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~TAKETORI~千三百年の時を越えて  作者: 秋実 怜土
13/17

11:2  四肩の阿修羅の刀

地主の片塚麻呂が頼まれたのは、四つの肩を持つ阿修羅の刀。しかし、そんなものは一切合財聞いたことが無い。

「四つの肩を持つ阿修羅の刀、と。はてはて、これはいったいどうしたものか。」

ひとまずとして、部下にきいてみたものの知る人は無し。

阿修羅の刀は、何回切っても傷がつかず、どんなものでも切れるという。

そもそも、阿修羅など伝説のものであって、存在する、見たことがあるなど聞いたこともない。

「まったく、あの姫君はとんでもないものを注文したな。これは困ったぞ。」

なりふり構わず、親戚知り合い部下食事係に馬小屋のお爺さんまで訪ねるものの、知っている人は一人もいない。

自分自身、剣は自信があったので、阿修羅の使う幻の剣となればみてみたくはあったので、何としても諦めがつかない。

「うぅむ刀……刀か…………おおそうだ、剣術の達人がたしかいたはずだ。」


それで思い付き、もしやと思い、剣術の達人と言われる男を訪ねてみると、これがまた堅苦しい男だった。

「これはこれは片塚麻呂殿、このような身なりでの参上を失礼いたす。こちらへお上がりください。」

その後、お茶だ茶菓子だ挨拶だを長々と勧められ、なかなか話を切り出すことができない。遂に、話の区切れを見計らって話を切り出す。

「時に、私が阿修羅の使うとされる刀を探し回っているのはしっているな?」

「はっ。失礼ながら、その噂はわたしめの小耳にも挟んでおります。」

「今回訪ねたのは、そのことについてだ。どんなにささいなことでもいいから、知っていることはないか。」

「はっ。………これは私が山へ修行に出かける時のことでした。その時に、遠く山奥にある鳳凰山に、阿修羅が住んでいる、というのは聞いたことがございます。」

「なるほどなるほど、鳳凰山とな。それなら私も聞いたことならある。場所はわかるか?」

「ここから東へ五十里、北へ十里程進んだ後山を三つ越えた先、と聞いております。」

「それはそれは。どうもありがとう。」

顔は澄まし顔だが、本当は叫び出すほど嬉しい。なにせ、ようやく手がかりが掴めたのだ。

そういってからすぐさま屋敷へと向かう。もちろん、その男への褒美も忘れずに。

「聞いたぞ聞いたぞ鳳凰山だ、すぐに準備を!」

「え・・・はっは、今すぐに整えましょう。」

ことの起承転結がよくわからない部下たちは不思議な顔をしながら準備を整えていく。

あれやこれやと取り揃え、道の噂を聞きつけて、これも必要あれも必要、二日もたてばちょっとした引っ越しぐらいの荷物になっていた。

それをみた片塚麻呂は一言、

「これはこれは大変な荷物だこと。」

部下も流石に荷物の量に驚いている。

片塚麻呂がいう。

「ふむ、ではこうしよう。半分のものは荷物の運搬、半分のものは屋敷の管理ださぁわかれぃ!」

パン、と手をたたくが、誰も動こうとしない。皆、道中や阿修羅に殺されると思い、行きたくないのだ。

「ほれ、なにをやっている!」

再度手をパン、パンと叩くが、やはり誰も動こうとしない。

終いに、痺れを切らした片塚麻呂は、適当に部下を選んでいく。

「権兵衛!お前はこれを持ちなさい。」

「へぇ!私ですか!」

「なんちゅう顔をしとる。ほれ、ぼけっとせんで!」

ため息をつきながら荷物をもつ。

「次!梁太郎!お前はこれを持ちなさい。」

「ああ神よ!」

「何を祈っとる。ほれ、これを持ちなさい。」

こうしている間に、あっという間に夜になってしまった。

「あれまぁ。これは出発は明日だな。」


次の日、一行は出発をした。部下は、ため息をつきながら荷物を運ぶ。陽気なのはだけ。

その御一行をみた人は、引っ越しと葬式を一緒にやっているのかと勘違いしたという。



月日がたつのは早いもので、あっという間に半年程が過ぎ去った。一行は、道に迷って北へ南へ西へ東へ、山を登り山を下り、川を上って川を下って。迷いに迷った挙げ句、とうとう鳳凰山の手前まで到着した。

