのブレスレット販売開始しました~?早い者勝ちだよー?限定60っ個限りの数量限定品だよ~?争え~?もっと争え~、みたいな~?」
朝一番から壮絶な女子達の狂乱絵巻が繰り広げられてます、その鬼気迫る気迫が有れば迷宮殺せてると思うんだけど?あとポロリは無いそうです。
普段は前衛職に押されている後衛職の女子達も今回は気合が違う、だって効果不明のパワーストーンならぬ効果確実の魔力ストーンだ、魔石だし。
タイプは2種類、大き目の魔石を数珠繋ぎにしたパワーストーンブレスレット型は大容量の瞬発力に優れ一回の戦闘になら大活躍するだろう前衛向きかな?だがお勧めなのは細い5連のラップブレスレットが性能が良かった、一発の大容量より溜めた魔力が目減りしない高効率が良いんだよ、実用性的には。デザインはパクリだが異世界ならルーさんにも気付かれないだろう、バレたら謝ろう。だが未だ神道夢想流杖術の異世界支店からもお怒りのお手紙は届いていない、偽迷宮で封鎖したからまだ当分大丈夫だろう。ルーさんの異世界支店も当分気付かない筈だ。
「取っちゃ駄目!それ私が買うの!駄目だよー、私んだよー。運命の出会いなんだよー?あ、これも私の。」
「後衛に譲ってよ!あんた前衛なんだから!しかも同じパーティーじゃん!後衛の火力アップに協力しようよっ!」
「前衛だって魔力いるのよ、でもこのデザインはこれしか無いんだから私のなんだよ!これが前から欲しかったの!バッタ物だけど、、、。」
「数量限定がいけないんだよ?足りないよ?私の分が2個しか無いよ?もっと沢山作ってよー!指輪も増産してー!」
俺、まだ働かされるの?って言うかブレスレットって一人2個も有ったら普通余るよね?腕何本あるんだよ?あと指輪の増産分も何で全部売り切れてるの?しばらくは状態異常の心配は無くなったはずだよ?誰も来てはならぬって偽迷宮にも書いといたよ?入口にもこの門を潜るもの一切の夢と希望と友情を捨てよって注意書きしといたから大丈夫なんだよ?あの偽迷宮って服とか溶けちゃうから男女の友情は危なそうだよ?マジで。
「遥く~ん!紫は無いのっ、紫と赤のコンビで5連の奴!あったら取って、無いなら作って!全くもう!」
何故に女子は全員ツケ払いなのに強気なんだろう?品薄の買掛で買い手市場なの?好感度が無いからなの?好感度が無いと市場原理すら無視されるらしい。だって紫と赤のコンビが無いだけで怒られてるよ?紫と赤と青のトリオじゃ駄目だったの?青さんが可哀想だよ?俺も可哀想なんだよ?割とマジで。
結局60個完売の上に特注の注文が20個来たよ?おかしくない?数字がおかしいよ?だってオタ達も莫迦達も買えてないんだよ?壁際で真っ白に燃え尽きちゃってるよ?まあ良いけど。しかも前回の要望を受けて増産した状態異常耐性の指輪が50個完売って何個いるの?どんだけ状態異常掛けられる気満々なの?
儲かったのだから良いのだろうが現金は僅かだったよ?俺ずっと働いているのに貧しいんだよ?超ハードワーキングプアなにーとだよ?デスマーチから始まらないでずっとデスマーチなまま進行中なんだけど?この異世界には救いは無いらしいよ。
さてダンジョンに行こう。最近ダンジョンの中が一番ゆったりできる様な気がするのは何でなんだろう?静けさと安らぎを求めてダンジョンに住み着いちゃおうかと思い始めたんだけどどうしよう?だが未だ納得いく間取りや環境の整った優良物件なダンジョンは見つかっていないんだよ。今日潜る予定のダンジョンは最悪と言って良い物件だろう、だって魔物が全部昆虫系らしいよ?虫だらけの我が家なんて絶対に嫌だよ!
