四月 友達になろう計画実行
「さて、今日こそは詩織ちゃんと友達になろう計画を実行するぞー。」
始業式や学力診断テストがあり、なかなか話しかけられなかった私は、昼休みに入ったところでさっそく行動に移した。
「詩織ちゃん!お昼ごはん一緒に食べよっ!」
いきなりの私からの誘いに戸惑っている詩織ちゃん。それもそのはず。まともに話をしたことがない人に、急に話しかけられても反応に困るのは当然だと思う。
「こらこら。詩織ちゃんがいきなりで困ってるだろ。順番に説明しなきゃわからないって。」
それを見かねた楓が助け舟を出してくれる。さすが幼馴染、頼りになる。
「あっ、そうだよね。詩織ちゃん、いきなりでごめんね。私、詩織ちゃんとお友達になりたいんだ。だから、まずはお昼ごはんからご一緒できないかなって思ったわけです。」
「そう…なんですか。本当にいきなりでびっくりしちゃいました。いいですよ。一緒に食べましょう。」
私が説明すると了承してくれた詩織ちゃん。楓も含めて3人で昼食をとることになった。手始めに詩織ちゃんがどこから学校に通っているのか聞いてみることにした。
「私が住んでいるのは駅前のマンションです。学校までは少し距離がありますね。そこで一人暮らしをしています。」
「えっ、詩織ちゃんって一人暮らしなの!?」
「はい。両親がどちらも転勤族でして。私はどうしてもこの桜月高校に通いたかったので、無理を言って一人暮らしをさせてもらっています。」
一人暮らしということにも驚いたが、住んでいる場所にも驚かされた。詩織ちゃんが住んでいるのが駅前のマンションだったからだ。
「駅前ということは、すごく高級感が漂ってるあのマンションだよね。」
楓も驚きを隠しきれなかったようだ。何しろ、駅前にはお金持ちが住んでいるようなイメージだったからだ。まさかこの学校に通う生徒に、あの辺りに住んでいる子がいるとは思わなかった。
「高級感が漂っているかはわかりませんが、おそらく二人が想像しているマンションで間違いはないと思いますよ。」
「詩織ちゃんってもしかして、お金持ちだったりして…?」
「雅。それはちょっと聞くのが早すぎるんじゃないか。」
「あはは。大丈夫ですよ。こういうこと聞かれるのには慣れていますから。そうですねぇ…。私自身にそういう自覚はないんですけど、今までにも何度か同じような質問をされているので、もしかしたらそうなのかもしれません。」
私のいきなりの質問にも嫌な顔をせずに答えてくれる詩織ちゃん。やっぱり彼女は私が思った通りのいい子だ。
「そうなんだぁ。羨ましいなぁ。駅前に住んでいたら色んなところへ遊びに行きやすいもんね。私も駅の近くが良かったなぁ。」
私は自宅から駅まで自転車で十五分ほどのところに住んでいるので、郊外へ遊びに行くとなると少し不便なのだ。
「何言ってるんだ。駅前に住んでるってことは学校までかなり距離があるんだぞ。雅は朝が弱いんだから、あの辺りに住んだりしたら毎日遅刻することになるぞ。」
「うっ…確かにそうかも。毎日朝早く起きなきゃいけないのは、私にはちょっと難しいことだね。」
郊外に遊びに行きやすいのは魅力的ではあるけど、朝が弱い私には今住んでいるところがちょうどいいのかもしれない。
「坂下さんの言う通り、朝は少し早く出ないと遅刻しちゃうので、出来るだけ早くに起きるようにはしています。」
「楓でいいよ。私も詩織って呼ぶからさ。同級生に坂下さんって呼ばれると、なんだかむず痒いんだよね。」
「私も雅って呼んでほしいな!せっかくお友達になったんだから、お互いに名前で呼び合いたいんだ!」
「雅は最初から名前呼びしないように気をつけような。いきなりその距離感で近づいて来られたら、詩織みたいにびっくりする子もいるんだからさ。」
便乗して名前で呼んでもらえるように言ってみたら、楓から注意をされてしまった。確かに、名前で呼ばれてもいいって思っている人ばかりじゃないもんね。反省反省。
「あ、私は気にしていないので大丈夫ですよ。少しびっくりはしましたけど、名前で呼ばれることに抵抗があるわけではないので。それから、二人のことは雅ちゃんと楓ちゃんって呼ばせていただきますね。」
詩織ちゃんに名前で呼んでもらえることが決まったところで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。まだまだ話したいことがたくさんあったのに、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
「あーもう昼休み終わりかぁ。もっと話していたかったのに。」
「仕方ないだろ。これから一年間同じクラスなんだし、そんなに焦らなくても大丈夫だって。」
楓の言うとおりだ。私たちには時間がたっぷりあるんだし、ゆっくり仲良くなっていけばいいよね。そう思ってはいても、頭の中は放課後のことで頭がいっぱいだった私は、午後の授業内容がほとんど頭に入っていなかった。上の空だったので先生に何度か注意されてしまった。気が付いたら放課後になっていたので、私はまた行動に移すことにした。
「詩織ちゃーん!一緒に寄り道して帰らない?」
「ごめんなさい。今日はちょっと予定があるので…。」
「がーん…。午後の授業中にどこへ寄り道しようかずっと考えてたのに、詩織ちゃんにデートのお誘いを断られちゃった…。」
「いやいや授業に集中しろよ。焦らなくて大丈夫だってさっき言っただろ?」
そうは言われても仲良くなりたいっていう気持ちが抑えきれなかったし仕方ないよね。
「せっかく誘ってもらったのにごめんなさい。また誘ってくださいね。」
「ううん、こっちこそ急にお誘いしちゃってごめんね。じゃあ詩織ちゃん、また明日ね!」
「はい、また明日です。」
詩織ちゃんに別れの挨拶をした私は、いつものように楓と帰ることにした。
「寄り道を断られはしたけど、無事に詩織ちゃんと友達になれそうでよかったよ。」
「そうだな。しかし駅前のマンションに住んでいるとは驚いたなぁ。」
詩織ちゃんが住んでいたところが、楓にはすごく衝撃的だったようだ。それにはすごく共感できる。私たちとは違う世界の人たちが住んでいると思っていたからだ。
「明日はもっと詩織ちゃんとお話しできたらいいな。早く明日にならないかなぁ。」
そう思いながら私たちは家路を帰った。