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~TAKETORI~千三百年の時を越えて  作者: 秋実 怜土
3/17

3:グロッキーにもかかわらず無理難題は降り注ぐ

ずいぶん遅れたorz

九時二十八分―――

無事、事故を起こすことなく美術館にたどり着いた。いや、無事なのは車体だけだ。当の私はといえば、車に揺られに揺られて、完全にふらふらのグロッキー状態になっている。

「凛、もっとシャキッとしなさい。ふらふらしてはみっともないですよ。」

それに対して、お母様は平然とした顔で、いつも通りに背筋を伸ばして立っている。

「逆に、何故お母様はそんなにも平然としておられるのですか……。」

「これくらいできて当たり前です。もう少し我慢しなさい。」

そんなことは、と思い周りを見渡すが、お父様は楽しそうだし、嘉山は静かにしている。

……いや、周りがおかしいだけよね?

「時に周りが異常だと感じたとき、仮にそれが異常だったとしてもそこではそれが常識なのですよ、覚えて起きなさい。」

納得はできないが、ひとまず頷いておく。

―――と、頷いたところで急に吐き気を催して―――伏せて道端に吐き戻す。

「ぅおろぇ……。」

少し頭を揺すっただけで、この有様だ。

その様子を、お母様がため息をついてじっと見ている。

私は深呼吸して落ち着かせる。

「はぁ……はぁ……………はあ。」

「水でございます。」

いつの間にか私の隣にいた嘉山がペットボトル入りの水を手渡してきた。「あぁ………ありがと……………。」

その水で口を濯いでから一口だけ飲む。

確かに、私は乗り物酔いしやすいほうかもしれない。それでも、あんなのに耐えきれる人なんてそうそういるはずがない。いてたまるか。例えるならば、20分ぶっ続けでジェットコースターに乗ったような、そんな感じ。つまりは、二度と乗りたくない。

お母様はお母様で、ダメね、みたいな目で見てくる。なにもそこまで冷たい目をしなくても…………。

「行きますよ、もう皆待っています。はやくしなさい。」

「はいお母様。」

まだまだクラクラする頭をふらつかせながら美術館の中へと向かう。




国営美術館、またの名を国営博物館ともいうこの建物は、本当になんでも展示してある。一応正式名称としては美術館だが、その中に博物館、図書館が入っている。そして何よりも広い。すべて回るには1日かけても足りないだろう。敷地面積が甲子園三つに国会議事堂、東京スカイツリーを足したぐらいというのは伊達じゃない。

作りは近代的で、なんでも有名な建築家がデザインしたらしい。

その、入り口の前に私は立つ。

―この美術館、建てるのにどれだけお金がかかっているのか想像つかないわね。

普段なら、こんな世の中といえど、10人以上は客がいる。だが、今日はその姿が全くない。察するに、この美術館まるまる貸し切ったのだろう。行動としてはバカみたいだが、一応、日本経済の復興というお題目がついてくる。でも、もう呆れるしかない。

