9:貴族階級(仮)
目が覚めると、目の前には木の屋根が。空が見えたり下が砂利道だったりなんていうことはない。恐らく紅大納言を通報した人が運んでくれたのだろう。服は―――――着ていた着物で変わりはない。ここは日当たりが良い。ずぶ濡れだったし、私ごと天日干しされたようだ。おかげが着物はだいたい乾いている。
―ひとまず、生きている。うん、死んじゃいない。
あれだけ死にかけたのは初めてだ。というよりあそこまで心が折れたのは初めてだ。
―なんていうか………いまいちぱっとしなかったなー………。
最後は持ち直したものの、一時的なものだからあれ以上続けていたらどうなっていたかは分からない。結局誰かに助けてもらう形になったわけだし、全体的に見れば負けているような気がする。それが気にくわない。
それより、私を助けてくれたあの人は誰だったのだろうか。出来ればお礼をいいたい。それに紅大納言の始末も気になる。
もうちょっとこのままボケーッとしていてもいいが、やはり気になるので起きよう。
立ち上がって障子を引くと、お爺様とお婆様と―――――さっきの男性がいた。何でいるの……………?
「あ、姫様、起きられたんですね。ご無事で何よりです。」
「あ、さっきは危ない所をありがとうございました。」
とりあえずお礼。でも訳が分からない。
「いえいえ、むしろこちらとしては利用させていただく形になってしまいすいませんでした。」
「え?」
「もともと紅大納言は黒かったですからね………機会を伺っていたんですが、ちょうど良くいざこざがあったので利用させてもらいました。私は、本当はかなりはじめの方から待機していたのですが、絶対的な証拠が欲しかったのと姫がどうするのか気になったもので………………すっかり見物してしまいました。」
………この人結構抜けてるような?気のせいかな?あとなんか引っかかってるんだけどなんだろう…………。あ、あれだ、博樹君にどことなく似ているんだ。
「ああ、名乗るのを忘れていました。私は藤原博定です。」
「藤原って………。」
「はい、あの藤原家です。もっとも、分家の三男なのでとくにすることもなくこうやって気ままに生きている訳ですが。」
いいなぁ。いい感じの家に生まれつつ自由気ままに生きられる、そんな人生は本当に幸せだろうなぁ………………じゃなくって、
「……なんでそんな上流の方がここに居るのでしょうか……………。」
いくら分家でも藤原家は藤原家だ。そうとう位は上のはず。
「私が幼い頃、ここのお爺様とお婆様に面倒をみてもらったのですよ。今もそのつながりでたまに来ています。今回姫が紅大納言に呼び出されたのも、お爺様から聞いたことですし。」
なるほどね。つまり、さっきもいざとなったらこの人が助けてくれたから死ぬ心配なんてはじめからなかったわけだ。なんだか損した気分。
そこにお爺様が口を挟む。
「うむ、まぁつまりはそういうことじゃ。で、博定殿、すまぬが、かぐやに町の案内をしてやってはくれぬか。最近腰があまりよくなくての、ちと年寄りには辛いのじゃ。」
「はい、分かりました。それでは行きましょう!」
そういってすぐに表にでる。
私の意見がまったく聞かれてないんですが。まぁ、ありがたいからいいんだけどね。
藤原博定殿についで私も家を出た。