シナリオ1 06騎士との出会い。
『ふぅ、少しばかり傷が痛むのう。軽く手当をしたいが此処では少し危険じゃからの。
もう少し歩いて安全なところを探さんと………。』
痛む体を引き摺りながらコウガは街道を進んでいく。
手当を使用にもここは草原な真ん中の街道。
見晴らしもよく隠れる所はないが逆を言えばコウガも隠れる事が出来ないという事だ。
問題はないと思うが疲労している現状では襲われることも考え休むことは難しいだろう。
『都市が近いことは不幸中の幸いじゃのぅ。
この調子なら夕暮れまでには十分到着するじゃろう。………何事もなければ、な』
眼前に広がる草原と街道、その先にある都市を見つめ足を進める。
しばらく歩いていると前方から何やら音が聞こえて来る。
『何やら音が。これは、蹄の音?…ふむ、音の響きから2頭かの?
……そう言えば結構歩いておるが一人もすれ違わんかったの。』
そんな益体もない事を考えている内に蹄の音はどんどん大きくなっていく。
するよ予想通り2頭の馬とそれに騎乗している人物たちが見てきた。
一人はスタミナよりお早さを重視した颯爽とした馬に乗り
金属製の軽鎧を身に纏い、銀色に光り一見しただけでも上等な代物だとわかる弓を背負っている女性。
もう一人は女性の馬とは逆でスタミナを重視した頑健とした黒馬に乗る男性…だと思う。
フルプレートの鎧に身にまとい馬上剣を背負った屈強な男性?だった。
一見バラバラな2人だが共通点があった。
―――急いでいるのだ。それこそ焦ているといっても良いぐらいに。
そんな尋常ではない様子の2人にコウガは僅かに警戒を浮かべる。
鞘を握る左手に僅かに力がこもり、『氣』が体中を巡る。
知ってか知らずか二人はそんなコウガを見つけるなり馬の速度を緩めながら近づいてきた。
「申し訳ない。君は旅人だろうか?」
フルプレートの人物が低い声で問いかけてきた。声の調子から男であろうと思える。
男性の声は少しばかり焦っているのか語気が強くなっている。
「そうデスがそれレが?」
コウガの答えに少しばかり落ち着いたのか男性が少し語気を落ち着け尋ねてくる。
隣の女性はコウガの事をと言うよりもコウガの背格好を見て何か考えているようだ。
「あぁ、この先でゴブリンライダーの群れ(チーム)が現れたと聞いてね。
馬車が襲われたらしくてね。乗っていた剣士が応戦して事なきを得たみたいだが、その戦士が馬車から振り落とされたらしくてね。
私たちはその人物の救助をしに行くところなんだ。
君は何か―――「ねぇ、ちょっといい?」」
男性がの言葉を遮り女性が声を上げる。
コウガと男性の視線が女性に向く。
その女性は少しばかり訝しげな表情を浮かべながらコウガを見てさらに声を続ける。
「その『皇国』風の衣装と微妙なニュアンス。貴方がコウガさん、なのかしら?」
「そ、そうデすが。なぜ私ノ名前を?
