とても気持ち良さそうだが何が気持ち良いのか分からないが絶対気持ち良いだろう。
39日目 夜 宿屋 白い変人
街に帰り着く。お店が閉まる前に次々に洋服屋さんを回ってみる。
甲冑委員長さんも生身になったんならずっと甲冑じゃ可哀想だ、女の子なら服にだって興味あるはずだ。甲冑委員長さんはあれやこれやと見て回り悩みながら遠慮がちに選んでは見比べて思案している、でも楽しそうだからドンドン買わせていく。
遠慮してるけど無理矢理容赦なく買わせていく! 何故なら俺の目の保養にもとっても良い、鑑賞すると思わず拝んでしまいそうな神々しさだが本来芸術作品とは鑑賞されるべきものなのだ! ガン見します。絶対だ! 色々と見て回ったがエロい服は無いみたいなのが残念だ、とても残念だ。有ったら有ったで男子高校生的に大変な事になるんだけど残念だ。
甲冑委員長さんは嬉しそうに洋服の山を抱えて歩いている、ちゃんと前は見えているんだろうか? アイテム袋に入れようとしても半分持とうとしても首をいやいやと振る。買い物が楽しくて持って帰るのも楽しいのかも知れないから好きにさせよう、だってこんなに嬉しそうなんだから。ずっとこんな事すら出来ずにいた、だから楽しい事や嬉しい事が山程あって良い筈だ。つまり山程買ってあげても問題何て無い筈だ。
街中の服屋を回ってやっと宿に帰り着く。まだ宿の名前はそのままの様だ。
「ただいまー? 洞窟と森の掃除してて遅くなっちゃったよ? 大分長い間ほったらかしだったから綺麗にしてきたよ、さっぱり、すっきりだよ? みたいな?」
なぜか40のジト目でお出迎えだ? なんか雰囲気がおかしい? なんか絡みつく様なジト目達だ。よし、炒飯だ! 炒飯が遂に発動されるのだ、炒飯の命令は此処に下されたのだ! 炒飯によるジト目迎撃作戦だ。
「「「「おかえりー、そうなんだー? すっきりなんだー?」」」」
「本当だねーっ? 遥君の顔もすっきりだねーっ?」
「うん、キレイにしてきたんだねー、色々と?」
「朝帰りでお掃除だから、大変だったねー? しかももう夜だし」
「随分と頑張ってさっぱりとすっきりしてきたんだねー? 遅くまで」
「「「あーだのこーだの! ……(以下長文)」」」
いそいそと鉄鍋を振る。火力は火魔法だけで充分だ、卵だけが貴重で数がギリギリだが具はたっぷりでお米もパラパラ、やはり長米種は炒飯に最適なお米のようだ、なによりこの世界にごま油があった事が最大の決め手だろう、既にお醤油は持っているのだ。でも白胡椒はなかったので黒胡椒だったりするが美味しい筈だ、海苔があったら海苔炒飯にしたかったが仕方あるまい。6個の大鍋を振り、寸胴鍋ではスープが出来て行く、油の中では唐揚げさんがじゅうじゅうと揚げられている、準備は万端だ。この世界に、この異世界に炒飯定食が降臨するのだー!
大鍋に醤油をたらして軽く焦がしながら鍋を振るうと焼けたお醤油の香りが食堂いっぱいに広がっていく、何か言いたげにぶつぶつ喋っていた女子達も無言になり固唾を飲み宙を舞う炒飯を凝視している。
「炒飯出来たよー。お皿を持って取りにおいでー? 謎の鳥の鳥唐揚げもあるよー? スープ付きだよー? 炒飯定食だよー? まあ、また茸入りなんだけど」
お皿を持った欠食児童たちが列を成す、零れんばかりに炒飯を盛ると笑顔が零れる。女子達はキャーキャーと騒ぎながら席に着くや否や頬張り始める、莫迦達は巨大な大皿を持ってきたのでお玉で撲殺して、炒飯大盛りで唐揚げ増量にしてやると席に着くのも待ちきれずに唐揚げを摘まみながら走り去って行く。やはり男子は唐揚げ炒飯定食は鉄板の様だ。みんなに行き渡った様なので甲冑委員長も手招きして炒飯定食を持たせる、食べなくても良いのだそうだが食べれるんなら美味しい物を食べなきゃ損だ、味わえるならそれは幸せな事だ、たっぷり大盛りで渡しておいた。よし、炒飯定食。やっと異世界で炒飯定食だ。
「「「「美味しいいいい!!」」」
美味しかったようだ。材料的にも調味料的にも不満だらけなんだよ本当は、ただやっぱり懐かしいんだよ、みんな。たった1ヶ月ちょっとだけどもう凄く懐かしいのだろう、世界がとか異世界がとかそんなんじゃ無くて当たり前の日常と生活が。俺も本屋さんが恋しいんだけど見つかる気がしないんだよ? 召喚しちゃうよ?