自動ドアをくぐり抜け、中に入るとすでに数名人がいた。そういえば、リザー社の人と会ったことがほとんどない。つまり、名前すらしらない。

横にいるお母様が小声で言う。

「いくら気分が優れなくとも、それを隠し通すのですよ。」

「はいお母様。」

最後の念押しを受けてから、さらに一歩踏み出した。

「久しぶりですね笹木さん!」

「おお久しぶりだ、白峰君!」

随分と親しそうだが、聞くところによると大学時代の先輩後輩関係らしい。そして、お父様と気が合う人なら、まともな人じゃないだろう。

「やぁ三兄弟も…………あれ一人だ。おや、長男の博道君と次男の博隆君はどうしましたか?」

「いやぁ、こんな日に二人とも熱だしちまったようでな、お手伝いさんと一緒に家にいるよ。」

「っと、それはお大事に。まぁさっそくですが本題に入りましょうか。」

「おお、うん、じゃ、あとは頑張れ。」

笹木さんが三男の肩をポンと叩く。見るからにガッチガチに緊張しているのがわかる。私はといえば、未だグロッキー状態が抜けず、二重の意味で緊張している。

「ああ、ちなみに名前は博樹です。じゃぁ、白峰のお嬢さん、よろしくお願いします。」

笹木さんが頭を下げる。それにつられて、私も軽く頭を下げた。

そしてまた吐き気が戻ってくる。下手に頭を動かすとすぐにこうなる。

しかし、名前を名乗らないわけにはいかないので、慎重に頭を下げながら言う。

「白峰凛です。本日はよろしくお願いします。」

慎重にやっても無駄でした。頭を上げるときにふらつきそうになるのを必死でこらえる。

「じゃあ、我々はその辺でお茶でも飲みましょうか、いろいろとあるでしょうから。」

「うん、じゃ、あとは。」

お母様も含め、そのまま奥の喫茶店に入っていく。残されたのは私たち二人。

「……。」

「…………………。」

「……………………………………。」

そこに流れるは気まずい空気。当たり前よね。何はなしたらいいかわからないし、初対面でっていうのがまず無茶だし。

沈黙が続く中、まず耐えきれなかったのは私。

失礼、とだけ言って近くのソファーに倒れ込むようにして座る。

「あ、大丈夫ですか。」

慌てたように博樹君?が駆け寄ってくる。

「いえ………ちょっと車酔いで………時速二百キロに振り回されて………………。」

「あー……………。」

どうやら、博樹君にも思い当たりがあるようだ。

「やっぱりうちの親と気が合うってことはそうなのか…………。」

えぇ、やっぱり笹木さんも破天荒なのね………………。だいたいわかってたわ………。こんなこといっちゃ失礼だけれどうちの親が敬語を使う相手なんてもっとろくでもなさそう。

「はぁ………まぁ悩み事はいずこも同じね……………。じゃあ、交通事故の処理するための書類が山積みになっているのを経験したことはあるかしら?」

すると、博樹君は首を傾げながらたどたどしく言う。

「いや、………あまりないわけじゃないけど………………まだ厚みが10センチを越えたことはないぐらいには。それより、この前は株式の体験だーとかいって小さな証券取引所のメインコンピューターの管理をやらされたりとか。」

思った以上にとんでもなかった。そんなことやらされそうになったら発狂する。

「それはまた気の毒に…………。」

「それでも今は慣れてだいぶ楽にはなったけどね。それより、よくくるウィルスが厄介。」

「あら、そんなにハッキングなんてされるものなのかしら?」

「いや、親が。しかも営業中に。」

もうなにも驚くまいとは思っていたけどそんなことはなかった。

「それで一回やられて大騒ぎになってからは三人でひっきりなしに監視するようになったよ。」

「三人いるから楽ってことはないのね……。」

自分で言うのもなんだが、私もこの三兄弟も頭のスペックだけはかなり高いだろう。ということは、笹木さんは、その三兄弟分ということになる。そして私のお父様も、それに似たり寄ったりであることは間違いない。

「結構前に、ニュースにもなったはずだよ、「証券取引所、大騒動」って。」

思いだそうとしても思い出せない。おそらく知らないのだろう。

「う~んごめんなさい、私、昔からニュースはあまり見てないのよね、いつも何かしらあったから。」

「気にしないで、そんな大きく取り上げられなかったし、随分と前だし。それより、もうそろそろいかないと、視線が気になる。」

博樹君が喫茶店のほうをチラッと見る。

「そうね、いきましょう。このままここにいると、ずっと覗き見てる例の破天荒な人達にも悪いしね。」

美術館内の喫茶店からずっと様子を伺いながらじっと見てきている二人をチラッと見てから言う。

「そうだね、まぁ、といっても監視カメラとかで見ているだろうけどね。」

博樹君が手を差し出す。

「それでは、エスコートはお任せください、凛お嬢様。」

突然のことに驚きながらも、私もその手を取りながらフフッと笑ってそれに返す。

「あら、よろしく頼むわ、博樹君。」



美術館内を回る、回る、回る、回る。絵画、彫刻オブジェに写真、様々なものが展示されている。やはり、この広さはだてじゃない。そして、博物館の方へ移動している際に、不意に博樹君が聞いてくる。