鳳凰山は真っ赤な大地に、灼熱の日差し。草木は一本も生えず、とても人が住むような場所とは思えない。

「やったぞ!遂に鳳凰山を見つけたぞ!」

片塚麻呂は一人声を上げる。部下もそれにつられて、というのと散々引っ張り回された旅が遂に終わるというので歓声をあげる。

片塚麻呂は部下のそんな気持ちに気づかず、一緒に喜んでいるものだと勘違いしてさらに上機嫌に。

そのまま元気に前進したのも束の間、一時もたたないうちに一行は完全にへばっていた。

「これはこれはまったくもって大変な暑さだぞ。木陰もないし、どうなるのだろう。」

部下も完全に意気消沈。

さらに一時がすぎ、もはやこれまでかと思われたその時に、部下が洞窟を発見する。

「洞窟だぁ!洞窟があったぞ!」

すぐさまそれは片塚麻呂に伝わり、洞窟へ向かう。

「よくやった!きっとこれは阿修羅の巣だ。」

「し、しかしながら出会い頭にいきなり襲われるということはないでしょうか。」

「大丈夫だ!そんなことはない!と信じよう!」

最後の一言を聞いたとたん、部下は一気に青ざめた。

「さぁ進むがよい!先に行くのだ!」

「ひ、ひぇぇぇぇ!」

「情けない声をだすでない。ほら、ほら!」

「片塚麻呂殿が先にいってくださいぃぃぃ!」

「大丈夫だ!もし襲われても私が一本刺しにしてやる。」

「ならなおさら先頭を!」

こんな争いをしていては先に進めないと思い、ついに片塚麻呂が折れて先に進む。

中は薄暗いが、ところどころ松明が置いてある。

少し進むと、道が二つに分かれている。

そこでどちらに進むかでまごついていると、

「そこにいるのは誰だ。」

と低い声がかかる。さらに、道の奥から人影のようなものが見える。

「ひ、ひぇぇぇぇ!」

片塚麻呂も部下も一緒になって悲鳴をあげる。

その人影を見るなりびっくり。

腕が四本、目が3つ、おまけに身長は二倍も在ろうかという巨体。

ほとんどのものが腰を抜かした。

「ふむ、客人とみた。長旅ご苦労であった、ひとまず疲れをいやすが良い。」

阿修羅は道の奥へ進んでいく。

すぐに襲われることはないとわかり一安心。しかし、まだまだ警戒を解かず、おそるおそると阿修羅についていく。

道はさらに暗く、まるで地獄へ続いているようだった。

歩くこと約五分、ついた場所はまるで極楽のような場所だった。

そこは明るく広々としていて、水が流れてせせらぎの音が聞こえる。

「ひとまず、ここでやすむがよい。わしは用事があるので、失礼。明日には戻ってくる。」

そういって阿修羅は出て行ってしまった。

皆ほっとしたのか、その後は飲めや歌えやの大騒ぎ。

しかし、すこし時間が立てば皆疲れているのか寝に入ってしまった。


次の日、起きると目の前に阿修羅がいた。

「おぅ、目が覚めたか。」

驚いて飛び起きた片塚麻呂は、目の前に阿修羅がいることに気がつき腰を抜かしかける。

「は、はぃ。」

「突然だが、人間がここまでやってくるのは珍しい。何か、そうとうの理由があってとみた。何を理由にここまでやってきた。」

「実は………。」

はここまでのいきさつを話す。

「ふむ、なる程なる程。そのかぐや姫とやらはそうとうなのだな。あの剣はなかなか使い勝手が良かったのだが…………………うむ、よかろう。持って行くが良い。儂とて、半年かけてやってきた客人を無碍にはできんからのぅ。」

