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~TAKETORI~千三百年の時を越えて  作者: 秋実 怜土
14/17

11:3 潮みつ、潮ふる

中納言の亥佐木麻呂(いののさきまろ)が頼まれた品は、潮みつ、潮ふるの珠。なんでも、使えば潮が満ちたり引いたりするそうだ。随分楽しそうなお宝だ。

暫く考えてみるものの、どうしようもない。考えただけでどうにかなるわけがない。なってたまるものか。

「あーもーあの姫様ったら人の弱みにつけ込むようなことしやがって…………。」

終いには、そらから降ってこないかなー神のお告げとかないかなーと考える有り様。その後、部下に聞いてみても、「私にはわかりません他を当たってください」の一点張り。せめてものもう少しましな回答をしてほしい。

7日が立ち、流石に佐木麻呂もイライラしてくる。

「ぐぬぬ……埒が開かない……流石に二日三日でどうなるとは考えていなかったが、ここまでわからないとは……。」

結局のところ、思考のどうどう巡り。そして、「あーやっぱりむちゃな注文をした姫様が悪い!」と、どうみても間違っている結論に至ったは、早速かぐや姫のいる家へと足を運ぶ。これだから行動するバカは怖い。


翁の家につくやいなや、戸を叩く。

すると、思った通り爺様がでてくる。

「これはこれは、本日はとのようなご用件でしょうか。」

「姫様に、注文の品の変更を求めて直談判に参りました!」

「はぁ少々お待ちください……?」

よくわからない注文に爺様は不思議そうな顔をする。

五分ほどまつと、爺様が戻ってくる。

「かぐや姫は、注文の品を持ってくるまではお会いにならないそうです。申し訳在りませんが、今日のところはおひきとりください。」

「ちょっとだけだから!」

「おひきとりください。」

「ちょろっと。ねっねっ!」

「おひきとりください。」

「サービス精神大事だよ!」

「おひきとりください。」

「あと一押し!」

「おひきとりください。」

「そんなんじゃ商売やっていけないよ!」

「おひきとりください?」

「ねっ!あと十円だけ!」

「……失礼ですが、これはいったいなんの交渉なのでしょうか。」

「では失礼。」

呆気にとられる爺様をひとりのこし、は元気よく去っていく。かぐや姫を一目みようと集まっていた男たちは、まさか婚約が成立したのではないかと恐れたという。



十四日もたつと、苛立ちが大きくなってくる。それらしき情報がたくさん入るものの、その全てが勘違いだったり適当なことだったり。今日も、「潮みつの珠」を、「塩漬けの野菜」と勘違いした老人がいて、その老人に「どんな聞き違いしとるんじゃこのボケ老人!」と怒鳴ってきたところだった。