失礼でスが、初対面であっテますヨね。」
見ず知らずの女性の口から自分の名前が出たことに驚きながら答える。
その様子に女性は少しばかり口元を緩めた。
「やっぱり。聞いていた特徴と合致するし、何よりこんな特徴的な人物は他に居るとは思わないからね。
ほら"アシュレイ"目的の人物よ。真逆とは思ったけど自力で何とかしたみたいね。」
女性は隣の"アシュレイ"と呼ばれた男性に向かってコウガを指さしていった。
男性は女性の言葉にわずかに息を呑みコウガを観察するように見た。
―――かと思うと何処か納得したように頷いた。
「なるほどな。確かに良く鍛えられている。
―――現に今も私たちに警戒を解いていないしな。」
その言葉に今度はコウガが驚く。
警戒はしているといっても気付かれない位にほんの僅かだ。
それを感じ取れるということは目の前の2人は相当の実力者ということだろう。
無意識だろうが警戒のレベルを上げたコウガに苦笑を浮かべながら女性はまた口を開く。
「馬鹿、警戒させる様な事を言うんじゃ無いわよ。
コイツがごめんなさいね。悪気だけはないのよ。」
「何だその言い方は。
…とは言え済まなかったな。警戒させるつもりなんてなかったんだが。
私たちは【騎士ギルド】から来た者だ。
外門の所で君の話を聞いて急いで救助に来たんだ。」
そんな女性の言葉に男性は少しばかり気を悪くしたのか声からそんな雰囲気が漂ってくる。
とはいえ男性は自分が【騎士ギルド】から来たのだとコウガに説明する。
「【騎士ギルド】デスか。
…まぁ、それはそレとして救助あリがとうござイます。
少々疲労ガ酷くて四苦八苦しテいた所でシたので、助かリます。」
聞きなれない言葉に僅かに首を傾げながら二人に向かって礼を言う。
「ご存知カと思いまスが。コウガ・サブロウと言イます。
………それでアなた方は?」
改めて名乗りながら、甲賀は2人に尋ねる。
すると2人はお互いに顔を見合わせ、男性はフルフェイスのため分からないが女性の方は「しまったっ!」といった顔をしていた。
「済まない。騎士たる者が先に名乗らせてしまったな。
私は"アシュレイ=ウェイ"騎士ギルド所属一年目だ。
そしてこっちが―――」
「"レミ=ウェンデル"よ。よろしくね。」
「と、いうわけだ。
―――で、幾つか聞きたい事があるんだが。」
そうして2人…"アシュレイ"と"レミ"は名乗った後真剣な顔をしてアシュレイがコウガに訪ねてきた。
「ゴブリンライダーはどうしたんだ?1体は対処出来たと聞いたがもう2体いたはずだ。
そいつらはどうしたんだ?それに君も無事………無事?
まぁ、一応無事なのはどうしてだ?」
二人にとってみればそこが疑問なのだろう。
ゴブリンライダーの群れ(チーム)となれば同数でも苦戦する相手だ。
そんな奴らに遭遇し戦闘に成ったにしてはコウガの怪我は軽傷だ。
逃げたにしても追ってくる感じでもなくコウガ自身も落ち着いていてそのような感じはない。
ならば何故?と思うのも仕方ないだろう。
「あぁ、その事ですか。
1体は狼を仕留め騎手は瀕死まで追い込んだのですが、もう一体が騎手を連れて撤退してしまって。」
コウガが説明すると二人はまた顔を見合わした。
その顔には驚愕というか、驚きの表情が張り付いていた。
「…そうか、俄かには信じられないな。いや、君の実力を疑う訳ではないんだが。
すまないが確かめないと。狼の死骸などはそのままか?」
怪訝そうな顔をしてアシュレイはコウガに尋ねてくる。
疑っているというよりはそれよりなにか気になることがあるのだろう。
「えぇ、私も怪我を負っていましたのでしょうがなく…。
この街道を私が来た方に言った所にそのまま放置してしまっています。」
「……そうか。そういう事なら、よし。」
アシュレイは少し考えた後、レミに向き直った。
「レミ、済まないが彼を都市まで送って言ってくれないか?
私はその死骸を確認してくる。」
どうやらアシュレイはコウガの言った死骸が気になるようで見に行くようだ。
その為レミがコウガを都市まで送り届けることになる様だ。
「わかったわ。でも、どうする?
