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第九話 ワル、かくも危ない旅行へと①

「太郎、良い景色じゃろ?」

「ああ、うん……そうっスね。メルー様……」


「いやー、ゆっくり休みたいなーとか思ってたら、こんなにもちょうど良いタイミングで旅行のお誘いが来るとは思ってなかったぞ! 愉快愉快」

「……そうっスね。メルー様……」


「どうしたんじゃ太郎。元気が無いぞ?」

「自分が置かれている状況が今ひとつ把握出来なくて困惑してます」

「いかんぞ太郎! どんな状況にも柔軟に対応出来んと、我が秘密結社ババリアダルマのナンバーワン戦闘員の座はくれてやれんな」

 どうでもいいわそんなもん。

 この幼女後でシメる。


 俺は今、山道をのんびりと走るバスの中にいた。

 快適なシートが用意された観光バスの最後尾の座席。そこに俺はメルー様とイカルガさんと並んで座っている。戦闘員姿で。

 何故、戦闘員姿なのか? 何故、誰も気にしないのか?

 そんなことはどうでもいいことじゃないか。

 何せ今のバスの中は俺と似たような姿の変人達がひしめきあっているのだから。


 これは慰安旅行。

 正義の味方協会が主催する、箱根を舞台にした温泉旅行なのだった。


 ちなみに俺はよくわからないうちに拉致されてここにいるわけですが。

 横でボリボリとスナック菓子を食べている幼女と、アイマスクして惰眠を貪っているマッドはマジで後でシメます。セクハラも辞さない。


「ていうか、俺らみたいな弱小悪の組織がよくお呼ばれしましたね」

「なんかお呼ばれだと近所のママさん達にイマイチなじめてないママさんが閉塞的なママさんネットワークの旅行に突然呼ばれて戸惑ってるみたいで嫌じゃのう」

「例えが長いしややこしいわ」

「太郎、お前なんでそうイライラしとるんじゃ。つわり?」

「よし、幼女様。今ので俺の怒りがゲージを振り切ったから貴様を幼女として扱う。ほーら、お兄ちゃんの膝に乗っけてやろう。スナック菓子もこの手で食べさせてやるぞー」

「うぎゃあーッ?! やめよ、悪かった! 事前連絡無くて怒っておるんじゃよな。」


 膝の上に乗っけて頭を撫でつつスナック菓子を差し出して見たらかなり嫌がってくれた。

 ああっ、俺のストレスゲージが癒される。こんな幼気な幼女に嫌なことをするだけで、こんなにも癒されるなんて……俺ってばドS?

 メルー様は膝の上からよじよじ降りて、はぁーと疲れたようにため息を吐き出した。

 大体メルー様自身のせいなので俺は同情しないし反省もしないッ!


「よいじゃないか……一応温泉旅行だし、お前も喜ぶだろうと思ってのう……それに結構急な話だったんじゃよ……どうもワシらのこと忘れとったみたいで……」

「ああ、三日前くらいにでも教えられたんですか?」

「いや、当日じゃ」

「扱いが雑ってレベルじゃねーぞッ?!」


 そんなにも俺らの組織は適当に見られていたのか。

 やはり俺がどうにかしてヒーローどもに真なる悪がここにいることを知らしめなければ……!


