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~TAKETORI~千三百年の時を越えて  作者: 秋実 怜土
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6籠は変わらず動き続ける

三人でえっちらおっちらと砂金袋を運んでくると、何やら表が騒がしい。先生が休みで自習になったときみたいな感じ?出来るだけ小さい声なんだろうけど、ざわざわしている。このくらいなら隣から先生が怒鳴り込んでくることもなさそうね、って何を考えているのだろう………。

はい、それがただの現実逃避なのは分かってる。竹取物語を読んだことある人なら、この男達がどういった目的で押し掛けてきているのかはすぐにわかるはず。

世界の男、貴なるも、賎しきも、いかでこのかぐや姫を得てしがな、見てしがなと、音に聞きめでて惑ふ。そのあたりの垣にも、家の門にも、をる人だにたはやすく見るまじきものを、夜は安き寝も寝ず、闇の夜に出でて、穴をくじり、かいばみ惑いあへり、と原文ね。


つまりは、どうやってかぐや姫と結婚しようかと押し寄せて夜も安らかに眠れない……みたいなのが現代誤訳。




冗談じゃない!


そんなこと耐えられるか。それが民意だからといって安眠を妨害されるのは避けたい。夜はしっかり寝ないと次の日辛いじゃない!あ、でも次の日ってあるのかしら。…………明日学校……月曜だけれどこのままだといけそうもないし………サボるっていうか……まぁ、ええぃどうしろっていうのよ!

半ギレ状態の私に比べ、お爺様とお婆様はなんだかまったりしている。というかポカーンとしているといったほうが正しいか。

「なんじゃか表が騒がしいのう、ちょっと見てきますわい。砂金の量は、またあとでな。」

そういって、お爺様が外の様子を見に行った。その間に、私とお婆様は砂金袋をさらに家の奥に押し入れる。突然、お婆様が切り出す。

「そうだ、かぐや。その奇妙な着物………なんちゅうのかはわからんが、それじゃ動きにくかろうに。私の古い着物で良ければ、今はそれを使いなさい。新しい着物は、まぁこれだけあればいくらでも作れるでしょう。この金は、かぐやが運んできてくれたものだと思っるから。」

そう言われて、私は自分の服装を見る。忘れていたが、ずっと靴下のまま歩いていたため靴下は泥だらけだ。服も、赤い下地に少し泥がつき始めている。確かに、お世辞にも動きやすいとは言いにくい。この後、外を出歩くにしても、こんな服装じゃかなり目立つだろう。

「えぇ………じゃあ、今はお言葉に甘えることにします。」

お婆様が頷き、箪笥から着物を引っ張り出してくる。

赤を基調としてた花柄の綺麗な着物だ。

「上等とは言い難いがの、昔はよく着たもんだった…………これだけは捨てられずにとっておいたけれど、良かった良かった。」

着物がどれが上等かなんてまったく知らない。普通の服だったら結構わかるのに……。

「…………綺麗ですね。」

ひとまず、感想を述べる。正直、ここがこーだあーだとか知らないし興味もない。それでも綺麗か醜いかぐらいはわかる。

「そうでしょう?それはね、むかしじいさんが買ってきてくれたもんでな、いやぁ若いころのことなんてもう思い出すことは無いと思ってたがねぇ。」

若い頃を思い出す老人のサンプルとして出せそうな具合だ。若い頃を思い出すってのはどんな気持ちなのかしらね。

「ばあさあんやーーーーー!」

突然、お爺様の声が家の中に響く。

「はいはい、じゃ今のうちに着替えときなさい。」

お婆様が呼ばれて部屋を出て行く。その後のことが心配だが、まぁ大丈夫なわけがないけどでも回避できる訳ないしつまりは諦めます。

ひとまず着物に着替える。この時代に下着なんてあるはずもないので、脱いだ服は下着と一緒に部屋の隅に置いておく。変な感じがするが仕方ない。

こんな目に遭うのも全部……………何のせいかしら?