合流せずにそまま都市まで連れて行く?」
「………いや、できれば合流したい。
コウガさん、その死骸の場所は近いか?」
レミの問いにアシュレイは少し考える素振りを見せたがすぐに合流したい旨を伝えてきた。
そしてコウガにその死骸の場所を尋ねてきた。
「いえ、そこまで時間はかからないと…。
馬ならそれこそ殆ど時間はかからないと思います。」
その答えにアシュレイはまた考える素振りを見せながら何度か頷く。
「よし、なら早速行ってこよう。
レミ、彼を頼むぞ!」
「ちょっと!―――」
言うがいなや彼は馬を走らせる。
その後ろ姿はすぐに見えなくなる。
「はぁ、ごめんなさいね。
悪い奴じゃないんだけど、ちょっと思い込んだら一直線って所があって。」
―――それじゃ、行きましょうか。」
レミは嘆息しながら鐙に足をかけ馬から降りる。
そして苦笑を浮かべながらコウガに謝罪した。
「はい、それではお願いします。
それにしても助かりました。先ほどの戦闘で結構疲労が溜まっていまして、都市に着くまで結構危ないかと思っていました。」
「それは災難だったわね。
あ、そうだコレをあげるわ少し位は楽になるかも…。」
コウガの話を聞きレミは自分のアイテムポーチから瓶に入った薬液の様な物を取り出し渡した。
多少訝しながら手に取りレミに尋ねる。
「これは?なにかの薬液みたいですが?
どうすれば…?」
その問がまるで予想外だったのか驚きの表情を浮かべながら
「これは回復薬よ。そこまで良い物じゃないけれど、その暗いの傷なら問題ないわ。
さぁ、ぐいっと飲んじゃって」
と進めてきた。
その説明にコウガは見知らぬものを服用するのは躊躇われるのか少しばかり躊躇している。
―――が、せっかく勧めて貰ったものなので躊躇いながらも瓶の蓋を開け中身を一気に飲み干した。
『―――南無三!?』
飲んだ直後はそれほど変化はなかったが暫くすると体の疲労が少しばかり楽に成った事に気づいた。
「おぉ、これはすごいですね。僅かですが疲労が消えました。
大陸にはこんな物があるんですね。」
「大陸にはって、『皇国』にはポーションは無いの?」
コウガの驚き様に少しばかり呆れながらも聞き返す。
その問にコウガは少しバツが悪いようん苦笑を浮かべた。
「無い訳ではないのですか、結構高価で。
基本は薬草か術、最悪自然治癒するしかないですね。」
「そ、そうなの。(『皇国』って、そういった方面では結構遅れているのかしら?)」
そんな取り留めのない会話をしながら二人は街道を進むのだった。
しばらく進んだくらいだろうか、後ろから幾つかのの蹄の音がして来た。
何やら焦っているのだろうか?かなりの速さで二人に狭てきている。
「追いついてきたのでしょうか?かなり急いでいるようですが。
それにしては足音が多いような?」
「―――いや、この蹄の音はあいつの馬の蹄の音じゃない。」
コウガの問にそう言うなり弓を持ち、矢筒から一本取り出し構え振り向く。
すると
「はっはぁ!くたば―――!?」
後ろから来たのは汚らしい格好を凶刃を振りかぶった賊だった。
その賊が言い切る前にレミは矢を放ち賊の眉間を見事貫く。
賊はその凶刃を取り落とし力なく馬から崩れ落ちる。あの様子だと仮に生きていても無事では済まないだろう。
『―――お見事!』
思わず自国語で賞賛してしまう。実際それほど見事な射撃だった。
とはいえ盗賊が今倒した一人という訳もなく…。
「おい!やられちまったぞ!?」
「気にすんな!…それより」
「あぁ、女が居るな!結構な上玉だぜ!全くついてやがるぜ!?」
と他に2頭の馬に乗った三人の盗賊がやってきた。
一人は長斧を馬上から構えて馬で走ってきた
もう一人は特に何も武器を構えず馬を操っている。
最後の一人は馬を操っている盗賊の後ろに乗り矢を番えている。
『………また厄介事かい!?』
そんな現状を見てコウガは一言叫ぶのだった。