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悪のビガクはこの手の中に  作者: 連開花
二人はプリティでヒーロー編
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第三十七話 ワルと不穏な雰囲気

「……酷いと、思いませんか?」


 とあるファミレスにて。

 ネコミミパーカーのネコミミをしゅんと垂れ下げながら、シャムシールは消え入りそうな声でそう言った。

 対面でいちごとチョコレートのジャンボパフェを、何一つ遠慮なく貪っていたブルーシェリフは、ようやく口を開いたシャムシールに対して口を拭きながら首を傾げる。


「……事の顛末は話したじゃありませんか……! ブラックメイルです……! いいえ、悪童太郎です……!」


 パフェに夢中になっていたあまり、前後の話の繋がりが見えなくなっていたようである。

 ブルーシェリフは「ごめんね」と一言謝罪を入れて、てへぺろ。


 シャムシールも元々彼女ののん気さは理解していたので、大して怒ることはしなかった。

 かわりにとばかりに、ブルーシェリフの虎の子のパフェを一口頂いておいた。彼女の使ったスプーンで。

 ちょっといけない気分になったことは、友人には伏せておこうと思った。


「うーん、ブラックメイルが"そういう人"なのは今に始まったことじゃないし、そう言われてもわたし困っちゃうなあ」

「……シェリフは甘すぎます……!」

「だって! わたしが甘やかさないでどうするの!」

「……いや、どうもしませんし……」

「全くもう全くもう、し……シャムちゃんは全然悪童太郎という人間をわかっていないので、わたしが懇切丁寧に指導してあげようと思います」

「遠慮願いたいのですが」

「まずですね、あの無駄にちょっとナルっちゃう美学というのがいいんですよ。そして微妙に美学を貫き切れずにころころ色々つけたしちゃう優柔不断な所がですね」


 ああ、また始まってしまった。

 これさえなければ彼女は良い友人なのだが、とシャムシールは思う。

 度が過ぎて悪童太郎……ブラックメイルを偏愛し過ぎてるきらいがある。病みそうな勢いのラブである。

 親友に誘われるがまま足を踏み入れた業界。しかし、ナルシストンとの件や自身の持つ魔剣の件といい若干早まってしまったかという気分が拭えなかった。

 何とも面倒な世界である。


「でねでね~」


 ブルーシェリフと離れたくないという一心は叶ったので、まあ全てがため息に変わるわけではない。

 わけではないのだがなあ……というもやもやした感情をシャムシールは否定できなかった。


 ***


「ぶぅぇっくしゅん!!」

「どうした、悪童君。風邪か」

「馬鹿は風邪をひかないはずなんじゃがのう」

「はは、本当何でですかねえ貴様メルー様今人をナチュラルに馬鹿扱いしやがったな許さねえ俺のこの手が真っ赤に燃えそう」


 いいか君達、馬鹿って言ったヤツが馬鹿なんですぅーっていう至言を憶えておきなさい。

 というわけで、今日もぐーたら悪の組織の俺達は秘密基地でぐーたらしています。

 そんな至福のタァイムの中で、どかどかどたどたと上の方からうるさい音を立てるのはいったい何者!?


「メ、メルー様ァッ!!」


 ずがあっと基地入口の扉から雪崩こんできたのは……姿形様々な怪人どもであった。

 見たことあるヤツらや、この前なんかシャムと一緒にぶっ飛ばしたヤツ、全く知らないヤツまで様々である。

 何? 俺達の休憩タァイムを邪魔するお前らは何? 何様なの?