どうなっているのかはわからないけれど、もう殆ど状況を信じかけている。もしこれが作られたものだとしても、ここまで良くできていたらそれは現実と変わらないのかもしれない。

それでも…………やはりどこか現実味がないというか無いのはこれが物語の中だからだろうか。既に、質量を無視した砂金のようにあり得ないことは起きている。今後も、そんなことが続くとしたら………。


信じるしかない。

だから、今はまだこの状態を疑うことにする。ドッキリカメラの可能性を期待する。このあたりでドッキリカメラが出てきたら、確実にカメラマンを病院送りにするだろうけど、そのほうがましだ。ふつうに考えて昔にタイムスリップする、というか物語に入り込むなんて起こるわけがない。

その感覚が無くなったときに―――――。



私は“かぐや姫”になっているだろう。



ドタバタとお婆様が戻ってくる。

「大変だよ、かぐやに会いたいってわんさか街の男が集まってきてだね、大変な混雑ぶりだよ。まったく、通れないよ。」

どうも私に会いに来てることよりも混雑していることの方がお婆様にとっては問題みたいだが、私にとっては始めの方が問題だ。

さてさて、本家では一体その男たちはどうなったか。



哀れにも砕け散ったのです。

ということはとるべき道は一つ。

「全員追い返しましょう!」






四人掛けの籠が騒ぎの家の前を通過する。籠は金箔で彩られていて鮮やかな色彩だ。それだけで、中にいる人の身分の高さが伺える。そして、中に乗るのは男性ではなく――――女性だ。

「表が騒がしいようだけれど?」

中から美しく、また身分相応の威厳をもった声がする。

「はっ、求婚者が家に集っているようです。」

左前の、四人の中では少しいい身なりをした者が答える。四人の中のリーダーのようなものだろう。しかし、答える間も歩みは止めない。

「求婚者?」

「はい。どうも、「かぐや姫」という名の女性に求婚しているようです。」

求婚、という言葉に反応した女性が籠を止めるよう命じる。

「歩みを止めなさい。」

その一言で、ピタッと籠は歩みを止める。籠の中から細い手が伸び、窓を開ける。そこから整った顔が覗かれた。

「あそこは(みやつこ)の家ね……竹の家に子どもなんていたかしら。」

今までそんな話は聞いたことがないし、もしいたとしたら知らないはずがない。その疑問に、左前の者が少し言いにくそうに答えた。

「その………話によれば、空から降ってきたようで。」

「………あなたが冗句を言うようには思えないけれど、今回ばかりは素直に信じられないわ。」

左前の者は、何も言わない。ふぅ、とため息を付いてから女性が言う。

「その「かぐや姫」とやらと、私とどちらが美しいのかしらね?」

軽く、女性にとっては本当に軽い気持ちで聞いた質問なのだろうが、四人に動揺が走る。

―ここで答え方を間違えてはいけない

本能的に四人はそう感じ取った。しかし、だからといってそれといった答えも見つからない。無言の時間が過ぎていく。先に耐えられなくなったのは女性のほうだ。

「ふふ、そう身構えることはないのよ?」

それを聞いて安心したのか、またもや左前の者が恐る恐る話し出す。

「美しさ………といったらあまりお変わりはないでしょう。ただ…………。」

「ただ?」

「その御身分故、手の出しやすさ、といったらかぐや姫なのではないかと存じます。」

「ふふふ………そう、やはり会ってみないとわからないわねぇ。もし、私の方が美しいならそれでよし、ただ、もしもかぐや姫の方が美しいなら………。」

四人は急に恐怖を感じた。獣にじっと見つめられたような、少しでも動いたら殺される、そんな雰囲気だ。もう冬は過ぎたというのに、どこか肌寒い。

―摘み取らないと―――――。

その言葉にはそれ以上の重みがある。その言葉の意味がわかる四人は、ただひたすらに話の矛先が自分達に向かないことを願っていた。

「行きましょう。こんなところにいても仕方がないわね。」

四人はホッとため息をつく。

そして、その四人がけの籠はまた静かに動き始める。

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