「あ、ありがとうございます!」

片塚麻呂は額を地面にこすりつけて感謝感激。

その後、刀の入った箱を渡される。それを見るなり大喜び。飛び上がって喜ぶとはまさにこのこと。終いに踊り始めた。

「ここから帰るのも大変であろう、京まで送ってやるぞ。」

この提案に一同大喜び。流石のも、帰りの道中を心配していた。

一番最初に荷物をもたされていた権兵衛は、涙ながらに仲間たちとはしゃいでいた。

「うむ、ではこの箱のなかに入るがよい。」

そういって阿修羅がとりだしたのは大きな大きな箱。家が一軒すっぽり入ってしまいそうな大きさだ。その大きさに圧倒されながらも皆、馬も一緒におそるおそると箱に乗り込んでいく。

片塚麻呂はもらった刀の箱をもって。

「それでは何かにつかまっておくがよいぞ。そーれ。」

阿修羅はその家一軒分ぐらいの箱を軽々と持ち上げて勢いよく洞穴から飛び出していく。

はやいのなんのって、まさに風のよう。

そんなとてつもない速さに揺られて中では頭を打つやら荷物が飛び出すやらの大騒ぎ。

馬はわけがわからず叫びだし、荷物は何も言わずに飛んでくる。

いくら早いとはいえそろそろ乗ったことを後悔し始めたころ、ようやく、ドスンという衝撃とともに到着した。その衝撃ときたらすさまじいもの。皆、馬も荷物も天井に頭をぶつけ、そのまましりもちをついた。

「到着したぞ。」

阿修羅の声で皆外に出るころにはふらふらになっていた。

「あ、ありがとうございましたぁ・・・。」

「うむ、ここから西に1里進めばすぐに都じゃ。気をつけるがよい。」

「は、はい・・・」

そういって箱をもって阿修羅は飛び去っていってしまった。



五分もたてば皆グロッキー状態から復活、揚々たるその道中の陽気なこと。

一時間程西へ向かえば、そこはもう都。

片塚麻呂は着替えもせずそのままかぐや姫に会いに行った。

「ご注文の品をもって参りました。」

意気揚々と屋敷の庭へ行く。






・・・え。

絶対何かの間違いだよね?

だって、適当に頼んだんだけど。特にこの人は確か想像で言ったはずなんだけど。

・・・・・・偽者だよね、うん、偽者だね・・・・・・。


「片塚麻呂殿、えぇと四つの肩を持つ阿修羅の刀、見せてもらえますかの。」

片塚麻呂がお爺様に箱を渡し、さらにそこから私が箱を受け取る。

・・・ああ・・・・これあかんやつだ・・・。

まぁ、まだ偽物の可能性もある。

「では、この刀でそこの石灯籠切ってみてください。」

そういって片塚麻呂に刀を返す。片塚麻呂は満面の笑みで刀を受け取り、そのまま石灯籠に刀を振るう。スパッと石灯籠が切れ、上半分がゴトッと地面に落ちる。

「これは決まりですな、かぐや姫もよろしいですね?」

・・・え。

待って絶対何かあるはずそうしないと竹取物語として・・・。

まだなにかないかと、箱を見ると、「三眼二肩ノ阿修羅ノ刀」と書いてある。

これは・・・よし、

「この刀は私が注文したものと違います。私が頼んだのは、四肩ノ阿修羅ノ刀ですが、これは三眼二肩ノ阿修羅ノ刀です。というわけで、お帰りください。」

「はぁ?」

わけがわからないといったように、私につめよる。

「な、何を馬鹿なことを!これが阿修羅の刀には変わりないでしょう!」

「いうなれば、ベンツのSクラスを頼んだらCクラスがきたようなものです。」

「な、何を言っている?べんつのえすくらすとはなんだ。」

「ああ、ここにはまだベンツはありませんでしたね。では、うなぎの特を頼んだら松がきたみたいなものです。あなたはそれで納得しますか?」

「い、いや、しかし・・・!」

「お帰りください。」

「そんなばかな!」

「お帰りください。」

必死の形相の片塚麻呂に私ははつめたく言い放つ。

・・・危なかった。完全に詰んだかと思った・・・。

刀を投げ捨て、なんともいえない憤慨した表情で屋敷をでていく。


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