「フゥッ……うちのかわいい首領様の名前を失礼にも叫びあげ、用件も告げず至福のおやすみタァイムを邪魔するとは余程死にたいようだなユーはショック」


 先ほどの怒りによって燃え上がる俺の拳の八つ当たりどころが丁度よく出来ちまったみたいだな。

 俺の燃え盛る太陽のような怒りがテメエらを叩いて砕く。例え悪く無くても叩いて砕く。


「ま、待て待て待て待てブラックメイル。我々は決して敵対しにきたわけではない。我らが大首領、メルー様ご健在の報を聞き、どうにかこうにか挨拶に来ただけなのだ!!」

「そうか」

「そうだ」

「それはそれとして扉をぶち破ったことと俺の八つ当たりでテメェらをボコる」

「理不尽なァッ!?」


 理不尽でも何でもねえよ。扉は特に理不尽じゃねえよ。当然の仕打ちだよ。

 全員の代表をしていた蜘蛛男と十数人の怪人どもを数十分かけてボコボコにしてから、基地内広間で正座させる。


「よし、後で扉は直しとけよ」

「「「「ヴァイ……」」」」


 発声が変になるほどとはちょっとボコり過ぎたか。


「んで、何用じゃ。蜘蛛の怪人ラーニョンよ。今更全ての悪を捨てたワシのもとに」

「ああ、おいたわしやメルー様……何があったのかは知りませんがそんな幼女のような姿になり……」

「いや、幼女の姿は気に入ってるんじゃが」

「しかも、生きるとは日々これ勝負也と毎日勝負下着を欠かさなかったあなたが……こんな猫さんパンツを穿いてしまっているとは……!!」


 ニャーン。

 まるでカーテンから日の光を覗くかのように、自然にメルー様のスカートをスッと託しあげていたラーニョン。

 コイツ、出来る……!!


「はわっ!? たわけが死ねぇい!!」


 強烈なかかと落としがラーニョンの脳天に突き刺さる。パンツに集中し過ぎである……。


「お前らなんなの? ワシに何か恨みを返しにでもきたの? 死ぬの? いいんじゃよウチの最低にして最高傑作のそこのドアホをけしかけても」

「待ってメルー様。なんですごいさり気無く俺のことまで罵倒してんの? 確かに今まさに一緒におパンツ様を拝見したけどそんなの大したことじゃないでしょ?」

「貴様のせいじゃあ!! この前のパンツ事件のワシの苦い経験を忘れたとは言わせんぞドバカ!!」


 ああ、なんかあったねそんなことも。詳しくは第十九話を参照してくれ。

 俺とメルー様のパンツを巡った大活躍が見れるからな。見返してくれよな。


「ああ、まだ引き摺ってたんっすね」

「今だけは太郎よ、お前にどうして爆破装置をつけておかなかったのかをワシは後悔せざるを得ない」

「今からつけるか? 日本くらいなら軽く吹き飛ばせるヤツでいこう。そうすれば彼も従順になるさ」

「待って、お願いだから俺に無駄に科学力の粋を結集するのと、俺様唯一の取りえであるところの自由(ふりーだむ)を奪うようなむごい行いを平然としようとするのはやめて。やめてください。

 つーか平然と核以上のものを作ろうとするのやめて……」


 コイツら本当慈悲も容赦もねえわ。僕泣きますよ? 大人と子供のマージナルラインに立つ良い青年が号泣しちゃいますよ? いいんですか?


「お、オホン。ま、まあメルー様に色々あったということは聞かずとも理解致しました。

 ともかく、前回の一件で大首領が無事であり、ティア様やイカルガ博士も息災だと知り、我ら一同、ラフレシアン首領とともにこの地に舞い戻った次第でございます」


 ラフレシアン……聞いたことのない名前だ。ドン・スカルといい、どうやらメルー様が総合トップで下に部隊を総括する部隊のようなものがあったのかもしれない。

 メルー様の過去か。あまり気にしたことなかったけど、こうなってくると俺も知っとかないとダメかな。過去編なんかに入られると主人公としての登場が危うくなるから、会話形式でその辺ヨロ。

 メルー様はというと、「フンム」と顎に手を当てて、微妙な表情を浮かべている。


「この地に来た理由はなんじゃ」

「……メルー様。最早世界征服を志すつもりがないことは重々承知しております。

 ですが、それならばせめて、ラフレシアン首領の世界征服を陰ながら手助けしていただくことは出来ぬかと。既にお耳に入ってると思いますが、最近ニュースにあがっているのは全てラフレシアン様の元、我々が行っている活動です。

 我々一同、どうしても……どうしても……」


 くっ、と涙をこらえるようにタメを作るラーニョン。なに? ラフレシアンは余命幾ばくもないとかそういう展開なの? なんなの?


