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~TAKETORI~千三百年の時を越えて  作者: 秋実 怜土
17/17

11:4:3 暴れん坊神様

「これは……。」

ニニギについていくと、段々と霧が晴れてくる。そして、段々と見えてきた景色は──────思いがけず普通だった。

普通の町並みだ。特に高い建物があるわけでもなく、はたまた都のような大それた建物があるわけでもなく、普通だった。一つ違うところをあげるとするならば、地面が真っ白であることだ。どこまでも白く、雑じり気が無い。それが町全体に広がっている。

しかし、壱之長介が堪能するまもなくニニギはずんずん進んでいく。彼らにとっては見慣れた光景か。

「ああようやく戻ってこれた………。」

横を見ると、隣では天照大神が壱之長介とはまた別の感動を抱いている。こんなんだから駄女神様なのだろう。

ふとまた前をむくといつの間にか先に恐ろしく巨大な宮殿があるのが見えた。つい先程までなにもなかったはずなのに。

驚いていると、ニニギが解説してくれる。

「ああ、結界に入ったんですよ。万が一人が迷い込んだときのことを考えて、この辺りにはられた結界の内側に入らないと宮殿は見えないようになっています。」

「ほー…………。」

「因みに、その結界を張ったのはわたしなんですよ!」

自信満々に解説する駄女神様。本当かどうかよくわからなかったためニニギのほうを向くと、

「えぇ………まぁ………。」

と曖昧に答えた。そして、

「一度大失敗してましたがね。」

と付け加える。

「大失敗ってなにやらかしたんですか?」

「だ、大失敗だなんて!ちょっと太陽の力を借りすぎただけですよ!」

「その「ちょっと」で高天原は滅びかけましたけどね…………。」


暫く歩くうちに、いろんな神とすれ違った。オオクニノヌシ、スセリビメ、等々。そして、みな口々に「駄女神」と言って通り過ぎ去っていき、当の本人は心が折れかかっている。

