4:where are there?
入れ忘れによりあとから追加しました。
目を開けると、上には見慣れない天井。寝ている場所も、いつもの場所ではない。どう考えても、いろいろとおかしい。
まだショックが残る頭を上げて、辺りを見渡す。「ここは…………というか何してたんだっけ……………。」
地面が畳で、障子の扉がある。現代ではあまり見ない作りだ。
障子なんて、生まれて一回見たことがあるかないかのレベルだ。
少しずつ頭が働いてくる。
―たしか美術館でお見合いとかいわれて………で、ちょっとトイレ行ってくるとか言われて……………で、平安展とかいって、つまらないけどどうせだったらと思ってちょっと見物して、でも実際平安とか関係なくって、竹取物語のとこみようとしたら、すごい衝撃がきて……で、倒れた……………はず。
多分これであってる。まぁ、経緯はどうでもいい。それよりも、
「ここはどこ?」
誰かが聞いているわけではないが呟く。なんちゃらったーに投稿?いや、そもそもやってないし。
少なくとも、明らかに私の知っている場所じゃない。
とりあえず立ち上がって、また周りを見渡す。
―本当に古い造りね………まるで鎌倉……いえ、もっと古いわね…平安時代みたい。
ついでに、持ち物も確認しておく。
―服は……そのままだけど、持ち物は全部無くなってるわね……携帯と財布は入れておいたはずなのに…………。
流石にだんだん不安になってきて、いてもたってもいられなくなったので外に出ることにした。
靴も無かったので仕方ないから靴下のままいく。汚れてしまうけれど、仕方ない。
そのまま外に歩き、一歩目を踏み出し外を見たとき―――――私は頭がおかしくなったか幻覚を見ているかのどちらかだと思った。どっちにしろ頭がおかしくなっているが。
隣では農民が畑を耕し、さらに奥を見れば町が続いていて、籠に乗っている人が見える。皆、着物を着ている。
つまりは、いわゆるHEIAN、とか、EDO、とかそんな感じだ。
―……………絶賛撮影中?で、カメラはいずこに?
キョロキョロと見回すが、それらしきものは見当たらない。
と、よく見れば周りの人が好奇な目で私を見つめてくる。
いや、こんなとこにこんな格好でいたらそりゃ目立つけど。
ただ、気になるのは目線が「撮影の邪魔だ」というより、純粋になんだなんだの好奇心であるような気がすることだ。現に、スタッフとかが話しかけてきてもいいものを、誰も話しかけてこない上、機材もスタッフも見えない。というよりなぜこんなところに持ち物なしで放り出されなきゃいけないのよ。スティーブじゃあるまいし。
何をするでもなく、そのままぼーっと突っ立っていると、そろそろと、しかし間違いなく一人の男が聞こえてくる。訝しげに見ていると、遂には私の目の前まできていた。そしてガバッと頭を下げて言う。
「頼む!結婚してください!」
「…………………………は?」
たっぷり三秒おいてから答える。最後まで沈黙たっぷり。
「一目惚れしました!お願いします!」
とりあえず二歩引いておく。やっぱりもう二歩引いておく。
そこで、急に大きな声がかかる。
「お~お嬢ちゃん、起きなすったか。ん?その男はなんだい?」
「さ、さぁ……………………。」
いや、私からみればお婆さんこそ誰なんですか。お陰でもっと状況が理解できなくなりました。
そんな私にまったく気づかず、話は進む。
「お願いしますお婆さん、この人と結婚させてください!」
「あ~?ひとまず帰った帰った。」
邪険に見て、シッシッと追い払う仕草をすると、男は諦めたかのようにその場を去っていった。
男の言葉を完全にスルーした挙げ句追い払うとは、何者。
そのスーパーお婆さんが私に向き直ってから言う。
「あんさん、大丈夫かぃ。竹薮で倒れてるもんだからびっくりしたでぇ。それにずいぶんと珍妙な着物だねぇ。ひとまず、中に入った入った。」
「え、えぇ……………………。」
気圧されながらも、家の中に入る。
竹薮の中で倒れていた?私は美術館で倒れたはずだけど…………。
「さぁそこに座って。嬢ちゃん、どこからきたんだい。」
「えっと、東京からきました。」
「とうきょうだぁ?きいたことねぇばしょだな。いったい、どのあたりなんだい。」
…………え?
いくらなんでも、東京をしらない日本人はいないだろう。仮にも日本の首都だし。やっぱり撮影中?でもカメラは見あたらないし。隠しカメラも見あたらないし。お父様のいたずら?にしては度が過ぎてる………とは言わないけど、わざわざあんなお見合いの最中にこんなふざけたことは流石にしないだろう。じゃあ、どういうこと?
「…………先に、ここはどこか聞いて起きたいのですが。」
「ああ?京の都だよ。あっちのほうに平安京が見えなかったかい?」
……………え、ええええええええええええええええええ!
いや、なんで京都にいるの?ていうかなんで平安京があるのよ!復元されたなんて話、聞いてないわよ!
「まぁ、遷都されたばかりだしねぇ。平安京をしらないったあ相当田舎からきたね。」
遷都されたばかりって………本当に794年?いやでも……………。
「え………、えぇ、東の方から来ました。」
「にしたってどうやってきたってんだぁ?何にも、もってなかったじゃねえか。」
「私も………起きたらここだったもので……………。」
「はほぉ、不思議なこともあるもんだねぇ。あ、名前はなんていうんだい。」
名前?えっと…………………あれ?
「どうしたんだい、まさか名前まで忘れちまったってえのか。」
「………………。」
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!?名前が思い出せないってどういうこと!?親の名前は………顔は思い出せるのに………………名前が………………………出てこない……………。
パニックに陥っている私の肩をポンと叩いてお婆さんがいう。
「まーそういうこともあるさ、思い出すまで不便だから…………うん、嬢ちゃんの名前はかぐや姫だ、うん、そうしよう。とりあえず、涙ふきな、せっかくの綺麗な顔がグチョグチョだよ。」
気づけば、涙を流していた。大企業の令嬢である以前に、私だって普通の女の子だ。涙を流すことだってある。
「少し落ち着いたらおいで。外で畑仕事してるから。」
私は黙って頷き、そのまま俯く。
お婆さんが立ち上がり、外へでて、部屋の障子をトンと閉めた。
その後私は大泣きした。