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シナリオ1 03船上にて:b

海魔クラーケンの触手が船に絡みつき「ミシッ、ミシッ」と嫌な音が聞こえてくる。

だが全ての触手が船に取り付いている訳ではない。2本ある大きめの触手の1本が

餌を探しているのかそれとも邪魔な物を払おうとしているのか甲板を縦横無尽に蹂躙している。

運の悪い事にその一撃が船長に向かう。


「キャプテン!危ない!?そっち行きましたッ!」


観測台から現状を確認していたジェクトが声を上げる。

コウガはその声に反射的に飛び退きその一撃を回避することが出来た。


「―――ック!?これは。

―――っ!?セ、船長さん!?」


しかし船長はその声にハッとし触手の方を見るが、もはや眼前に迫り回避にはすでに遅く間に合いそうに無い。


「う・・・うごぉぁ!?・・・・・・や、やべぇ。振りほどけ無ぇ・・・。ぐぁぁ・・・がぁっ!?」


船と同じほどの大きさを持つ海魔の触手だ。その力は想像を絶するものだろう。

船長はなす術も無く捕まり締め上げられる。

――ギリッギチッ・・・。という音が船長の体からし、その口からは苦悶の声が上がる。


「(うぉ、やばい意識が・・・・・・。船員を・・・守・・・らないと。)」


意識が朦朧となりながらも船長は己に課せられた責任を果たそうと足掻く。

しかし抵抗の甲斐も無くその意識は限界を迎えようとしていた。――その時


『チェストォォォォォォォオ!!!!?』


――――――――斬ッ!!!


そんな声と音と共に触手から力が抜け船長がその締め付けから解放される。


「――げほっ!・・・ハァ、ハァ、ハァ。な、何が?」


目の前には刃を一振りし刃に付いた体液を飛ばし鞘に収めたコウガが居た。

刃を収め終わったコウガは船長に手を差し出し立つように促す。


「船長サん、ご無事デすか?救出が遅レ申し訳ありませン。

さ、手を――。」


船長は黄河の手を取り何とか立ち上がることが出来た。

しかし先ほどのダメージが尾を引いているのか足に力が入らないのか柱に寄りかかっている。


「すまねぇ助かった。まさかこんな事になるとはな。

・・・・・・しかし《クラーケン》か、また厄介な奴に当たったな。」


「厄介、デスか?確カに巨体でスが斬るノハそれ程難しくハ無いと思うノですが。

最悪、取り付いテいる触手ヲ全て斬り落セば何とカナるのでは?」


船長の言葉にコウガは疑問を浮かべる。

先ほど触手を斬った手応えでは今ある触手を斬り落すのはそれ程・・・いや、かなり容易な事だと判断できる。

しかし船長はその言葉に渋い顔をする。


「奴の触手を斬り落すのは簡単だ。正直鈍らな刃でも斬る事は出来らぁ。

だがよ、奴はそんな脆さを帳消しにするほどの厄介な能力があるんだよ。

―――ほら、見てみろ。」


船長は先ほど斬り落された触手の方を視線で指すとジュクジュクといった音を立てて液体へと溶けていった。

それだけではなくその液体に触れた箇所が急速に腐食し腐り落ちていった。


「腐食性ノ溶液でスか?こレはまた厄介な。つまリ迂闊に斬り落スと被害が広マって立ち行かナくなってシマう訳デスか?」


「それに―――あっちだ。」


更に目を向けると根元から斬り落された触手が恐ろしい速度で再生―――いや、復元していった。


「――――――ゲっ!?」


思わずそんな声が出てしまう。

まぁ、それもそうだろう。つまり斬り落せば船にダメージが入り何もしなくても海の藻屑。まさに進退窮まったといった所だ。


「何とかする方法はあるかの?流石に海の藻屑は勘弁願いたいんじゃが。」


流石にコウガの口調も固くなる。

しかしながらその目は一切の諦めを宿していない。何としてもこの困難を乗り切るという決意が見える。

そんなコウガの様子を確認して船長は「―――ッフ」と笑みを浮かべる。


「何とかする方法はある。・・・・・・というか此れしかない。」


「―――そレは一体どノ様な?」


「奴がどれ程のタフさが有ろうと胴体に風穴が開けば流石に動きが止まるだろう。

その隙に張り付いている触手を斬り落して逃げるしかない。」


「そレは・・・流石に不可能なノでは?