「あ、駄女神だ。」

「ああもうこんどは誰ですか!…………スサノオ………。私は何もしてませんよ!」

スサノオは哀れみの目でいきなり爆弾を投下した。

「いや……………一部始終見てたけど、その、もう駄女神というより駄目ごみだったな。」

天照大神は一瞬固まったが、直ぐに立ち直って、

「ぬ!なにがごみですか!私、知ってるんですよ、あなたがクシナダに対してデレデレなこと!いっつもデレデレじゃないですか!」と言い返した。

「引きこもりの駄目ごみにどうこういわれたかねぇよ。それに結婚してみればわかる。妻を愛するのは夫として当たり前のことだ!」

「で、でもでもでもでもでもでも…………。」

「それより早く結婚した方がいいんじゃないかー。」

「うるさいですね!私はスセリビメに次ぐ美神って言われてるんですよ!たまたま、で結婚したあなたとは違うんです!」

「なにもしなければな。」

「なにかしても美神です!」

「あのな、あの女たらしでさえ手をださないってことは………まぁ、そういうことだ。」

「ちょっと!何を勝手に察してるんですか!」

「ああ、天照、帰ってこれたのか。」

のんきな声が聞こえた。

さらにそこにやって来たのは天照とスサノオの生み親のイザナギだ。

「おやこれはこれは親父殿。」

イザナギがため息をつく。

「お前の噂はよく聞くぞ。もう少し落ち着きなさい。」

そして、イザナギが頭を抱えてため息をつく。

「天照は…………まあ、がんばれ。全く、干し柿で餌付けされた挙げ句帰り道に迷うとは…………賭けにはかったからいいが。」

「生みの親が私が迷う方に賭けるってどうなんでしょうねぇ!また引きこもりますよ!」

「あ、引きこもりの神様だ。」

「違いますってば!」

「まぁ、暗くなったら困るのは確かだから堪忍堪忍。」

「ふん、困りたくなければそんなこといわないことですね!」

「え………暗くなって肝試しだーってはしゃいでたのは親父殿じゃ……………。」

「なんでそれをいっちゃうかな。」

「おやこれは失礼しました親父殿。」

天照大神がついに我慢の限界がきたのか、ワッと泣き出しどこかへ走り出す。

「わあああんもう知らないんだからあああ!」

それを呆然と見送るニニギと壱之長介。

「ああ気にしなくていいよ、いつものことだし。ちょっと適当な物で釣ればすぐ出てくるから。」

「神様って…………………。」

「基本的に不真面目ですよ。」

ニニギが付け足す。

「寧ろなぜ神様が真面目な風に描かれているのかが不思議です。」

「そーなんだよ、ニニギなんかここじゃ一、ニを争う真面目な奴でね、つまんないんだよねぇー。一応血の繋がりあるのに。」

親族だとは初耳の壱之長介。

「えっと………どのような関係でいらっしゃいましょうか。」

「イザナギ様は私のひいお祖父様にあたります。」

なるほど、少しややこしいが、つまりイザナギとイザナミの子が天照とスサノオ、さらに天照の孫がニニギというわけだ。

「因みに、神武天皇がニニギの孫になる。天皇家はそこから始まったのだよ。」

「とすると、なんというかとんでもないですね。」

「うむ、正直でよろしい。」

なにがよろしかったのかはよくわからないが、イザナギは一人で勝手に頷いている。

「あーそれでだ、旅人よ、望みとはなんだ?わしの饅頭はやらんぞ?」

「じゃあ、天の沼矛貸してください。」

イザナギとスサノオが顔を見合わせる。

「あれどこやったっけな………。」

「俺が最後に見たのは猟に借りたときですよ親父殿。」

「なんちゅうもので猟に出てるんですかいったい!」

そんなニニギの叫びは軽く無視される。

「その後適当にしまいこんだと思ったが……。」

「あの魔窟を片付けるのは………。」

「魔窟ってなんです?」壱之長介がニニギに聞く。

「あれは「魔窟」としかいい表せません。もう少し片付ければいいものを………長年放置されたため、鼠の住みかとなった物置小屋のことです。その凄まじさから皆「魔窟」と称します。」

「その「魔窟」は基本的になんでも突っ込んでるから………あ、でも食べ物を入れても腐ったりはしないよ。鼠が綺麗に食べてくれるから。」

「清潔に保たれた不清潔ですね。」

「問題は中身なんだよなぁ………下手に弄って暴発すると大変なことになるから。」

イザナギが顎に手を当てて考える。これだけ見れば、神様とは到底思えない。

「親父殿、一先ず行ってみないことにはわからないんじゃないか。」

「そうかもしれぬな。よし、ならば魔窟に向かおう!」

勢いよく踏み出そうとした一歩目はそのまま空中で静止する。

「で、魔窟はどっちだったかな?」

蛙の子は蛙、子がそうなら親も大概ではなかった。




「で、ここなんだけど………。」

イザナギに案内されたのは壁は白塗りの一見普通の倉庫だ。

「一見普通だけど、何かあったときに大変だから何重にも結界がかけてあるんだ。そのお陰か天照が結界を張ろうとした時以来、滅亡の危機に貧したことはないよ。」

スサノオがそろりと戸を開ける。

「親父殿、今日は大丈夫みたいだよ!」

「おおそうか!よかったよかった。」

ニニギが解説する。

「たまに鼠が山を崩して、その弾みで神器が暴発することがあるんですよ。一回始まると連鎖的に他のも暴発するので、中が最終戦争状態になります。私は早く片付けたほうがいいって何回も申し上げてるんですけどね。」

