限られた空間では売り場面積と展示空間は鬩ぎ合うんだよ。
45日目 朝 雑貨屋
朝から造りかけの雑貨屋ビルの外装の仕上げを済ませ、内装と商品の陳列をしておこうと思って中に入ると目に隈を造ったお姉さんがゆらゆらとふらつきながら働いている?
「おはよう? 的な朝が来た? 様な感じ? みたいな熊?」
「誰が熊よ! おはよう、誰かさんのせいで徹夜なのよ、徹夜で働いても商品が並べ終わらないのよ。終わる目途もたたないのよ、もうじき開店時間なのに全然終わらないー」
「うん。まだ棚も作ってないし、テーブルも無いんだから無理だよ? 今から作るんだから並べても意味無いよ? どけちゃうし?」
あっ、落ち込んでる、かなり深い所まで落ち込んでる、落ち込んでも地下は一階までしか作って無いよ? あんまり下まで落ちると迷宮皇とか出て来るよ? マジで。俺経験者だし、今横にいるよ?
可哀想なんでウォールラックをどんどん作り、甲冑委員長が高速で商品を片付けながら並べていく。流石に元とは言え迷宮皇だ、手が残像で10本に見えるよ、凄まじい陳列速度だっ! こ、これが最下層の迷宮主の実力なのかーっ! あたたたたっとか遊んでいるとお姉さんがやっと復活した、なんとか這い上がってきたようだ。
一応大まかに片付いたし、店内のレイアウトなんかは店長さんに相談しながらやった方が良いだろう。
「壁とかもさー下手にあんまり高級感は出したくないんだよねー、雑貨屋なのに入りにくくなっちゃうし?でも明るめにはしたいから窓穴を増やしても良いんだけどさ~? 日光って結構物を痛めるし、色あせの原因でもあるんだし?内装を白くした方が無難ちゃ無難なんだよっ?実際の話。棚だって多い方が商品も並べられるんだけどさー、無駄な空間こそがオシャレ感を出すと思うんだよねー?やっぱ、購買意欲を煽る事考えれば雰囲気作りも重要だよねー、あっ、安い小物はカウンターの傍に置いとくと思わず買っちゃったりするから奥よりカウンター周りの方が良いよ。うん、やっぱ服アクセサリー用にあっちの壁面は広々と使おう、その分こっちにぎっちりと棚を作って商品の豊富さをアピールみたいな? もっと食器とかも仕入れようよ?調理器具も? 衣食住は手堅い商売なんだし、買い替え需要だって高いんだからさー。あっ、ガラス製品も目玉で欲しいよね、高くてもいつか欲しいって思わせるだけで他が値頃に見えて来るんだよ、うん、値段の幅は必要だよ。それでさー……」
「うるさああああああああああああああい! もう嫌ああああ!! 眠たいのよ? 徹夜なのよ? それでも並べきれないのよ? 広すぎるのよ! 何でこんな豪華なの? どこの大商店なの? 王都でもこんな店なかったわよ? 何なのこの建物? なんかもう昨日から街中の人が見に来るのよ? ここ只の雑貨屋よ? みんな雑貨屋に何を求めてるの? 特に君は何をしでかそうとしているの? 雑貨屋って何かわかってる? 言ってる端からどうして次々にテーブルや棚が出来て行くの? 何で計ったみたいに寸法ぴったしなの? どうして私のお店なのに誰も私の話聞いてくれずにテキパキと商品並べてるの? って、2階もやるの?やっちゃうの? 大型商品? ベッドとか? ソファー? 置くの? 雑貨屋に? 雑貨屋なのに? しかも作って来ちゃってるの!? なにこの見た事も無いテーブル?椅子も? そんなに安く売って良いの? えっ、自分で作ったからただって、家具職人だったの?でも建物建ててたよねー? あれ迷宮入ってたんだよねー、無職ってなに!寧ろあらゆる職に手を出してるよねー! 料理もしてたし、薬も造ってたし。なんで自給自足でこのレベルなの!!」
あ~、煩い。雑貨屋のお姉さんがオコだよ、まじオコだよ、睡眠不足でお肌の曲がり角が垂直降下したのだろう、お姉さんと言うにはそろそろ……いえ、何でもありません。さあがんばるぞー。
そんなこんなで開店時間までに店内をガンガンに作り上げ、商品も片っ端から全て並べ終えて、商品が足りない空いた所には自作家具や、自作薬品や、自作調理器具や、自作ミッドセンチュリー風なオブジェを並べて誤魔化した。勿論趣味も入ってる。うん、お洒落なショップみたいだ、もう良いだろう、さあ帰ろう。
「じゃー、お疲れでしたー? 営業頑張ってね~、外に滅茶人並んでるし? 行列のできる雑貨店? みたいな? それじゃ~」
お姉さんは遠くを見るような目で手を振っていた。もう諦めて悟ってしまったのだろう、開店した瞬間どうなるかを。あの長い長い行列を見て。
さて、ダンジョンに行こう。
って言うか今日は助っ人だ、助け人だ、手分けして攻略中のダンジョンの中で一個だけ進んでないのが有るんだよ。俺なんか実質一日だったのに、もっとまじめに真剣に取り組めよ、俺は今まで迷宮は2か所入ったけどどっちも初日に迷宮死んじゃったよ?何で進んでないの?迷宮王を先に殺るのがコツなんだよ。多分?