「我々一同、どぉぉぉぉぉしても、首領のパンツによるパンツのための世界征服を叶えて差し上げたいのですッ!」

「帰れ」

「ああっ、メルー様。そんなご無体な!? ぶ、ブラックメイル! お前なら我らが一同の想い、共感してくれるのでは!?」

「いや、パンツによるパンツのための世界征服とか意味わからんし」

「ならば説明してやろう。そう……我らが世界を征服した暁には……」


 ぐっと拳を作るラーニョン。


「全ての女子がおパンツ(言葉通り)で歩ける世界を作り上げるのだ……! スカートとズボンなど弱者の戯言よ。そんなもののない、開放感に満ち溢れた世界にし、ついでに我々はそのパンツを奪い去り素敵な楽園を」

「帰れ」


 メルー様がイカルガさんから渡されたリモコンのボタンを押すとあら不思議、ラーニョン達の立つ床が抜けて突然落とし穴に。


「「「「なんだとぉおおぉぉぉぉぉう!?」」」」


 素っ頓狂な声を上げながら、変態どもは消えていった。

 ……なんだったんだ、あいつら。


「最近の変態騒ぎは、やはりあやつらの仕業だったのか……世界征服の志しは評価してやるんじゃがな」


 どこに繋がってるかも知れぬ穴をのぞき込みながら、メルー様が心底微妙そうな顔で呟いた。


「手助けしなくていいんですか?」

「なんじゃ太郎。お前、ちょっとその世界いいなとでも思ったのか?」

「俺も確かに思春期の男の子って感じのスケベ心に自覚はありますけど、そんな隠れないエロスをエロスとは認められないんで別に」

「ホントにか?」

「……興味はあるッ!」


 男の子だからね。仕方ないよね。


「まあメルー様がいいなら別にいいんですけどね。でも、古い友達は大切にすべきみたいなこと言うでしょ。過去編に入るとめんどくさいからメルー様の過去を深く詮索はしないけど。過去を深く詮索はしないけど! 優しい俺は取り敢えずそう聞いておくのでした」

「少しも気をつかう気ないじゃろお前……ハァ~……。まあワシの昔については、そのうちちゃんと語ってやるわい。

 で、まあ本題じゃがな。太郎。ワシは個人的な方針として動く気はさらさら無い」

「私情で?」

「うるさいわい。若干パンツ絡みが嫌なのもあるが、それ以上にワシは個人的な悪の組織として動くつもりはあっても、大首領という立場で動く気は無い。手助けするつもりもな。

 だが……ちぃーとばかし気になることがあってのう。太郎、助っ人という名目であいつらを見ててくれんか」

「え、いいの? メルー様パンツ世界だよパンツ世界。俺が手伝ったら多分正義の味方全部ぶっ飛ばして楽園作っちゃうよ?」

「ハッ、寝言は寝て言え。ま、好きにやってよい。ラフレシアンの動向にだけは気を付けておけ」


 それだけ言うと、やれやれと疲れたように息を吐きながら、メルー様は自室に篭ってしまった。


「……メルー様。やっぱり昔の部下達のこと気になってんのかな」

「いや、どうだろうな。どちらかといえば、ヤツらの最近の動向に引っかかるものがあるのかもしれん」

「動向、っすか」

「ああ。メルーが行方をくらませていたのも、最近表舞台に立ち周りに知られたのも事実だ。

 だが、それからのラフレシアン達の行動とメルーを担ぎ上げる手筈が早過ぎる……。それを本気の行動がゆえの早さと捉えるべきか、或いは……」


 い、いつになく真面目な話だ。何というかこう……話が長丁場に入りそうな雰囲気すらするッ!

 俺はごくりと唾を飲み下して、覚悟を決めたようにイカルガさんの名前を呼んだ。


「……イカルガさん」

「悪童君。覚悟は出来ているという雰囲気だな」

「ええ……俺、パンツは見えてないからこそイイ派でどうせなら上着のない世界の方を推進したいんですけど、ヤツらの助っ人としてどうすべきでしょうか」

「そうだな。まずはその腐った脳みそを私が取り替えるという方法を推奨しようか」


 天才は理解されないものだからね。やっぱり仕方ないね。


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