「最終戦争状態ですか…………。」

ちょっと見てみたいな、と思ったがニニギのためにも口には出さなかった。

その間にも、イザナギとスサノオは中で捜索に取りかかっている。中はよく見えないが、声だけは聞こえてきた。

「親父殿!その上のじゃないか!」

「いや、あれは多分違う!」

「じゃこれかな?ってうわ!」

ジュワっ

「おい!下手に弄ると暴発するぞ!気を付けろ!」

「もう暴発してるよ!ていうか持っただけで暴発だなんてどうなってるんだこの欠陥は!」

「なんでも、失敗作も適当に放り込んだらしいからな!」

「おいおい親父殿、その格好はうわぁ!」

ガラガラガラカッシャーン

パタパタパタ

「………とまぁ注意しよう!」

とまぁこんな具合だ。

「実に楽しそうですね。」

「外に被害が及ばなければ私もそんなに言いはしませんけどね……たまに外に漏れだして来ますから………。」


少し待ったところで、スサノオとイザナギが倉庫から出てきた。

イザナギの手には矛が握られている。持ち手の部分に細かな装飾が張り巡らされ、いかにも、といった感じだ。

「これが………。」

「うん、天の沼矛だよ。壊れてなくて良かった良かった。」

そして、スサノオの方を向くと、なにやら禍々しい珠を布に包んで持っている。

「これは…………。」

「ん、探してる最中に見つけたから持ってきた。天照に送りつけようと思って。」

「因みに、それに触れるととんでもなく不幸な目に遭います。角に小指をぶつけるのが常習的になったりすることから、たまたま飛んできた流れ弾に当たったりすることまで何でも災いが降りかかってきます。」

「とんでもないいたずらですね。」

「で、ところでこの矛どうすんの?とてもじゃないけど戦には向いてないよ?」

「あ、それを見せることが重要なのです。」

よくわからないといったイザナギに、とんでもないかぐや姫の話をした。

「実に愉快な姫様だね!一度話してみたら気が合いそうだ。」

絶対に止めてくださいね、とニニギが制するのを無視して話を続ける。

「ああ、そうだ、もしそのかぐや姫との縁談が失敗………いや、成功してもどっちでもいいや、天照と結婚してみる気はない?」

「え?」

軽い約束をする口調でとんでもないことを口走るイザナギ。流石は創世の神といった豪快さだ。

「あー……ま、俺たちの世界じゃ誰ももらってくれないしねー。」

これまた平然と賛同するスサノオ。荒神の名は伊達ではない。

「ちょ、なにいってるんですか!」

やはりまともなのはニニギだけだ、とこの時壱之長介は思った。

「いや、いつまでも娘が独身というのは親としてね…………。オオクニノヌシが遠慮した時点で諦めかけていたが。」

「ていうかアレを知ってれば結婚しようと思わねーよ。1をすると10災いが起こるだなんて。」

「そうそうだから誰も近づきたがらないのだよ…………。そこで、君なら天照に近づく機会も無いしね。安全かと。」

「ま、ああ見えてもやっぱり天照も人間からみれば年が完全にババアどころの話じゃないけどな………。」

突如として、あたりを重苦しい空気が包む。気温が二度程下がったような気がした。

いつの間にかスサノオの真後ろに天照大神がいた。とんでもない威圧だ。少し離れたところにいる壱之長介もニニギも後退りした。当のスサノオは後ろを振り返ることも、動くこともできない。イザナギは肩をすくめている。

「ババアって誰のことですかね。私は21歳ですよ?」

「い、いや……。」

「私は21歳ですよ?」

「さ、流石に……。」

「私は21歳だと言っているのが聞こえませんか?」

「…………はい、天照様は21歳です………………。」

スサノオが頷いたとたん、重圧が消えた。同時に、天照大神の姿も消えている。

「今のは天照様の分霊です。分霊ということで天照様より力はだいぶ劣りますが……それでも一応最上位といっても差し支えのない柱なので………天照様本体の本気は、ここら一帯が一瞬で蒸発します。」

「はい、ご縁談の話は遠慮させて頂きます。」

「まぁ、そうだよねぇ。」

イザナギが頭を抱えてため息をつく。

「あれさえなければごり押せたんだけどなぁ。まぁいいか。帰りはここの道を行けば帰れるよ。それは邪魔になったら適当に洞窟とかに放り込んどいて。誰か回収にいかせるから。」

「ありがとうございます。それでは。」

壱之長介が頭を下げて、背を向けて道を歩き出す。釣竿のように天の沼矛をかかえて。

「きぃつけるんだよ~!」

後ろからイザナギの声が響く。

段々と霧が掛かっていき、その姿は見えなくなった。




歩き続けていると、霧が晴れてきた。何やら高い物が見えてくる。

「これは…………。」

高い建物に透き通ったものが嵌め込んである。なにやらとても早く走る物がある。空に、鳥でない何かが飛んでいる。人々が往来するなか、一人ポツンと佇んでいた。

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