「って訳で助っ人に来ましたー? みんな仲良くしてあげるように? 的な? って言うかまだ攻略して無いの? みたいな?」
「「「普通ダンジョンって一日で死なないの! 普通に考えればそこまで遅れては無いから!」」」
委員長と副委員長達がハモってる、一人だけ仲間外れ? あ~、この娘は盾持ちのいつも吹っ飛ばされてる娘だ。
「委員会達だけハモって楯っ娘だけハブだよ? 苛められてるの? 委員じゃ無いからなの? 楯委員長とか目指せばよくない?」
「「「苛めてないよ! あとミワちゃんって楯っ娘だったの! いつ名付けてたの! あと委員会達って何?」」」
「私、楯っ娘だったんですか!? 楯委員長を目指さないと駄目ですか?」
楯委員長を目指すらしい、甲冑委員長とも仲良くなれそうだ。でも甲冑委員長は甲冑が全く役に立って無いんだけどね? 掠りもして無いよ、寧ろ一方的に攻撃してるから甲冑いらなくない? このままだと次期甲冑委員長選挙では落選してしまいそうだ。仲良くなれないかもしれないようだ。
「「「遥君の話を真面目に聞いたら駄目だからね、悪魔の誘いより質悪いから、悪魔とか皆殺しにしてるくらいの悪だからね!」」」
「酷い言われ様だよ? 苛めなの? デモン倒すのって普通褒められないの? 悪魔皆殺しで悪魔より質悪いって泣いちゃうよ? 俺?」
「泣くのはデモンの方だから。倒し方に悪魔よりあくどさを感じるの、遥君の場合は。それで悪魔が可哀想に見えちゃうの」
何か問題があっただろうか? デモン・ブレイド達の剣はバーゲンセールに出したら自分も買い漁ってたよねー?今も持ってるよねー? 網で捕らえて串刺しにしたけど大漁だったんだよ? 買い漁ってたんだから同罪だよ、漁仲間だよ? 俺悪くないよ?
「だって3日目だよ?まだ9層って遅くない? Lv90クラスのパーティーでさー? しかも自分たちがサボっていたのを棚上げだよ、アゲアゲだよ、踊ってたの? 迷宮で? アゲアゲで? 危ないよ?」
「「「踊ってないし、サボって無いから! 面倒なのこの迷宮が。何で迷宮でアゲアゲで踊っちゃうの? 迷宮でアゲアゲで踊ってたら危ないって言うより危ない人だから、その人!」」」
「この迷宮は固いゴーレムばっかり出て来るんです。殴り飛ばされちゃうんです。ぴゅーって。」
楯っ娘はここでも飛ばされていたらしい、森ではオークによく飛ばされていた。楯職なのに細いんだよ線が、背はそこそこあるんだけどパワータイプには見えないんだよ?何故タンク役なのだろう?でもこの娘は「カウンター・シールド 一定のダメージを受けると魔法、衝撃を打ち返す。DeF 20%アップ」と「アーマード・プレート DeF強化(大)魔法耐性(中)オートヒール」を買ってくれた上得意さんなのだ、良い楯っ娘だ。高額落札者様だ。
「ほら? ゴーレムって? ゴーレムは落とすと壊れるよ? 確か。大体落ちたら壊れて死んでたよ? 多分?」
「世界中で遥君以外に迷宮に穴開ける人なんていないの! 普通の人は開けないし普通開かないの! あとここは未だ迷宮が生きてるから穴は開けれないよ?」
うん迷宮が生きているときは無理らしい。今まで先に迷宮殺してたから簡単だったけど迷宮王を殺さないと迷宮は壊せないんだそうだ。大迷宮は改装できたんだけど穴は無理だったのだろう、開けたら迷宮皇さんに怒られたのだろうか?まあ毎朝怒られてるけど?
取り敢えず10階層に向かうと本当にゴーレムだよ、「ストーン・ゴーレム Lv10」みんなでボコってる。でもなかなか砕けない、おっ、後衛の大賢者、副委員長Bさんが殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴り続ける! 大賢者なのにあまり賢くなさそうだ、魔法はどうしたの? そして殴る度に揺れる! 揺れて! 揺れて! 揺れる! 揺れ続ける! 大賢者なのに大きいそうだ……って、何も見てないよ? 何も言って無いよ? 敵はゴーレムだよ? 俺は味方なんだよ? 味方の味方は敵なのだろうか? 滅茶睨まれてるんだよ? 助っ人なのに?
副委員長Bさんの杖は長杖で先端に金属の大きな塊が付いている。珍しい形だ、こんな杖は初めて見たよ。こんな形のハンマーならよく見かけるんだけど? でも杖だと本人が胸を張って言い切っている。張り切っている、おおき……「ゲフン、ゲフン」、杖らしい。殴ってたけど杖なんだそうだ。俺も杖で斬ってるから良いのだろう。取り敢えず怖いから先に進もう、だって絶対ゴーレムの方が怖くないよ?後ろの殺気の方が怖いんだよ、マジで。