「念の為聞いておくけど………もし、そうなったとしたら僕と結婚する気はある?」

「あら、ないわよ。」

すぐさま断言する。そんなこと、あるわけがない。あってたまるか。

「これがこんな形じゃなくって、普通に会って、というのなら少しは考えたかもしれないけど…………でも、こんな無理矢理やらされているような状況でなんて考えられないわ。」

すると、博樹君が安心したように笑う。

「その答えを聞いてホッとしたよ、僕だってこんな形では嫌だから。」

「…………私、こういう風にデートしたりとかって初めてなのよね……………。」

思えば、誘われたことは何回もあったし、それなりに許容範囲内な相手もいた。けれども、一度も行ったことはない。

「もし本気で付き合うとなれば自分を相手にさらけ出すことになる…………それが嫌だったからそんなことしようとも思わなかった。もったいない話よね、機会はあったのに一度も行かなかったなんて。」

博樹君は、ただ、そうだね、と返す。

「ねぇ今の博樹君は猫をかぶった博樹君?それとも、ありのままの博樹君?」

少し悩んだ後に、こう答えた。

「今の僕は、ありのままであるし、猫をかぶった状態であるとも言えるかな。」

―もう、猫を被りすぎて本当の自分なんてわからないよ。

そういう博樹君からは物悲しさが感じられる。

「………実際本心なんてどうでもいいのかもね。」

その後に続いた言葉に驚く。

「え?」

「全部上っ面だけ見せてれば褒められる、そうしていればなんの苦労もない。」

「私はそんなの絶対に嫌よ。」

なぜだか、博樹君に怒りを覚える。そんな現実に諦めたような博樹君に対して、少し怒っていた。

「そんなの、窮屈じゃない。確かに、社交の場ではおとなしくすることはあるけれど、それでも普段はずっとこうよ。」

「………まあ、そうかもね。確かに、本心を語ることは大事だと僕も思うよ。というかこんなに正面から話したのも久しぶりだし。」

少し置いてから、窓の外を見ながら博樹君が言う。

「ねぇ……………………もし、こんなことは関係なしに、付き合ってください、って言ったら答えてくれるかな?」

「あら、それなら普段から本心で話せるようにならないと話にならないわ。」

博樹君が苦笑した。

「おやおや、流石にご令嬢は厳しいなぁ。」

「でもそれが普通でしょう?」

―まぁそうだね。

しかし、そうはいいつつもやはりどこか諦めている感じがする。

「もういこう、ちょっとトイレに行ってるから、先に………そこの「平安日本展」でもみてて。」

何故だか、言葉にもの寂しさを感じる。

「わかったわ。じゃあ、先見てるわね。」

そういって、平安日本展に足を進めた。



平安日本展と言うからには、やはり昔の日本のうんたらかんたらだ。

どうしてこんなにも適当か、つまり興味がない。一応常設ではないようなので初めてだが、詳しく見ることもなくさらっと流していく。

―日本史なんてどこが面白いのかしら。しかも平安なんて平和ボケした時代じゃない。

そして、展示は古い書物の話に移り変わる。

方丈記、平家物語、古今和歌集、竹取物語――――――もはや平安時代なんて関係なくなっている。

………………………つまらん。

何をどうしようと、つまらないものはつまらないんだからどうしようもない。

そうはいっても博樹君が戻ってこないので、仕方なく見ていく。

方丈記、万葉集、新古今集。

―最後は竹取物語ね、…………あ。

竹取物語を見た瞬間、急に激しいめまいに見舞われてうずくまって地面に吐き戻す。

立とうとしても力が入らず立てない。

そのまま意識も揺らいでいく。

―あ……あれ…………どうな…っ……て……………………。

ようやく竹取物語っぽくはなってきました

このあともまだまだ続きます

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