そんな中、ついに一報が入る。とある知識人が、が潮みつ、潮ふるの珠を探していると聞いて、話に乗ってくれたのだ。


「潮みつ、潮ふるの珠をお探しと拝聴いたしました故、話をしに参りました。」

「おお来たか来たか、まぁ座れ、ついでに仕事を手伝ってくれ。」

「は、はぁ………。」

すると、奥から「絶対に手伝わないで下さいねー!」と声が響いてくる。

「まったく、うるさい奴だ。ちょっとぐらいいいじゃぁないか。」


その知識人を座敷に上げ、部下が茶と茶菓子を持ってくる。亥佐木麻呂が話を切り出す。

「そなた、名をなんという。」

「私、學秀(がくしゅう)と申します。」

「ふむ。」

「日本書紀の研究を職としておりまして、失礼ながらこの件に関しては私からもお願い事がございます。」

「ほぉ。頼むのはこっちじゃなかったっけ?」

學秀が首を横に振る。

「いえ、亥佐木麻呂様が潮ふる、潮みつの珠を見つけられた後、その珠を譲ってもらいたいのです。」

「な、なんだってー!」

「やはり無理したか………。」

「いや、言ってみただけ。」

「え?」

「私が持ってたってしょうがないからね、多分いつの間にかゴミに紛れることになりそうだし。用事済ませたらあげるよ。」

「えーっと……あ、ありがとうございます!」

學秀が慌てて頭を下げる。

「それより、どこにあるの?私、気になります!」

「あ、私の見解によると、ここから北の海にございます。」

「北か………ならばこっちに向かえばいいのだな。」

「失礼ながら、それは西です。」

「ふむ、ならばこっちか。」

「それは南にございます。」

「あと二択か………よし、北はこっちだろう!」

「残念ながら、それは東です。」

「しょぼんぬ。」

亥佐木麻呂があらか様に肩を落とす。が、すぐに元気になって、

「よし、方角もわかったことだし今すぐ向かおう!」

といって、何も持たずに走り出してしまった。

學秀は間抜けな顔をしてそれを見送る。


そして直ぐに戻ってきて、

「ところで、具体的にどこへ向かえばいいのだ?」

「その話を今からするところにございます。」





亥佐木麻呂から聞いた話をまとめると、

・10日ほどで行ける

・京より寒い

・場所は若狭の海岸の岩山

・海産物がおいしい

・特に海苔がいい

とのことだった。

さて、いつ向かおうか。

亥佐木麻呂は考えを巡らせる。

―明日は………花見に行きたいからな………明後日は仕事………だけど気にしないで……暇になったらいくか…。

そうして、畳の上に寝転がる。

―ぬー………暇だ。

そしてばっと立ち上がって叫び出す。

「そうだ、若狭に、行こう!」

バタバタバタバタ

叫び声に驚いた部下が走り寄る。

「何事ですか、佐木麻呂様!」

「若狭にいくぞ!お宝と海産物が我々を待っている!」

「……………えーっと………。」

「あれ?」

亥佐木麻呂と部下の間に微妙な空気が流れる。

「もしかして何も言ってなかったっけ?」

「少なくとも、若狭のことについては何も聞いておりません。」

「あっれぇー何も伝えてないかー。」

「いったい、若狭に行くとはどういうことでしょうか。私、気になります。」

「かぐや姫に、私が潮みつ、潮ふるの珠を頼まれたのは知ってるね?」

「ええまぁかぐや姫がとんでもない物を注文したことぐらいは。」

「それが若狭にあるらしい。」

「なんだってー!」

「しかも、若狭と言えば海産物!おいしい食事!これは今すぐに行くしかない!」

「あっれれぇー?おっかしいぞーぉ?」

「ん、何かあった?」

「いえ………そんな岩山にあるのだったら既にだれかが見つけてるのではないかなーと……。」

「…………宝の守護神でもついてるのかな?」

「そうだとしたら私たちだけでは到底……皆平和ボケでのんびりしております………。」

「……………じゃあ、助っ人でも考えるか。」

「おお!佐木麻呂様が珍しく真っ当なことを!」

亥佐木麻呂と部下の間に先ほどとは違う微妙な空気が流れる。

「…………さり気なくひどいこといわなかった?」

「それは気のせいにございます。」





次の日の朝、亥佐木麻呂は部下二十名、助っ人二名総勢23名で準備を終えていた。

助っ人は、二人とも体つきが良い大男で、部下は期待していた。

「ひとまず、二人の助っ人を紹介する!」

おおおおお、と部下がざわめく。

「彼の名は…………きりたるるるるおおぉぉぉ(霧太郎)!」

わああああああ、と部下が歓声を上げる。しかし、次の霧太郎の言葉で一瞬で静かになった。

「でも、おら剣とかまったく使えないっすよ?」

「え」

「うむ、彼は料理の助っ人だ!いい海産物があってもいい料理人がいないと意味がないから!」

「……………。」

「ちなみに、もう一人は藤べえといって、薬師だ。具合が悪くなったら、彼のところへ。」