雑貨屋さんに納品に行き、茸の炊き込みご飯を3食渡してからお姉さんの頭にハリセンをかましておいたよ。超忙しいのに炊き込みご飯を炊いてハリセンまで作る羽目になったんだよ?まったく。あとは売ったり買ったり交換したりを済ませて迷宮に向かう。
嗚呼憂鬱だ、魔物は昆虫、味方は莫迦。鬱だ、殺ろう。甲冑委員長さんも貸し出し中で野郎ばっかり。
「だって女子が虫が嫌って押し付けられたんだよ!逃げ回る虫に近接戦で追いかけて戦ってたら時間かかるよ!虫って飛ぶし数多いのに!」
うん、相性最悪だ。遠距離ほぼ無しの近接剣戟戦専門の頭莫迦だから、しかも対人戦と大型の魔物あと獣系には強い。逆に虫、霊、逃げ回るタイプの魔法系には弱いって言うか相性が悪くて時間が掛かる、しかも学習しないから毎回虫と追っかけっこを始めるのだ。逃げる分虫の方が賢いみたいだ。
取り敢えず39階層からだ、「パラライズ・モス Lv39」麻痺系の攻撃の蛾だ。状態異常耐性の指輪は売りつけて有る、なのに手間取ってるのは飛んで逃げるからだそうだ、、、。なのに今日も普通に剣と槍を装備してきている、、、。
「きっと小学生だって虫取り網とか用意するよ?何で剣で苦労したってまた剣持ってくるの?なんで蛾よりも頭が弱いの?どうして道具を使うとか魔法を覚えてこようとか考えつかないの?」
「「「おお~!そんな裏技が!」」」
もう嫌だよー、まじ馬鹿なんだよー?虫捕まえるのに虫取り網の何処が裏技何だよ!5人全員がおお~!って感嘆詞までつけてたよ?マジで考えてなかったんだよ?考え付かないんじゃなくて何も考えなかったんだよ?こいつ等って。
雑貨屋のお姉さんお勧めの怪しい草を燻す、虫にはコレ!っていう位のおすすめ品らしい。買い占めて大量発注もかけて置いた。
そしてバタバタと落ちていく「パラライズ・モス」達、迷宮の魔物が雑貨屋さんで売ってる殺虫草で即死すんなよ!それって只の虫じゃん?もしかしてこの迷宮って一階からじっくりと燻したら1日で攻略済んだんじゃないの?
そして「すげー!斬新なアイデアだー!」って言ってる莫迦達。もう嫌だ、お前ら殺虫剤見た事無かったの?大迷宮で燻してた話も聞いてたよね?どうして現代人が剣持って虫を追いかけるんだよ?寧ろこっちが吃驚してるよ。きっと原始人だったご先祖様でもお前らよりは賢かった筈だよ?何処まで先祖返りしたら其処まで莫迦なの?考えても解らないのは仕方ないが考えないってこいつ等知的生命体ですら無いんだよ?この莫迦達は何なの?何ていう生き物なの?燻して良い?
「いや上空10メートルを飛ぶ巨大な蛾を壁を駆け昇り斬り落として廻ってたんだよ?」
「超高速で無軌道に瞬間移動する巨大な蠅を逃げ場の無い程の斬撃を飛ばして切り刻んでたよ?」
「巨大な甲虫を連撃に次ぐ連撃で圧倒して捻じ伏せ穿ち尽くして戦ってきたんだよ?」
あれ?ファンタジーの王道の様な気もするけど?あれ?正しいのか?いや違う!言い方が格好いいだけだ!
あー、危なかったよ危うく言葉のトリックに騙されそうになったよ。物は言いようだよ。
要は蛾を壁まで走って追い掛け回して、蠅が避けるから狂った様に剣を当たるまで降り回して、甲虫が固いから矢鱈目ったら死ぬまで突き刺し捲くったと?発想が完全に野蛮人だよ、何も考えてないんだよ。
「あれ?お前ら本当に現代にいたんだっけ?てっきり同級生だと思っていたけど知らない人だったかも?」
「「「いたよ!同じクラスだったよ!知らない人じゃ無いから!」」」
残念な事に現代人らしい。きっとこの話を元の世界の現代の人達が聞いたら嘆き悲しむだろう、あれが自分達と同類なのかと。うん、俺も悲しいよ?マジで。
延々と莫迦達を莫迦にしながらも殺虫草を燻して風魔法で煙を送り続ける。あれ?なんかこっちが邪道みたいな気がしてきたよ?魔訶不思議だ?
「よし、下りよう。死んでなかったらまた燻せばいいし?水流し込めば溺れるかも知れないし?まあ下りてみてから考えよう。」
「俺達の今迄の苦労って何だったんだろうなー?あの虫たちの大軍との戦いって?」
「俺、蟷螂と切り結んで剣戟の嵐の様な死闘を繰り広げてたのに?」
「あの突進して跳んで来る槍飛蝗の群れも大変だったよなー?」
「粘液吐いて来る芋虫だって粘液を避けながら迷宮の中を駆け回って倒したのに?」
「「「燻したら終わりだったんだ?あの激闘の数々って?」」」
いや、現代人が巨大昆虫を相手に剣を持って戦う?普通?
殺虫剤って中世位でもう出てくるはずだよ?石灰とか古代じゃなかった?除虫菊粉だって相当昔からだった筈だよ?お前等は何世紀から召喚されてきたの?ジュラ紀?
こいつ等は本当に現代社会で生活していたのだろうか?逆にオタ達は現代社会に毒されきっているし?まったく普通なのは俺だけだよ?嘆かわしい。