あの巨体ヲ何とカするノは難しいですヨ?大砲も流石に船首に向ケる事は出来無いと思うのデスが。」


船長の話にコウガは懐疑的な意見を述べる。

そんなコウガにまた「―――ッフ」と笑みを浮かべる。


「それがな、奴が船首に張り付いているって言うのがミソだ。

この船の船首にはな特殊な装備が積んであってな。それを起動させれば何とかなるはずだ。」


その言葉に少し考え


「そレを起動さセるには如何すればイイのですか?直にでも出来るノですか?」


そう尋ねた。実際、半信半疑―――いや、僅かな可能性に掛けるといった所か。


「起動は直にできる。

―――が、動かす為のスイッチがあそこだ。」


コウガの問いに船首を指差した。

そこには《クラーケン》の巨体とその直前に1m大の踏むタイプのスイッチがあった。


「アレを踏メばイイのか・・・。スこし厳しいデスね。」


スイッチのある船首に辿り着く為には対応に借り出されている船員たちの間と、また暴れだした触手を潜り抜けなければならない。


「悪いが辿り着いてくれなきゃ困る。・・・本当にそれしか方法が無いからな。

船員の方はこっちで何とかする。」


すると船長は息を思いっきり吸い込み声を発する。


「よぉーし、お前ら!この坊主が『アレ』を動かしてくれるってよ!?

全員道を確保してやれ!?」


「「「「―――アイアイ、キャプテン!!!」」」」


船長の声が響き、それに答えるように船員たちが返事をしコウガの為に道を確保する。


「此れなら行けるだろう?頼んだぜ」


『然り、承った!』


「は、何言ってるかわからんよ。だが、頼んだぞ!」


船長はコウガを見て得意げに笑みを浮かべる。

その様子を見てコウガは今一度気合を入れ直し目標を見据える。

脚に『氣』を巡らし一気に―――駆ける!


その速さはまさに疾風迅雷と言っても良いだろう。

そんな速度で船首に迫るコウガを驚異と感じたのか《クラーケン》の触手が襲い掛かる。


『―――――疾ィッ!』


―――――――ザンッ!


迫る触手を切り落とし更に駆ける。

あと少し、ほんの少しで船首に到達する。―――しかし!


―――――――ブウォン!


大きな触手の内の1本がコウガの迫る!


『――――クッ!』


触手がコウガを払い飛ばそうする瞬間、脚に巡らした『氣』を活性化させる。


『―――甲賀式走技法:跳び蝗!!!』


踏み込んだ瞬間、活性化した『氣』が爆発する様な衝撃を生む。

その衝撃を更に踏む事で通常では考えられないような跳躍力を生み出す。

そうすることで迫る触手を飛び越した!


『デェェェエイ!!!?』


その跳躍を利用し船首にあるスイッチの上に着地……激突?まぁ、とにかく機構のスイッチを入れる。

そしてギミックが起動する。

衝角が回転し唸りを上げながら突き出され《クラーケン》の胴を無慈悲に抉る!


その絶大とも言える攻撃を至近距離かつ無防備に受けた《クラーケン》は体液を撒き散らしながら海面へと倒れていく。


『おわっ!腐食液が。―――いかん、退散退散!』


船首に居るコウガは振り散る腐食液に危険と感じ即座に退避する。


海面へと倒れゆく《クラーケン》は最後の足掻きなのかそれとも溺れる者は藁をも掴むという心情なのか

太い触手の1本をメインマストへと絡みつかせた。


「やべぇ!転覆する!あの触手をなんとかしねぇと海に放り出されるぞ!」


大型船とは言え《クラーケン》を支える事なんて出来ない。

海面へと倒れていくに連れ船も傾いて行ってしまっている。


「私ガ行きまス!」


不安定な甲板をメインマスト目掛けて駆ける影が一筋。―――コウガだ。

メインマストのま下まで到着するとその勢いのまま柱に足をかける。


『―――甲賀式・走技法:走り猪』


今度は『氣』を爆発させるのではなく足先から放出するように操作する。

それにより先程の様な跳躍力ではなく前方・・への突進力を獲得し柱を駆け登ることを可能とする。

メインマストを掴む触手付近まで行くと跳躍し《クラーケン》の触手を切り裂いた!


『―――――――クッ。』


切り裂いた瞬間、ほんの僅かに飛び散った体液がコウガの腕に付着してしまう。

付着した体液が腐食液となり服を溶かしコウガの腕を侵す。

その痛みのせいで体勢を崩してしまい無防備に落下してしまう。


『――――――ぐぁ。―――クゥ。』


何とか受け身を取ることが出来た様だが流石に高度から落ちた為にダメージを回復しきれないといった感じだ。


「おい!大丈夫か!?しっかりしろ!

―――その腕は!?おい早く水で洗ってやれ!」


落ちたコウガを心配し駆けつけた船長は腐食液のかかった腕を見ると洗い流すように他の船員に指示を出す。

船員立ちは直ぐに真水の入った樽を持ってきて手早くコウガの腕を洗い流し処置をした。


「せ、船長さン。助かりマシた。

でも、《クラーケン》はドウするンですか?スグにでも再生して追っテきそうナンですが。」


処置を終えて落ち着いたのかコウガは《クラーケン》の方に目を向ける。


流石に胴に大穴が開く程のダメージは許容外なのか斬り落とされた職種のように即時復元はしていない。

しかしながらゆっくりとだか確実に復元して言ってる。

そしてその目には明らかな怒りが宿っておりこちらを睨んでいるようにも感じる。

動けるまでに成ったら迷わずこちらを追ってくるだろうと予想できる程だ。


「ガハハハ!!!それなら大丈夫だ!