「…………昨日の発言を訂正しますやはり真っ当なことじゃありませんでした!」

「まあまあ、守護神がいたら助っ人がいてもいなくても変わらんって。」「気分的にかなり心配です!」

「道中でまむしにあったり熊がでたり谷に落ちそうになったりなんて起きないし、大丈夫だって。」

「それは………嫌な予感しか………。」




結局、道中でまむしにあったり熊がでたり谷に落ちそうになったりしたが誰一人落ちずに全員若狭にたどり着いた。

「ほうら若狭だ、何にもなかったでしょ?」

部下の服装はボロボロ、荷物は谷底に落ちるなどして減り最初の半分以下、みな疲れきった顔をしている。

「ええ…………(いいことが)なにもありませんでしたね………。」

うんうんと一人頷いてから亥佐木麻呂が言った。「今日はどっか泊まって明日にでも探そう。あと霧太郎、海産物も頼んだ。」

「へっ、良い食材がありますんでな、腕がなります。」

なんだかんだで大活躍の助っ人二人であるが、そもそも始めからちゃんとした助っ人を呼べば良かったのではないか。


次の日朝早くから亥佐木麻呂は身支度を整え砂浜に出る。

「いくぞ、我ら砂浜探検隊!」

「おー………。」

朝早く無理やり起こされた部下は完全に乗り気ではない。

「よし、どっちへ向かおうか。」

「……………え?もしかして検討とかついてないんですか?」

「そんなことはないよこのあたりだ。」

「………………。」

「…………よし、左に行こう。」

「……………。」

「左になかったら右にいけばいい!」

「………………。」

亥佐木麻呂はそんな部下の気持ちをなんとなく感じ取ったがあえて無視した。

「ひとまずそこの洞窟だ!」

亥佐木麻呂が近くまで行き中を覗くと、暗くて奥が見えない。かなり長く続いているようだ。

「もしもし、おじさん、その奥は危ないよ。」

近くにいた二人組の少年が声を書けてくる。漁師の息子だろうか、竿を持っていた。

「いや、探し物をしていてね。」

「何をお探しで?」

「や、ねぇ……。」

事の顛末を二人に話す。

「でも、その中は何もないよ。ただ危険なだけさ。」

「よし、入ってみよう。」

「あ、あの……聞いてました?その中には何も……。」

「たとえなにもないとしても!危険に挑む!それが漢だ!」

「え…………。」

「と、いうわけで行ってきます。」

引いている二人の子ども漁師と、周辺を散策している部下を置いてきぼりにしてずいずいと暗い洞窟に入っていく。

入ってすぐ、いきなり分かれ道にぶち当たる。

―………よし右だ!

何の根拠の無い自信とともにさらに奥へ。凸凹した道を進むと、辺りが若干明るくなって台座と、その上に手のひら程度の大きさの赤い珠が見える。近づいて手に取ると、それ自体が発光しているようだった。

―これは…………よくわからないけど多分潮みつの珠……。

とすると反対側にもあるのではないかと思い、反対側にいくと今度は青い珠があった。

―……危険はなかったけどへんな珠があった。ひとまず持ち帰るか。多分いいものか目的のやつだし。違ったら誰かにあげよう。


洞窟を出ると、すでに二人の子ども漁師の姿はなく、辺りを捜索中の部下だけだった。

「なんかみつけたぞおおおお!」

亥佐木麻呂が叫ぶと部下が一斉に集まってくる。皆の視線が亥佐木麻呂の持っている2つの珠に集まる。

「綺麗な珠見つけた。」

「それが………………潮みつ、潮ふるの珠ですね!」

「さあ?」

「え?」

「よくわからないけどきれいだから持ってきた。」

「えーっと神様が舞い降りて手渡されたとかいうことではないんですか?」

「いや全然。とりあえず、掲げてみれば………………おお!」

赤い珠を掲げたとたん、急に潮が満ちてくる。青い珠を掲げると反対に潮は引いていく。

「これかも。」

「かもじゃなくてそうですよ!こんな早く見つかるなんて!」

「面白いのでこれで遊んでいこう!」

また赤い珠を掲げると潮が満ちて、青い珠を掲げると潮が引いて、また満ちて、引いて、満ちて、引いて、満ちてザブーン。

満ちてくる拍子に大きな波が立って亥佐木麻呂と部下に頭から大量の水を浴びせる。




そして、気がつけば亥佐木麻呂の手から二つの珠は消えていた。

「あ、波にもってかれた………。」

「え………。」

「…………………。」

「…………………。」

大慌てで周辺を探すが見つからない。いつの間にか日も暮れてきた。水平線に太陽が浮かぶ。

そして海に向かって叫んだ。

「太陽のばかやろぉぉぅ!」

「佐木麻呂様のばかやろぉぉぅ!」

その様子を、離れたところから二人の子ども漁師がほっとしたように見ていた。手には、二つの球を持ちながら。

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