「あーっくーどーっくん!」

「前から強襲ッ?!」


 俺がウェルカム体勢で構えていたのをいいことに、白い物体がなかなかラインのいいケツごと俺の膝にツッコんできた。

 白く輝く装甲となかなか際どいスカートを着こなした天使がそこにいた。

 なんだ天使……違うブルーシェリフか。ブルーシェリフは何やっても天使だな。あざとかわいい。


「いたのか。二つ名は『あざとい天使』ブルーシェリフ」

「あざと……えっ?」

「不思議な顔されても困るわー、あざといわー」

「んもう! せっかく来てあげたんですよ! そんな風に言わなくていいじゃないですか!」


 そういえば、そもそも正義の味方の慰安旅行なんだから、まあ居るよな。

 幼女とマッドへの怒りのあまり、天使がいるかもしれないということをすっかり忘れていたぜ。


「悪い悪い。ストレスのあまり誰が乗ってるかなんて気にしてなかったぜ」

「乗車の前後関係があるにしても、どれだけ上の空だったんですか……」

「そもそも拉致られて袋詰めで乗車されたからな! 無理矢理!」

「わたしが悪かったです……」


 ブルーシェリフが心底申し訳無さそうな顔をした。

 なんかそれだけで癒されたのでヨシ。

 なんでだろうな、このヒーローからは癒し成分が多量に分泌されているのではないかというくらい、見ているだけで和む。


「まあ、そんなことよりあざとい天使。この体勢は色々な意味で絶対入っちゃってて良い子の諸君に辛く厳しいR-15指定なあれやこれやになってしまうからやめよう」

「う、うん……わかったけど……。君はたまにと言わずよく意味の分からないことを言うね」


 あざとい天使が俺の膝からどきながら、「だからわかるように言ってね?」と首を傾げて言ってくる。

 やれやれだぜ。


「まあ俺も所詮、漫画やライトノベルに染まった悲しい若人だからな……出てくる表現がこういう風になってしまうのは致仕方ないというわけで無理」

「うん、もう少しわたしの知ってる日本語で喋ってくれる?」

「無論、断る。フツーのことしか言わない狂言回しなんてガリほどの価値も無いわ」


 いや、俺はガリ好きですけどね。


「というか、俺は頑張ってる方だよ? 見てみろ、俺の横で惰眠を貪っているこのマッドサイエンティストを……。あらゆるこの世の事情とかをポロリと言っちゃいそうなくらい解説役に向いてそうなタイプなのに、ポジション放棄したかのように何も語らない。そのせいで俺の負担が増え」

「もうやめましょうこの話! なんか悪童君が暴走しちゃうから!」

「平和じゃのう……」


 幼女様も助けてやれよ。

 俺が他人を口先で困らせるの大好きって知ってるだろうに。


「そういえば名前がついたんですよね、悪童君。ブラックメイルでしたっけ」

「ああ。なんかよくわからん顛末から1980年代後半生まれくらいが喜びそうな名前がついた」

「?」

「知らんのならいい。最強のパーツは最後の街のコンビニで買えるということだけ覚えておいてくれ」

「う、うん。それでですね、シャムちゃんとお話しててその話になって、じゃあ後ろの席だしって」

「うん? シャム猫?」


 なんかつい最近どっかで聞いたような。

 俺は首を傾げてから、今一度記憶の大海原に出航してえんやこーらと大物取りを始めていたら、頭部を軽く小突くかれた。

 目の前に立っていたのは、一部ゴスロリ少女だった。今日もネコミミパーカーが輝いているね。


「ハッ、そうだ、純白のパンツ様ッ」

「ッ」


 熟れた林檎のように頬まわりを赤くして、少女はガンガンガンと剣の柄尻で抉るように俺の頭部に突きを打ち込んでくる。

 うん、忘れてたわけじゃないよシャムシール。ちょっとあまりにパンツの印象が強くてね、うん。

 包帯で隠れた目元と、動きの少ない口元からは表情を窺い難いが、余程恥ずかしかったのだろう。

 セクハラしたいけど、これ以上セクハラするとばっさり両断されそうだしやめておこう。


「お前もいたのかパンツ様……いや、シャムシール」

「ッ……悪意を感じる間違え方です……」

「しまった、心でやめると言った側からつい俺の記憶に強烈に焼きついたヴィジョンが悪さを……」


 パンツ=シャム くらいの方程式はもう成り立ってると言っても過言ではないね!


「……お前のせいです」

「あん?」

「シャムちゃんはですねー。ブラックメイルとの決闘で受けた辱めのせいでー、なんと」

「……お嫁にいけない体になりました……」


 いや、いけるよ。

 世の中の男女なんて、もっと凄いことしてもお友達とか言い切っちゃたりするよ……。


「……責任を取って下さい」

「what?」

「……お嫁さん」


 顔を真っ赤にしながら俯いて言うんじゃねーよ!

 男心がときめきメモリアルしちゃうだろうが!


「幸せにします。式は小高い山の上の温泉旅館でお願いします。今夜は寝かせないぜグヘヘ」

「いやいやいやいやいや、太郎お前、何勢いに乗せられておるんじゃ!?」

「はっ、しまった。『責任は取るもの』という俺の中の信念が容易くイエスを……!?」

「違う。今のイエスは完全に欲望に流されたイエスじゃった。信念とかなかった」


 チクショォォォォォッ!!

 俺だって若い男の子なんだから女の子から寄せられた好意には素直に流されたいんだよォォォォッ!!


「略奪愛……なるほど、そういうのもあるのか……」

「なんか言ったブルー?」

「ううん、何も言ってませんよー。それでシャムちゃんへの本当の答えはどうするの?」


 ねえねえー、と肘で俺の装甲を小突きながら言うブルー。近所の世話焼きオバチャンかお前は。


「確かにお前のパンツを見たのもおっぱいを触ったのも俺だ」

「そこまでやってたの?!」

「セクハラ少年じゃのう」

「……ポッ」


 言いたい放題言われているが、いいのだ。

 俺はあの時最も最善と思われる選択肢を選び、掴みとった。それが重要なのだ。


「責任は取ってやる。だが、その前にだ」

「……その前に……」



「その前に、前で何かの説明を始めたそうにスパロウマンが立ってるから、そろそろこのラブでコメっちゃてる空間はやめにしてもいい?」


 こっちのうるさい会話にすごくツッコみたそうに……、でも割って入るのも……という、遠慮と使命との境目で揺れているヒーローがそこにはいた。

 子犬のような目で『そろそろやめません?』と言いたげに見つめてくるヒーロー。それを見捨ててまでラブコメが出来るほど、流石の俺も人として腐ることは出来なかった。


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