甲冑委員長さんは甲冑だと食事しにくいので着替えてくるみたいだ、フェイスガードからではやはり食べにくいんだろう、兜の部分だけ外せば良さそうなんだけど多分新しい服を来てみたくてしょうがないのだろう、要は待ちきれなかったのだ。持ちきれないくらい買ったんだし着てみたくて待ちきれなかった、どうやら街に戻っても貢がなければなら無いらしい?
みんなわいわいモグモグと食事していると、ようやく御着替えが終わり甲冑無しの甲冑委員長さんが食堂に降りて来た。
甲冑を脱ぎ普通の街人の格好で食堂に入って来たんだけどやっぱり空気が固まってしまった、硬直です。もう誰もご飯なんか見ていなかった、炒飯だよ? 美味しいんだよ?
ただの長めのチェニックって言うかチュニックワンピみたいな感じに踝丈のルーズパンツを合わせただけのごく普通の服。着こなしこそお洒落さんだがそんなに高価でも珍しい服でも無いただの服。
普通の変哲も無いただの服なのに抜群のスタイルで颯爽と着こなしてしまい、まるでファッションモデルの様だ! モデルさんにして通販したら儲かりそうだ! ただ着ただけでファッションリーダーだった、ただの普通の簡素な服がまるでカジュアルなお洒落風に見えるのだからモデル力が高過ぎだった。
ルーズなチュニックがゆったりとボディーラインに沿ってスタイルを際立たせている。普通なら野暮ったくなりがちなルーズパンツでさえその驚異的脚の長さでお洒落でセクシーに見えるのだからズルい! しかも顔はもっと凄いです、至近距離で見てしまった初見の看板娘は息をするのを忘れてしまい周りの娘達にレスキューされている、深呼吸をさせられてるけど目は未だ離せない様だ。目の毒を超えて凶器になりそうな美しさ、男子たちは空気と一緒に固まったままだが固まったまま放置されている、別に息してなくても良いだろう、どうせ空気を読まないんだから空気を吸わなくても大丈夫だ。って言うか見るな、減る!
女子達は一緒にお風呂に入って知ってるはずなのに魅入られる様に見惚れている様だ? でも服着てないときの方が凄まじかったと思うんだけど? うん、凄まじかったんだよ。マジで。
甲冑無しの甲冑委員長さんはこっちに来て一緒に食べるみたいだ、前の席に来て腰掛て食べ始めた。異世界人的に炒飯ってどうなんだろうと思ったが美味しそうにウンウンしながら食べているから合格なのだろう。良かった、良かった、やはり異世界でも炒飯は偉大だったようだ。
「明日は迷宮の掃除にでも行ってみようか? 1階の改築も途中だったし?」
「……?」
首をかしげて困っている。まさか自分がいた迷宮が勝手に改装されていたとは思わないだろう。
多分、最下層に落ちる事無く一階ずつ順番に階層を下りて行っていたならきっと凄い地下邸宅が造られていたのに。
ある意味、究極の迷宮攻略法だろう。乗り込んで乗っ取って住みつきつつ改装して拠点化しながら攻略だ。魔物さんもびっくりだ。まさか自分がずっといた地下100階層が地下大温泉計画されていたなんて思いもしないだろうけど、でも温泉気持ちいいんだよ? 特に一緒に入ると気持ちよさそうだ、とても気持ち良さそうだが何が気持ち良いのかは分からないが絶対気持ち良いだろう! でも造ると俺が迷宮の100階層にひきこもりそうだ、出て来る自信が全く無い! まじでエレベータの開発が必要かもしれない。
まだ宝箱があるかもしれないし、とにかく行ってみよう。