お前ら!樽はしっかりと流したか!?」


「…………樽?」


コウガが改めて《クラーケン》の方に目を向けると幾つかの樽が《クラーケン》の方に流れている。

それを確認した船長がコウガの元を離れ旋回砲の下まで行く。


「おう!用意は出来たか?」


「準備万端ですキャプテン!いつでも打てます」


少し説明しよう。

旋回砲とは船の側面についている大砲より小口径の砲なんだ。

つまりそこまで火力はない。

しかしながら取り回しが良い為、事命中精度という意味で大砲よりは上なんだ。


「ようし、しっかり狙えよ。狙い、用意!」


船長の声に船員は狙いをつける。―――――樽に。


「狙いよーし!」


「よし!撃てぇぇえ!!!」


――――――ドォォォン!!!?


小口径とは言え砲は砲、轟音を生み出し砲弾を射出する。

そしてそれは願い違わず《クラーケン》のもとに流れ着いた樽に命中する。



――――――――――ズドォォォォォン!!!!!!


砲撃よりも何倍も大きいまさに雷鳴とも言える程の轟音と巨大な水柱が沸き起こる。


「あレは、凄イですね。一体何が?」


衝撃と水しぶきで目を細めながら半身が吹き飛んだ《クラーケン》を見ながら船長に尋ねる。


「あの樽はな、火薬が詰まってたんだよ。か・や・くがな。

あれだけ密集しているんだ一個にでも火がつけば連鎖的に爆発していくだろうよ」


船長は得意げに笑みを浮かべながら言った。


「……さて、今のうちに逃げるか。

おまえら!フルセイル!最高速でトンズラするぞ!!」


笑を消すと真剣な顔になり船員に指示を出す。

そんな船長の様子にコウガは怪訝な表情を浮かべ尋ねる。


「倒したんじゃナイんデすか?

半身吹き飛んでますシ……。」


そう言って《クラーケン》の残骸に目を向ける。


「―――――ゲッ」


目を向けた残骸はほんの少し、ほんの少しだが復元していた。


「この程度で倒れるような奴ならもう討伐されているよ。

つまり奴はほんの僅かな残骸になっても復活するんだ。こうやって時間を稼いで逃げるしかねぇんだよ」


「ま、何れブッ倒してやりたいがな」


そんな船長の言葉を残して船は残骸を残し去っていくのだった。




――――――数日後、海洋都市『シーリス』の港


《クラーケン》のせいで少しボロくなった船の前に二人の人影がある。

左腕が無くなった袴服の青年に提督服でキャプテンハットを被っている人物。

コウガと船長だ。


「お世話にナリましタ。何とか無事に大陸マで着く事が出来ましタ。」


そう言ってコウガは船長に向かって頭を下げる。

船長は少しバツが悪そうに頭を掻いて苦笑を浮かべる。


「いや、俺も悪かった。まさか《クラーケン》に合うとはなぁ。

お前さんのお陰で思ったより被害は少なかったしコチラの方が助かったよ。

これ、持ってけよ気持ちばかりの礼だけどな」


一冊の冊子をコウガに渡す。


「コレは……"都市連合ガイドブック"?

"ガイドブック"………って、何でスか?」


聞き慣れない言葉にわずかに首を傾ける。

船長はそれにまた苦笑を浮かべながら


「まぁ、案内書みたいなもんだよ。

行く所があるんなら予め知っておいたほうが良いだろう?」


冊子の説明をする。

まぁ、コウガに取って見ればここは初めての土地だ。

そういった事も考えて船長はガイドブックを渡したんだろう。


「…これは、有難うゴざいマす。有効に使わサせてイただきます。

……でハ、そろそろ行きますね。」


再度、船長に対して頭を下げた。


「それじゃぁ達者でな。また一緒に海に出れることを祈ってるぜ」


「はい!」


下げていた頭を上げコウガは船長に背を向け歩き出す。

船長はそんなコウガの背を見ながら笑みを浮かべ見送った。

しばらくするとその笑みを消し船員たちに指示を出す。


「よしお前ら船の修理が終わったらまた海へ出るぞ!

今の内に休んでおけよ!」


「「「「「「「「アイアイ!キャプテンッ!!!」」」」」」」」


船員の声を聞きふと考える。


「そう言えばアイツ、キャプテンって結局呼ばなかったな」


そんな益体のない事を考えるのだった。

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